10.ノック
ーーコンコン
薫は、先に上がっててくれ、と言われて1人真也の部屋で待っていた。
真也なら自分の部屋に入るのにわざわざノックなんてしない。
薫は首をかしげて聞いてみた。
「真也……?」
すると、真也よりも高い声とともにひょこっと見慣れた顔が現れた。
「残念でしたー!私だよーっ!」
「真由ちゃん」
「お兄ちゃんが、俺が行くまで薫ちゃんの相手よろしくって」
「え、でも、真由ちゃんこれから出かけるんじゃないの?」
流行りのメイクをした真由は少し大人っぽく見えて、
華やかな街を歩くのにはふさわしい姿だった。
真由はにっこり笑って明るい声で答えた。
「まだ時間あるから平気だよ!それより、薫ちゃん、絵のモデルにお兄ちゃん選んだんでしょー?良かったの?あんなやつで」
薫は真由と話すたび、こういうところが真也によく似ていると思っている。
明るくて、話しやすい。相手に気を遣わせないところもそっくり。
薫は真由につられてフフッと笑った。そして、目を閉じてすぅと息を吸った後、静かに言った。
「……うん。自分でも納得がいく絵が描けた……と思う」
それから、少しだけ迷うようにして、付け加えた。
「……多分、真也じゃなきゃダメだったんじゃないかな……」
真由は驚いたように少し目を見開き、そっかそっか、と首を縦に振った。
「あんなガサツな兄と仲良くしてくれて、妹としては嬉しい限りだよー」
しっかり者の妹の発言に、今度はお互い顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「なんだぁ?やけに楽しそうだな」
いきなりガチャッとドアが開いて、今度は本当に真也が現れた。
ついさっきの真由が言った“あんな”と“ガサツ”という言葉が頭をよぎり、
今度は真由と二人声を出して笑ったのだった。
藤原家の輪郭がだんだんと見えてきたのではないでしょうか?
良い兄妹だなぁ




