41体目 赤ゴリラ
「他の人を断ってまでって、どうなんですか」
「これから先を考えれば、トウヤ様との縁を強くするほうが大事ですわ」
「なるほど……。奴隷も参加可能なら構いませんよ」
「勿論ですわ! 爺! 頼みますわよ」
「リストアップを指示しておきましょう」
政府も現在、レベルを上げる優先順位やら、俺のような人物を増やせないかと検討している。
実体分身を覚えたいという訓練生を募って、SPを使い同じ能力を獲得させようという目論みだ。
しかし俺は、そんなに容易くはないと思っている。
難易度が高いと自負している3個の能力を合わせて、やっと経験値を分けることが可能となる。
しかもレベルを上げたところで、能力事態が宿るわけではない。
覚えられるようなるだけでも、少なく見積もって数年は掛かるはずだ。
「貴方もよろしくて?」
「えっと……はい。カレンさんですよね。はじめまして、≪絆地 桜≫ です」
「事情は伺ってますわ。奴隷だとかは関係なく仲良くしてくださいまし」
立場で人を見下さない精神は評価しよう。
だが俺からしたら、嫌いというわけではないが、行動力が高く押しが強い人は苦手だ。
「はい! ところで開拓のお手伝いって、どんなことを しているんですか?」
「結界をそのまま広げると魔物が密集しますから、数を減らすのがメインですわね。ご一緒にいかが? 是非戦うところを拝見したいですわ」
「いいですね。俺も≪ノーブル・ライトニンング≫はこの目で見たかったですから」
「決まりですわね! それと、わたくしのほうが年下ですから、堅苦しいようでしたら敬語を外してかまいませんわよ」
≪ノーブル・ライトニンング≫は赤く燃える稲妻を纏い、優雅に戦う姿から付けられた異名だ。
別名≪赤ゴリラ≫。
身の丈より頭1個分小さいだけの大剣を、凄まじい筋力でぶんぶん振り回す姿から呼ばれ始めた名だ。
カレンは≪ジャイアント・エイプ≫を、電撃が流れる炎の一撃で屠った。
とてつもない威力であり、早くもある。
近くに居るだけで火傷しそうだ。
「あっつ! なんて熱量だよ……」
「燃えてるけど大丈夫なの?」
「半分は気がそう見せているだけで、見た目ほどではないですわ。それに装備のドレスも特注ですから、早々燃えませんことよ」
百歩譲って、火傷をしないのはいい。
しかし他にも疑問点が多い。
是非覚えたいのだが、謎性能なせいで現状真似できそうにない……。
そして赤い稲妻は可憐というより、地獄の雷のようで普通に怖い。
熱量が高いようで、触れた場所の多くが発火している。
電撃で筋肉を刺激し、触れた魔物を硬直させ、さらに炎による追加ダメージとは。
やはり≪赤ゴリラ≫の異名は伊達ではない。
「しかし大猿の魔物を一撃とは。赤ゴリラって呼ばれるわけだ」
「や、やめてくださいまし! 恥ずかしいですわ……」
「でも凄かったよ! あんな威力の攻撃始めて見ちゃった!」
そういえば桜は、モモカの"メテオシャワー"を見ていないんだったか。
あれのほうが威力は大分上だ。
しかしあの威力ですら、護衛兼執事だと思われる爺には通用しなさそうな気がする。
仮に指一本で大猿を倒しても驚きはしない。
そう思った時、結界のある方角から崩れるような大きな音が聞こえた。
「なんか倒れたか?」
「爺」
「承知しました」
爺は高く跳躍し、降りてきた。
村のある場所を確認したのだろう。
「物見櫓が崩れています。はっきりとは見えませんでしたが、誰かが暴れているようです」
「急いで戻りますわよ!」
「りょーかい」
結界内に戻ると、簡易的に建てているだけの物とはいえ滅茶苦茶になっていた。
暴れているのは、冒険者の風体をした何やら黒いオーラを纏うオオカミ男。
その亜人に対するのも冒険者。
どうやら一般人が逃げる時間を稼いでいるようだ。
「大分壊されてるな。服着てるし魔物じゃないよな……」
「少なくとも正常な状態には見えませんな」
「呪い……かな? ちょっと違う気もするけど、私じゃ浄化はできないかも」
「でしたら物理的に止めるしかないですわね。爺!」
「骨の数本は覚悟していただきましょう」
言うや早し。
その場から消えた爺は、俺では目で追うのがやっとだった。
それも"加速する世界"のお陰だが、戦えば肉体が追い付かなくなりそうだ。
拳が暴れる者に深く突き刺さり、木製の建築物に向かい突っ込んで何軒も倒壊させた。
この騒動で1番の破壊規模だ……。




