表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/108

38体目 異変

 7月4日、日曜日。

 真剣を使う錬斗(れんと)に対し、俺は分身で対峙していた。

 モモカは"モバイルトウヤ"を連れ、ムギと図書館に行くと言って出かけた。

 許可を貰えば日本にも黙認されて出られるとは思うが、塔内に存在する図書館だ。


 錬斗はレベルだけでなく肉体の鍛練(たんれん)もしているようで、レベルに似合った実力は備えている。

 しかし同格以上との戦闘経験が少なく、俺から見れば隙だらけだ。


「甘い……!」

「がっ――!」


 足運びに少し緩急やフェイントを加えただけで手玉に取れる。

 俺は剣による攻撃を容易(たやす)く避け、掌打(しょうだ)を胸部に打ち込んだ。


「悪くはないけど直線的すぎる。格上相手には通用しないな」

「分かってる……! 次行くぞ!」


 階層毎にレベルが一定だからこそ、冒険者は安全策を取り、格上に弱くなりがちだ。

 安全に格上との経験を積める者は早々いない。

 それを分かっているからこそ、錬斗は俺に試合を頼んで来た。


 俺自身いつ対人戦になるか分からない状況だ。

 これはいい経験になると判断して、錬斗の模写体も3体作り出している。

 これで倍速で経験を積めるし、集中力をギリギリまで使った上での戦闘経験にもなる。


 模写体は俺の意思から外れ、コピーした人と同じような行動をする。

 そしてコピーをされた人にも操れるわけでもなく、消えると両者に経験が還元される。


 例えば模写体が右に行こうとした際、多少の誤差は平気でも大きくずれると消滅する。

 模写体の行動にシンクロさせて動かすようイメージせねばならないわけだ。

 複写する人物が強ければ強いほど、維持し続ける難易度は上がる。

 しかし、シンクロさせているから錬斗の動きが手に取るように解かる。


 この状況では、俺に勝つのは一生不可能だ。

 錬斗が経験値3を手に入れるとしたら、俺は6得るようなものなのだから。

 経験の全てを修めることは不可能だろう。

 しかし倍の経験量は早々(くつがえ)せまい。



「まだまだ!」

「ちょっとタンマ。緊急連絡だ」

「……ゲートか?」

「……かなり大きいのが地下42階で発生だとさ。対応できる人は多くはないし、俺の場合分身だと死ぬ心配がないから、これからは多く依頼が回ってきそうだな」

「地下なら俺は行けないか。それにしても発生回数が多くないか? 先月も歴代最高だったろ?」


 6月のゲート発生回数は11回。

 しかも多くは数日間残るから、毎日発生し続けているようなものだ。

 通常量の10倍や20倍の魔物が、毎日どこかの階層で出ているなど考えるだけで恐ろしい。


 国としては不足気味の魔石が確保できるからいいだろう。

 しかし国民は、何かが起きるのではないかと不安がっていると聞く。


 悠長に会話している最中にも、分身3体が屋根より高い位置を風魔法で吹っ飛ぶ。

 新幹線染みた速度で突撃した分身は、あまり例を見ない速さで転移門へ到着した。

 普通の人なら自殺志願かとも思える移動方法も、分身なら問題ない。



「天の試しが複数人で挑戦できるようなったり、地下にも観光で転移できるようになったり、変わりつつあるのは確かだな」

「世界中に転移できるようにもな」

「旅行に行かない身からしたらどうでもいい」

「俺も行かないけど、少しぐらい気にしたらどうだ」


 錬斗が言うように、少しぐらい世界に目を向けるのも手か。

 モモカの出身国に行ったり、魔塔の実物を見るのも悪くなさそうだ。

 もう時期この兄妹も夏休みだろうから、誘ってみるのも良いかもしれない。


「じゃあ夏休みにどっか行くか? 現地到着送信っと」

「着いたのか。じゃあ休憩に入るから、話の続きはまた後でな」




 意識を42階層に向けてみる。

 報告を出した冒険者は座標を提出して、既に避難済みのようだった。

 それでも、情報を持たない冒険者も居るはず。

 不安要素はできる限りなくす為に、分身30体ほどを散らばらせ魔物を狩り尽くしてゆく。


「未確認モンスター発見! 霊体系か……?」


 分身からの報告で、その視点に注目。

 見つけたのは、大きい口しかない子供サイズの化け物。


 紫色のそいつは、足がなく人魂のように揺らめいている。

 地面から生えているようにも見えるし、浮いているようにも見える。

 見た感じ地面にエネルギーはないから、後者だと思う。


「こちらを見るなり敵意満載。強くはなさそうだけど、特殊能力持ちかもしれないから注意」


 ≪口だけお化け≫は、適正レベル180付近に存在する魔物とは思えぬほど遅い。

 俺を食うつもりなのか、口を開き近づいてくる。

 剥き出しの歯は綺麗に生え揃っている。

 そして、短剣を軽く当てると消え去った……。


「え゛っ。ナニコレヨワイ……。霊体系かと思ったらなんか違うような気もするし……。短剣が触れただけで抵抗感もなく斬れて消えた。以上」


 まるで音の鳴らない風船を斬ったような気分だ。

 他のモンスター群にもちょくちょく混ざるその魔物なのかすら怪しい物は、特殊能力もなさそうだ。

 エネルギー量が存在するのがやっとなのではと思えるぐらい少なく、低レベル冒険者でも倒せそうだ。


「弱すぎるな……。一応写真撮ってギルドに報告しとくか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!

執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ