5.春なのに
お久しぶりです!
やっと投稿できました!
前の話と合わせて読んでいただけると嬉しいです!
バス通りから中に入った静かな住宅街に現れる土塀、その角を曲がったところにある重厚な門。すっかり通い慣れた道を薫は今日もさくさく歩いた。しかし、門の前まで来て、一度歩みを止めた。ふぅと一つ息をはいたあと、よし!と気合を入れてその荘厳な門をくぐった。道には慣れたが、この門だけは何度来ても慣れない。というより、なぜか、襟を正さなければ、という気になるのだった。
門から玄関までの道のりで、薫は季節が確実に進んでいるのを感じていた。まだ手は悴むしマフラーも必須だが、日差しが春に向けて明るくなっていた。
(そういや暦の上では春なんだっけ)
「もうずっと、咲いてはないみたいだけど」
ふいに初めてこの家を訪れた日を思い出した。ワイドショーでも梅の見頃ですとか言っていたのに、この家のあの梅だけは確かに咲く気配がなかった。
玄関の呼び鈴を鳴らし、カラカラと扉を開けた。真也からは、いちいち鳴らさなくていーよ、普通に入ってこいって、と言われてはいるがさすがにそれは気が引けるので、薫は今でも毎回呼び鈴を鳴らすようにしている。
「ごめんくださーい」
玄関から少し離れた居間に聞こえるように声を張った。すると真也がやって来ていつもの調子で薫を招き入れた。
「おう、来たか。上がれ上がれー」
真也は最初の頃こそ戸惑って、
「で、モデルってなにすりゃいーんだ?……とりあえず、脱ぐか?」
とか訳の分からないことを言っていたが、もうすっかり慣れたものだった。
じっと凝視されても顔を向けないところや、急に今の角度保ってと言われてもすぐに動きを止められるところを見ても、しっかりモデルの役割を果たしている。
(人間ってちゃんと成長するんだな……)
慣れてきた真也を見て、薫はちょっとだけ失礼なことを思った。
今日の真也は薄手のロンTにデニムという部屋の中にいても少し寒さを感じる服装だった。生地が薄い方が描きやすいだろうという薫への配慮が見てとれた。
そして、そんな気遣いも真也らしいと思えるくらいには2人の時間は積み重なっていた。
薫はクスッと笑い、真也に尋ねた。
「寒くない?」
「ここなら日差しがあるから」
と、ベッドの上の窓枠に腰掛けた。
「危ないよ」
薫は反射的に答えたが、真也はニヤっと笑い、ノックするようにガラスをコンッと弾いた。
「窓開けないからへーき」
そう言って真也は外に目線を移した。薫は真也をじっと見ていたから、真也の視線が僅かに下がったことに気づいた。真也の部屋は2階だが、庭に面している。
見ているんだ、あの木をー。
何度も来ているのに、なぜか2人ともあの木について話すことは無かった。真也がモデルをすることになったきっかけも梅なのに。
咲かないー。
そう言った真也の顔を思うと、なんだか聞いてはいけない気がして、薫も自分から話題にするのはやめておこうと思っていた。それなのに今日の真也は聞いて欲しそうに見えた。
何か言おうと薫が口を開いた瞬間、声を出したのは、真也の方だった。
「もう春なのにな……」
真也はあの木を見つめたままで、表情は読めなかった。
「咲かない、って言ってたよな……」
「詳しく知らねぇけど、20年は咲いてないみたいだな」
「……20年?」
思わず、聞き返していた。
20年ー。
(人が一人、大人になる時間だ)
「そんなに?病気か何か?」
「いや……樹木医にも見てもらったけどそんなんじゃないらしい」
真也は事実を淡々と話した。
視線を上げるとガラスに反射していたのは動揺する薫の姿。
真也は振り返り薫を見て、ふと気づいたことを口にした。
「そういや、お前もハタチか」
知らず、薫の心臓がどくんと大きく脈打った。
言葉を返すことができず、代わりに口元を少し緩めて返事をした。
ー心臓が、いつもより大きな音で鳴っている気がした。
読んでいただいてありがとうございます!
またしばらくあくかもですが、投稿の時はお知らせいたします。
皆様もお元気で!




