38話 慢心
黒パーカーのリトの仕業により、カイとマモルは異空間に閉じ込められてしまった。
頼りない街灯に照らされた薄暗い公園の中。マモルの周りには奇妙なゴーレムが、カイの前には光の能力使いのリトが立ちはだかる。
「カイ、戦いなよ」
「リト! どうしても戦わないとダメか!?」
一方的に戦うよう促すリト。カイはいまだに躊躇いがあるのか、リトとの対話を試みている。
「戦わないと僕は満足しないよ。僕はね、君を戦いの中で負かさないと気が済まないんだ」
リトは光の球を片手に話を続ける。
「争いは絶対に避けられないよ。もし、それでも戦いを避けるのならば……あのゴーレムにマモルを潰させるよ」
「!」
リトの宣言にカイは目を見開く。
「ほら、マモルを見てみなよ」
リトの言葉を効いたカイは、視線を逸らしてマモルの方を向いた。
「はぁあっ!」
カイが遠くから視線を向ける中、マモルは両腕に魔力を込め、今出せる本気の炎の一撃をゴーレムに向かって放った。
凄まじい炎は数体のゴーレムに命中。ゴーレムの身体は炎により燃え出し、やがてその場で消滅した。
「ようやく倒せた……!」
マモルの全力により、倒せたゴーレムはほんの数体。
対するマモルはだいぶ体力を削られており、さらに先程の全力の炎により魔力もだいぶ減っている様子だ。
「マモル……!」
今のマモルでは恐らく、あのゴーレムを倒し切るのは困難だ。
すぐにでも助太刀に向かわなければマモルが危ない。
「どうしても、戦わないといけないわけか……」
「ようやくやる気になったみたいだね。じゃあ再開しようか……運命を決める決戦をっ!」
カイが戦闘体制に入ったところで、リトは再開の合図として光球をカイに飛ばした。
「よっ!」
カイはすぐさま駆け出して光球を避け、リトを目掛けて氷の結晶を飛ばした。
「ふん!」
リトは氷を光球で消し飛ばす……が、結晶は弾けて周囲に散らばり、散らばり地面に落下した破片はそこそこ大きな氷の結晶を生み出した。
「うわっ!?」
破片の一部はリトの足元に飛び、片足が氷で覆われた。
「くそっ!」
リトは片足を固める氷を消し飛ばすため、手元からすぐさま光球を生み出して構える。
「今だっ!」
しかし、その僅かな隙を狙ってカイの追撃が入った。
「うぐっ! アイツ……!」
リトは必死になって攻撃を弾いて反撃するも、リトの光球はカイに掠りすらしない。
(さっきから攻撃がアイツに当たらない……!)
カイはリトの攻撃を的確に避けていた。
それもそのはず。リトの攻撃は単調で、前動作を見ればおおよそ何処に球が飛んでくるのか分かるからだ。
どれだけ技の速度が速かろうが、本人の動作が分かりやすければ意味がない。
(何で……! 僕の光はどんなものより速いのに!)
リトは慢心していた。
光の速さなら相手は絶対に攻撃を避けられないと思い込み、不測の事態や想定外のトラブルが起きた時の対処法などは一切考えていなかった。
「はあっ!」
その間もカイは、リトの光球を避けては氷を飛ばし、リトの足元に氷の結晶を生み出して彼の動きを制限していく。
リトの動きが制限されれば、攻撃の予測は更に容易になってくるからだ。
「くそっ……!」
リトは一方的に追い込まれていく。技は碌に当たらず、カイの攻撃を撃ち落とすも何発か打ち損じる。
「ああっ!?」
ついに、リト本人に氷の一撃が入った。顔以外は氷で完全に覆われ、身動きひとつすら取れなくなる。
仮に氷を破壊できたとしても、リトの周りは氷だらけ。まともに動き回ることすらできないだろう。
そんな体の向きを固定されたリトの前からカイの姿が消えた。どうやら死角に入ったらしい。
「おい! ちゃんと戦え!」
一方的に追い込まれたリトは、まるで駄々をこねる子どもように喚き散らし始めた。
「真っ向から勝負せず! 遠くから投げてくるだけの卑怯者が! 戦えっ! 僕と……っ!?」
そんな喚き散らしていたリトの真正面に、ついにカイが姿を現した。
多量の魔力が込められた氷の力を片手に宿し、無表情のままリトに詰め寄った。
「なっ……!?」
「リト、ゴーレムを止めろ」
リトの反撃を喰らわぬよう注意を払いつつ、カイは力を手にリトに詰め寄る。
因みに、カイの片手に込めた力は相手を凍らせる程度の力しかない。しかし、リトへの脅しには非常に有効だったようだ。
「マモルへの攻撃をやめさせろ」
「わっ、分かった……! やめさせる……! だから、それだけはやめて……!」
カイの片手に集まる多量の魔力に怯えたリトは途端に弱気になり、リトはすぐさまカイの指示に従うと約束して何度も頷いた。
「えーっと……ゴーレム! 消えろ!」
リトがそう叫んだ瞬間、ゴーレムはマモルの前で呆気なく散り始めた。
「……!」
砂のようにサラサラと溶けていき、やがてゴーレムはマモルの周りから姿を消した。
「終わったか……」
ゴーレムが目の前から消え失せ、マモルはようやく構えを解いた。
「全部……! 全部消した……! だからカイ、助けて……!」
「……分かった」
必死に懇願するリトにカイは頷くと、リトを覆う氷の結晶を全て消滅させた。
辺りに生えていた結晶も全て消え、カイは手元に込めた魔力を霧散させた。
「あ、ありがとう……」
「リト、もうこんなことするなよ!」
「は、はい……ごめんなさい……」
カイはリトに対して軽く叱責する。対するリトはすっかり弱気になっていた……ように見えた。
「ほ、本当にありがとう…………馬鹿正直に解放してくれてっ!」
「!」
しかしリトは諦めていなかった。リトは大声で叫ぶと、目の前にいるカイに向かってすぐさま両手を構えた。
「消し飛べえっ! アハハハハ……ハァッ!?」
しかしカイは完全に警戒を解いていなかった。
リトが両手を構えたその瞬間、カイはすぐさまリトの懐に入り込み、構えられた手を強引に掴んだ。
「ひっ!?」
リトの手は瞬時に凍り漬けになり、リトは驚き動揺する。
「あーあ、思った通りか」
建物の上から2人の戦いを眺めていた、花束を背負った黄髪の若者ルキはあっけらかんと言い放った。
「えー。ルキってば、リトくんのこと全然信用してないじゃーん。かわいそ〜」
ルキの隣にいた黒髪の男性カゲマルは、ルキに気軽に話しかける。
「カゲマルだってアイツのこと見下してたろ」
「ルキと違ってそれなりに評価してたもーん」
「嘘つけ」
2人は建物の上でお互いに軽口を叩き合う。
一方リトは、能力を雑に放出して何とかカイから離れる。
リトは慌てて反撃に転ずるも、半狂乱のまま放たれた技はどれも中途半端な出来だった。何とか飛ばせた光球も、魔力を巡らせたカイの腕に弾かれて呆気なく霧散する。
勝負の行方は誰が見ても明らかだった。
「勝負つきそうだね……ねえルキ、あの2人はどう思った?」
「大雑把な問いだな。まあ、簡単にまとめるなら……あの黒パーカーは、自分をまともに客観視できていなかった」
カゲマルの質問に、ルキは正直に自分の見解を述べる。
「自分は最強と誤認して、周りを自分の物差しで比べてすぐに見下した。強くなりたい理由も曖昧で中身も薄っぺらだった。そんな奴が強くなれるわけがない」
「じゃあカイくんは?」
「対するスカジャンは……自分も周りもよく見て判断しているように見えた。自分自身でも気付かないうちに相手の内情を察するような、そんな優れた感覚を持っている……と、オレは感じた」
「すごく評価するね」
「当然。現にアイツは、黒パーカーの姑息な反撃を読んで即座に動きを止めたろ」
「すごく速かったよね」
「なんとなくだけど、アイツからは曲げらない信念と、強くなる理由をひしひしと感じた」
ルキはカイを遠くからじっと見つめる。
「ただ強くなりたいとほざく奴より、目的に向かってひたすら突き進む奴の方が強いのは当然」
そこまで述べたルキは、地面に倒れたリトに冷たい視線を送りながら一言吐き捨てた。
「自分自身を鑑みない限り、アイツは絶対に強くはなれない。身の程弁えろよ、黒パーカー」
ルキがそう吐き捨てたところで、カイはリトの腕を掴んで懐に潜り込む。
そしてカイは、魔力を巡らせた腕力でリトを持ち上げると、リトを全力で背負い投げた。
「うゎあああああっ!?」
簡単に持ち上げられたリトは宙で半回転。リトはそのまま地面に倒され、地面に仰向けになった姿勢のまま全身を凍らされたのだった。
仰向けにされた上、氷により全身を封じられたリトにはもはやなす術はない。この場はカイの完全勝利に終わった。
「……つまらない試合だった。帰ろ」
勝負が決まった後、ルキはその場から退散するために踵を返してゆっくり歩き出す。
「ルキってば優しいね〜」
「何だよカゲマル、藪から棒に」
「ルキってばさ、あの子を放って置けないからって、作戦に組み込む形でわざわざ構いに行って、最後はあの子達にリトくんを託したんでしょ?」
「言ったろ。アイツは作戦の駒としてとして向こうに押し付けたと」
「またまたぁ〜素直じゃないんだから〜」
カゲマルは片手で口元を覆いながらルキを揶揄う。
対するルキは、無表情のままカゲマルをじっと見つめる。
「ルキ、どうしたの?」
「……カゲマル、今日の晩御飯は新鮮なタマネギがたっぷり入った焼きそばな」
「あー! 嫌なことあるとすぐそうやって回りくどい反撃するー! 僕が新鮮なタマネギが沢山入った焼きそば大嫌いだって知ってそーいうことするんだ!」
「お前から仕掛けたんだろ。晩飯にシャキシャキタマネギ入れられたくなかったら素直に謝罪するんだな」
「ごめんってばもー! だからタマネギ入れるのだけは勘弁してー! せめてタマネギは薄く切ってクタクタになるまで炒めてー!」
そんなくだらないやり取りをしながら、2人は建物の上から即座に退散したのだった。




