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タイムスリップコップ


田舎のばあちゃん家を手放す。その前に家の物をできるだけ処分するその作業のさなか、タイムスリップというのかな? そんな出来事に遭遇するなんて、思いもよらなかった。

「あゆちゃん、ご苦労さん」

粗大ゴミの搬出から帰ってきた叔父さんが、帰り道で買ってきた昼食をテーブルの上に出しながら声をかけてきた。

「ちょっと早いけどお昼にしよか。ねぇさん、皿とか出してもらえへんか?」

「はいはい」

色も大きさもバラバラの皿がいくつもテーブルに並ぶ頃、二階で作業していた父が降りてきた。

「にぃさんおおきに。物置の中ガラクタばかりやったやろ?」

「ガラクタかどうかわからないが、中を見て欲しい物があったよ」

そう言いながら段ボールの中から取りだしたのは、両手の平の上にのせられる大きさの長方体の箱で……

「あれ? わたしの名前が書いてある」

「私達のもあるわね」

「ワイのもある。なんやろ?」

それぞれの中に入っていたのは色もサイズも違うコップ、コップ、コップ……

わたしが自分の名前が書かれていた箱の中のコップを手にしたとたん、おばあちゃん家の中がセピア色に染まった。

トタトタと軽い足音。そうしてその足音の先に現れたのは……

「わたし?」

真新しいランドセルを背負い、おじいちゃんとおばあちゃんの目の前でくるくる回る。そうしてみんなで大きなテーブルを囲んで座り、わたしの目の前に置かれたコップは、今まさにわたしが手にているそれで……

「これはあゆちゃんのコップ。おばあちゃん家に来たときは、このコップを使いなさいね」懐かしいおばあちゃんの声に、わたしが元気よくいただきますの挨拶の声が重なり……

セピア色の幻は消えた。

「……ああ、あんな時があったわね」

母の呟きに、父、叔父さんがうなずくのを見て、あたしが小学生になったばかりの頃の幻を見ていたのは、あたしだけではなかったことを知った。

「……じゃあ、私達の名前が書かれた箱の中のコップは?」

父と母がそれぞれコップを手に取ると、再びおばあちゃん家はセピア色に変わった。

今のわたしより、4、5歳年上の男女が並んで座り、その前に母に似た人と同年代の男。

「どうか、僕たちの結婚を認めてください」

頭を下げる若い男と、その側の若い女。

「これは、私達が結婚の承諾を得に、この家を訪れた日だね」

……だとしたら、腕を組み、むすっとしている男の人はおじいちゃんで、その横でとりあえず一緒にご馳走をいただきましょうと宥めているのが、おばあちゃん?

……おじいちゃん、おばあちゃん、こんな人だったんだ。

わたしが今付き合っている彼を、わたしの父と母に会わせたとき、どうなるのかしら。

そんな空想をしている間に、若い父母の幻は消えていた。

「……あの後、にぃさんが帰った後、親父のやつ、珍しく酔っ払っとったなぁ……」

叔父さんが遠い目をしながら、叔父さんの名前が書かれた箱の中のコップを手にすると、今度は今のわたしと同じくらいの男の幻が現れた。

「……あゆちゃんの年頃だった頃のワイや」

先程の幻よりも若いおじいちゃん、おばあちゃんの向かいに座る男は、今の叔父さんの顔立ちに似通っていた。

「……オカン何度も言わせんねん。今日やて、なんとかバイト休んで一足早い母の日のプレゼント持って来とるんやからな。ねぇさんもそれなりに忙しいっつーてたわ」

そう言いながら、ラッピングした箱を渡し終えたところで幻消えた。

「……オカンはちょっとした祝い事や祭りのたび、ワイらに家に帰ってくるよう言ってたな……」

――そうだった。わたしが母と共に大学の進学の報告したとき、よう家に来てくれておおにとニコニコしていた。そして、それがおばあちゃんとの最期の会話で……

「――オカンがこのコップ残しとったんは、この家でワイらともう一度顔合わせて食事したかったんかな? 」

時空を超えて目の前に並ぶコップを眺めながら、叔父さんはポツリ、そう呟いた。


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