28体目 シスコン
「"アイス・ランス"!」
掛け声と共に、6本もの氷の槍が作られる。
モモカの高い魔力を持ってすれば、詠唱をせずとも軽くエネルギーを込めるだけで作れて速射も可能だ。
30階層のボスは、全長3メートルほどのオオカミ。
素早いボスだが6本全ては避けきれず、2本に貫かれ即死した。
この程度ならレベル差が大きく、俺の手助けすら必要としない。
「この調子ならすぐ100階だな。一応37階で休憩してから40階層のボスな」
「はい! 楽に勝てても油断大敵ですよね!」
「レベルでのごり押しだからな……。技術はじっくり身に着けるしかない」
犯罪臭がして忌避していたが、そろそろ模写体の分身とやらを検証すべき時期かもしれない。
もしモモカを具現化したとして、それが消えた際の知識がどうなるのかが気になる。
本命はモモカに記憶が追加される。
次点は俺で、最悪は四散して経験が得られないというパターンか。
そしていつものカフェにて……。
いつもの席に座ろうと思いきや、その店には先客が居た。
「よっす~。久しぶり」
「こんにちわ! 塔也さんも休憩ですか?」
「知らないのが増えてるな」
居たのはムギと…………練也だったか。
「妹さん……じゃないですよね?」
「俺の新しい仲間だよ。奴隷のな」
「奴隷ってお前、法律違反だろ」
「黙認されてるけどな。流石に塔の外には出れないけど」
モモカが奴隷だと知っている職員は何人もいるが、何か言われたことはない。
いつもの席とは違うが、4人座れる席だから同席させてもらう。
モモカに対しては、ジェスチャーで座っていいと合図した。
「先に言っとくけど、こう見えて11歳だからな。んでこっちの2人は、ムギと……練也だ」
「初めまして。モモカです」
「錬斗だ。わざとやってんじゃないだろうな」
なぜか違和感を感じていたが、言われてみれば錬斗だった。
「俺にとっちゃ、あの短時間で半分覚えてるだけでも珍しいよ。2人はこれからボス攻略か?」
「そうですけど……。言いましたっけ」
「6年も冒険者やってたら、挑む人は見て分かるよ」
昼過ぎなのに、身なりは綺麗で戦った痕跡もない。
ムギは食べ物の多くが喉を通っておらず、緊張しているのも分かる。
他にも時期や時間、細かい部分を上げれば切りはないが、初心者は大体同じ行動を取る。
「でもでも、肝心のボスに挑むためのパーティーが組めないんです」
「30階層は数を多く減らすからな。時期も悪い」
10階層と20階層に挑むのは人口も多いから問題ないだろう。
しかし30階層のボスを倒そうと思ったら、安全を確保できるレベルを満たしている人は数を多く減らす。
「あ、いいえ! あたし、40階に挑むんです!」
「ほー。早いな。手伝ったのか?」
「当然だろう。10や20の新人ならともかく、くすぶってる連中にムギを任せれるわけがない」
「モモカ気を付けろよ。もしかしたら、シスコンなだけじゃないかもしれない」
「俺はムギ一筋だ」
「凄いなお前……」
ここまでハッキリ言えるのは、俺はこの男ぐらいしか知らない。
そしてシスコンは認めているようだ……。
「仲間ってことは、モモカちゃんも冒険者なんですよね。何階層まで突破してますか?」
「このあと40のボスに行く予定だな」
「わぁ! 凄い偶然ですね! それなら4人まで入れますし、ご一緒しませんか?」
「待ち時間が面倒だし、まあいいか」
ボスは一度倒されると、必要な魔素が補充され復活するまで数時間掛かる。
同じ日に挑もうとするなら、待たされる可能性が高くなる。
町を囲む結界を抜けてもなお、モモカが喋らない。
モモカがムギに直接話し掛けられて、俺もようやく気付けた。
やたら静かだと思ったら、挨拶はともかく、勝手に口を開くわけに いかなかったようだ。
2人は分身のことも知ってるから、気兼ねなく話していいと伝える。
ボスが居る主柱が遠く、4人では基本的に走らない為移動に時間が掛かった。
そして当然、ボスは一瞬で絶命。
一応ムギが短剣による攻撃で何度かダメージを与え、あとは虐殺だ……。
モモカは蜘蛛が苦手らしい。
叫びつつ放った全力の水大砲で、巨大な蜘蛛はあえなく壁の染みとなる。
そして流れ迫ってきた水で足首までが濡れた。
「なんて威力だ……」
「あれに当たったら俺でも普通に死ねそうだな」
「す、すいません。つい……」
「凄いねモモカちゃん! あんな魔法が使えるなんてビックリしちゃった!」
モモカの相手はムギに任せ、俺は錬斗へ近づいた。
「全然活躍できなかった感想は?」
「お、お前だって同じようなもんだろ」
「俺はいいんだよ。モモカの手柄は俺の手柄だ」
「それはずるいぞ! 俺だってムギのレベル上げを手伝ったり、別のところで活躍してる!」
時間的余裕はあったが、その日は打ち上げを共にしようと誘われた。
しかし、久しぶりのまともなパーティーで浮かれてしまったのが原因だろう。
以前のパーティーで年に数回だけくるような、高めの焼肉店に来てしまったのは……。
「ああクソッ……! ん? トウヤじゃねえか……。そうだ丁度いいや」
会いたくない奴に会ったせいで、最悪な気分にさせられた。




