81話 巨人妖精への大反撃
冥界。巨大化した妖精を倒すべく、マモルは空高く飛んで力を蓄え始めた。
カイは巨人妖精を足止めする為に、氷の巨人を創り出して相手と対抗していた。
巨人妖精に手こずっていたカイだったが、そんなカイ操る氷の巨人の頭上になんと、植物操作と異常強化の能力を持つ若者、ルキが立っていた。
「水を扱えるのなら、幾らでも上手いこと応用効きそうなのに……当の本人がこれじゃあ、オレも静かに寝てられねぇよ……」
「ルキ!? なんでここに!?」
「お前達があまりにもモタついてたから横槍入れに来たんだよ。ったく、慣れねぇからってダセェ戦い方しやがって……」
乱暴な口調で話す、衣装がボロボロのルキの手元には、ツタ状の植物が伸びている。
よくよく見ると氷の巨人は、ルキの伸ばすツタで覆われて完全に補強されていた。
「ツタが全身に……いつの間に……!?」
「オレはこの氷ゴーレムを操る! カイ、お前は能力だけ使え! あの妖精を止めることだけに集中しろ!」
「でも……ルキ、そもそも身体は大丈夫なのか……?」
「ヴィオさんのお陰で動けるまで回復したから平気だ! それより! あの妖精を何とかする方が先だ!」
「わっ、分かった!」
「行くぞっ!」
ルキは全身に力を込めると、手から幾つも伸びるツタを強引に引っ張り上げて氷の巨人の操作を開始した。
ルキの異常強化と植物操作の力を器用に扱い、氷の巨人はすぐさま動き出した。
「うわわっ!?」
外部から伝わる振動にカイが驚く中、氷の巨人は軽やかな足運びで妖精に急接近。
氷の巨人は走りながら回転し、なんと遠心力を乗せた回転蹴りを巨人妖精に喰らわせた。
『ゲェェエッ!?』
不意を突かれたのか、巨人妖精は顔面に打撃をモロに喰らう。
「今だっ!」
脚が妖精の顔に触れた瞬間を見計らい、カイは脚に全力の力を込めた。
『ギェ!?』
不意を突かれ、全力の氷の力まで受けたことにより、妖精の顔面は瞬く間に凍りついた。
「よしっ!」
僅かに隙が生まれた巨人妖精に、ルキは更に攻撃を仕掛ける。
凍りついた顔面の顎を目掛け、下から拳を振り上げてアッパーを仕掛け、見事に命中させた。
『ギェ……!?』
全力の拳と氷の力を再び喰らい、巨人妖精は顔面をさらに凍らせ、後方へと大きく仰け反った。
「まだまだぁ!」
『ギィイ!』
ルキは氷の巨人を操作して追撃を仕掛ける。
が、対する妖精は不自然な姿勢のまま瞬時に頭を持ち上げ、即座に体勢を立て直した。
『ギヒヒ!』
顔面に蹴りを入れようとする氷の巨人に対し、巨人妖精は嫌な笑みを浮かべると、半身を横に逸らしながら片手を構える姿勢に入った。
僅かな動作で氷の巨人の蹴りを避け、すれ違い様に相手の背後に魔法を放つつもりだ。
「あっ……!」
カイは驚き、思わず動揺の色を見せる。しかし頭上にいるルキは余裕の笑みを浮かべていた。
氷の巨人の蹴りが飛び出す……かと思いきや、半身を横に逸らす妖精の手前で、氷の巨人は蹴りの姿勢のままピタリと停止した。
『ゲッ!?』
ルキ操る氷の巨人のフェイントにより、巨人妖精は僅かに戸惑いを見せた。
「そらよっ!」
ルキは氷の巨人にまとわりつくツタを素早く操作。
氷の巨人は脚を軸に上半身を高速で回転させると、氷の巨人の半身は瞬く間に妖精の元へと急接近した。
妖精の目と鼻の先まで迫った氷の巨人は、胴体を回して片手を伸ばし、巨人妖精が構えた右手を掴み込んだ。
「バレバレの見下ししてんじゃねーぞ!」
ルキは一際大きな声を上げると、巨人妖精に対して全力の背負い投げをかました。
巨人妖精は凄まじい力により宙を舞い、圧倒的な力と凄まじい遠心力で地面に強く叩きつけられた。
『ギャアッ!?』
巨人妖精は目玉が飛び出しそうなほどに目を見開き、開け放った大口から短く悲痛な悲鳴を上げた。
「よっ!」
地面に叩きつけられたところを見計らい、カイは妖精に力を流した。
『ゲッ……!』
地面を背に倒れ込んだ妖精はそのまま氷漬けになり、身動きが取れなくなった。
「すごい! 妖精を圧倒してる! ルキすごいな!」
「逆にお前は足りなさすぎだっつーの! つーかお前! ゴーレム操作するの初めてだろ! ぶっつけ本番で慣れねぇことしてんじゃねーよ!」
褒めるカイに対し、ルキは全力でカイに怒声を浴びせる。
「どんな非常時にもすぐ対応できるよう、お前はもっと技のレパートリー増やせ!」
「分かった!」
「素直なのは評価するがもっとやる気見せろや!」
「おう!」
「返事変えただけじゃねーかよ!」
『ギギ……!』
そんなルキとカイのやり取りを、巨人妖精は憎らし気に眺めている。
「オレ頑張る! ルキはすごく詳しそうだから、具体的に教えてくれたらすごく助かるよ!」
「何でオレが教える流れになってんだ! そもそもさっきまで敵対してた相手に教えを乞うなよ!」
ルキの言う通りである。
『ギィ……』
2人がやり取りに夢中になっている隙に、氷に閉じ込められている巨人妖精はおもむろに口を開ける。
「ルキは悪いやつじゃないってこと、オレ分かってるよ!」
「少しは人を疑うってことを覚え……!」
氷の巨人が射程範囲に入ったところを見計らい、妖精は肺の空気を利用した強力な空気弾を口から放った。
2人の会話に割り込むかのように放たれた空気弾は、妖精の顔面を覆っていた氷を破壊して一直線に飛び出し、物凄い速度で氷の巨人へと飛んでいった。
狙いは氷の巨人の頭部にいるルキだ。
「引っかかるか間抜けぇ!」
しかしルキは相手の反撃を読んでいたらしい。
ルキの操作により氷の巨人は即座に頭を傾け空気弾を躱した。
「その煩せぇ口を塞いでやるよ!」
『ゲッ!?』
ルキは氷の巨人を覆っていたツタを妖精目掛けて複数本伸ばした。
『……!』
大量のツタは妖精の口に飛び込み、口元を完全に覆い尽くした。
これで妖精は一言も発することができなくなったようだ。
「危なっ! また助けられたな……ルキ、ありがとう!」
「カイ! お前はもっとしっかりしろ! オレがいなかったらどうするつもりだったんだよ、全く……」
「ごめんなさい! でも、ルキが居てくれたから順調に時間稼ぎは……あっ!」
カイの出した雲により暗く澱んでいた空に変化が現れた。
「空から光が……!」
雲の一部がやけに明るい。光源からは凄まじい力と熱量を感じる。
魔力を含む多量の雲は、光源が差し込む一帯を中心に次第に薄くなっていき、やがて冥界の空が露わになった。
雲が消えた空の上で、月のように巨大な火炎球が燃えていた。
その火炎球の真下にはマモルの姿があり、地面で凍りつく妖精を無言で睨みつけていた。
「マモルのチャージが上手くいったみたいだ!」
「随分と力を蓄えたようだな」
雲の上にいるマモルは魔力を十分蓄えられたらしい。
「あら素敵」
別の巨人妖精を相手に戦っていた、銀の巨人鎧を操るシロガネも空を見上げていた。
「冥界に新たな太陽が生まれたのかと勘違いするほどに見事な力ね」
シロガネは嬉しそうな反応を見せながら、巨人妖精の胸倉を掴み頬を何度も殴りつけていた。
「なら、この子も一緒に燃やしてもらおうかしら」
そう呟いたシロガネは、魔力から生み出した銀の鎖で目の前の巨人妖精を拘束。
『ギィ……』
銀の腕に掴まれて少し弱っていた妖精だったが、銀に巻かれた妖精は更に力が抜けたらしい。
先程まで見せていた元気は鳴りを潜め、少しぐったりとしていた。
「あっ、シロガネさんの方も妖精を拘束できたみたいだ!」
この場にいる巨人妖精2体は拘束済み。後は妖精2体をまとめ上げ、マモルの放つ火炎球で巻き込み消し飛ばす。
マモルの火炎球により、その場にいる誰もが勝利を確信していた。
しかし、同じように火炎球を目の当たりにした、氷漬けの巨人妖精は態度が一変。
『…………!』
巨人妖精の表情は酷く歪み、それを見たルキは途端に顔を強張らせた。
「マズい! カイ構えろ!」
「えっ?」
カイが理解するより先にルキが動いた。手に持っていたツタを引き上げ、氷の巨人に防御の姿勢を取らせた。
その瞬間。
『────────ッ!!』
氷漬けの巨人妖精は口元に纏わりつくツタを全て噛み砕き、全身にまとわりついていた頑丈な氷を全て破壊した。
『ギャァアアアアッ!!』
一瞬にして自由の身となった巨人妖精は悍ましい悲鳴を上げ、とんでもない速度で起き上がると氷の巨人を目掛けて殴り掛かってきた。
「おわっぶなっ!?」
ルキが咄嗟に構えたので、氷の巨人は妖精の鋭い一撃を防御できたようだ。
「なっ……! アイツ、急にどうしたんだ!?」
「やばい! アイツ恐怖に駆られて暴れ出した! あの妖精は恐らく、マモルの技見て自分の最期を想像したんだ!」
「ええっ!?」




