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とあるハイヤー乗務員の運命  作者: 三笠 大和
10/24

9 再転職

「社長、お話ししたい事がございます。」

内定ももらった。

入社日も決まった。

失うものはこの会社では最早ない。

胸ポケットに忍ばせた携帯電話の録音機能をオンにして、社長室に光雄は入った。

「中林さん、それは業務の事?それとも……」

「業務の事と言えばそうです。」

「じゃあ、渡辺室長を通して頂戴。」

冷淡に社長は突き放そうとする。

しかし、光雄は怯まず言葉を続ける。

「お断り致します。あの様な無能なイエスマン……、いえ、イエスウーマンでしたか、とにかく、そんな奴に私の意思を曲解されて報告されるのはゴメンです。」

「⁉︎」

光雄は余り自己主張をするタイプではなかったが、今回はストレートに自分の感情表現をした。

あの一件の事以外、光雄は自分の手中にあると考えていた社長は、光雄の胸ポケットから出された『退職届』と書かれた封筒を見て、驚きの顔をした。

『退職願』ではなく、『退職届』である。

「今まで大変お世話になりました。また、耐え難い屈辱の日々、一生忘れることはないでしょう。」

「そんな……」

所詮、世の中は金である。金で手に入らないものはない。そして、金があれば、相手の大事なものさえ手放させることが出来る。

現にそうして私の前の夫は別の女を手に入れ、私の心を彼から手放させた。

それは金の力。

金があれば、手に入れたいものは手段を問わず手に入れられる。

現実、光雄の妻は金で動いたではないか?

この様子だと、私の計画は光雄には伝わっていないようだ。ばれていない。

話すべきか話さぬべきか。

社長がそう考えていた時、光雄は言葉を続けた。

「まず、貴女は私を私的に手に入れたいと考え、全く畑違いの部門に個人的感情で、人事異動させた。

会社を大きくするビジョンという名の下にね。

その時に貴女は解っていたはずだし、いつだかはっきりおっしゃっていましたよね。

私には向いてない仕事だと。

向いてない仕事でも実績を挙げれば、会社は潤う。それはそれでいいでしょう。

しかし、貴女の思惑通り私は実績を挙げられなかった。

そして貴方は計画を次の段階に進めた。

家族の生活を盾にして、真綿で首を絞める、そんな事がまともな人間に出来るんでしょうかね?


残念ながら、私は貴女の愛人契約という誘いには乗らなかった。

貴女の青写真通りにはいかなかった。」


光雄は社長をじっと見据え、とつとつと語る。


「結果、貴女にとって、私は不必要な存在、忌み嫌う存在となり、閑職に追い込む他なくなったのではないですか?」

「違う!私は……私には貴方が必要だったの。こちらを向いて欲しかったの。だから…だから…」

「手段を誤りましたね。とにかく、自分自身を見誤らない為にも、退職させて頂きます。」

冷徹な言い方をしたかな?そう思いながらも発言を修正する事はなかった。

社長は、ポロポロ涙を流しながら、自分の計画の全容を話そうとした。

「光雄さん、実はね…」

「もういいんです。尊敬していた人からの言い訳は聞きたくありません。」

光雄は社長の言葉を遮り、ボソッと呟いた。

「そんな手段を取らなくても、生涯貴女のそばにいたいと思っていたのに。バカめ」

社長は脳天に何かが落ちてきたような衝撃を受けた。

今まで私のしていた事はなんだったのだろう?何のためにこんな事をしていたんだろう?


呆然とする社長に対し、光雄は質問する。

「退職の日程はそちらの届けに記載してあります。

業務の引き継ぎは、ナンバー2の太田ではなく、島村に少しずつですが、行っております。

社内手続きは、渡辺室長に問い合わせば良いですか?」

「わかりました。それでは残された日、全力で業務を行って下さい。」

社長は普通の退職者にかける言葉位しか光雄に声をかけられなかった。


渡辺に話をし、退職までの要望を伝えた。

使用していなかった有給休暇を全て使用すること、部署の引き継ぎは、自分に対して懐疑的な態度を取る太田ではなく、新卒3年目の島村に行う事。

二つ目の要望は、光雄が責任者という事もあり、すんなりと了承されたが、有給については、そのような退職をした者がいないという事で、難色を示した。

しかし、胸ポケットから出された録音中の表示のある携帯電話を見ると、黙り込んでしまった。

「この卑怯者……」

「どちらがでしょうね?」


こうして、2社目の会社を後にする事となった。


本日の投稿はここまでとします。

お読み頂いた方々、ありがとうございます。

ハイヤーという題名ですが、次回からハイヤー編となります。

聞き伝えの内情なので、何か間違っている事もあるかと思いますが、ご容赦下さい。

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