デスゲーム1
グラたん「主人公交代のお知らせです!」
皆は『死』とか『異常』なんてものが急に振ってきたらどう感じるだろう。
少なくてもパニックくらいにはなるだろう。
一年前前、世界は変わった。『怪人』『魔物』なんて呼ばれる化物が蔓延るようになってしまった。怖いと言えば怖いけど、私にとっては怪人も人間も一緒だ。どっちも残虐で、横暴で、私的な生物。
皆は『やべー』とか『怪人こえー』『ヒーローかっけぇなぁ!』とか好きかって言ってる。
ぶっちゃけた話、私にとっては対岸の火事も同然。友人も無く、親や家族とも険悪で……今は寮に入って一人暮らし。死んだところで悲しむ人なんていない。
だから――。
『ハーイ! ごきげんよう人間ども! エブリバデー!?』
教室の放送から陽気な声が聞こえてきた。誰かのいたずらだろうか。
『ん~? 反応悪いなぁ。ま、いいや。俺っちはニャルラトホテプ! 皆さんにはたった今からデスゲームに参加して貰いまーす! ハイ、拍手!』
誰一人として拍手しない。可哀そうなので気だるげに私だけ拍手してあげる。
「おい、誰だ? 放送室勝手に使ったら怒られるぞ?」
「後でめっちゃ怒られるぜ? はは、馬鹿なやつ」
「ほら、お前ら。席に着け。他の先生たちが取り押さえに行ったから、こっちはホームルーム始めるぞ」
先生が扉を開けて教室に入ってくる。ぴしゃりとちょっと大きな音を立てて扉は閉まり、各自席に着いていく。
『オォウ、BAD!! あっれー? おかしいな。これ校内放送のスイッチ入ってるはずなんだけどなー。拍手してくれたリスナーさん一人だけって俺っち泣いちゃうゾ☆』
「先生、放送音声オフにしてください」
クラス委員長が進言すると先生は面倒くさそうに壁に取り付けられているパネルを動かして電源をオフにする。
『――無駄さ』
キィンと耳障りな音が響く。さっきの陽気な声とは裏腹な、獲物を定めた肉食獣のような冷たい声がスピーカーから聞こえてくる。
「センセー、音量上げないでくれますか」
「何でだ。電源は落としたぞ?」
パネルに目を向けると確かに電源は落ちている。
『君たちはゲームをクリアするまではこの教室から出られない。扉は開かないし、窓も壊せない。壁や床も傷一つ付けられない。ボクを楽しませてくれ、人間ども』
「はー? 意味わかんないんだけど」
「センセー、早く切ってくれない? マジうざいんだけど」
クラスの中でもトップクラスにウザいギャル二人組が鬱陶しそうな顔で先生に視線を向ける。
「電源は付いてない。ああ、やっぱり落ちている」
「……落ちてますね」
クラス委員長が確認したことでギャル子たちも黙る。
『理解したかい? それじゃあゲームルールを配布するよ。各自のスマートフォンにメールを送ったから確認してくれ』
一斉にピコンと音を立ててメールが届く。スマホを手に取ったのはギャル子たちとクラスメイト数人だ。
「――デスゲーム? 何これ。馬鹿じゃないの?」
「はは、誰がやるんだこんな頭のイカれたゲーム」
「頭悪そー。今時のラノベでもまだマシなの考えるぜ」
そんな会話に釣られて更に何人かがスマホを取り出してメールを確認する。先生も気になったのかメールを確認し、失笑している。
先生が取り出してみているのなら、とばかりにクラス中でスマホが起動し、私もスマホを取り出して新規に送られてきたメールを確認する。
宛先、空欄。
件名 デスゲーム『スロット・オブ・スロットル』
ルール
1、参加者はこの教室にいる32名。
2、規定時間以内にスロットが行われない場合、全員死ぬ
3、規定時間以内に内容実行者が現れない場合、全員死ぬ
4、ルール外の脱出行為は罰を与える
5、この状況は生放送で配信中
内容
・このゲームは『スロット・オブ・スロットル』。教卓に置かれたスロットを回し、その内容に挑戦する。スロット内容は完全ランダムかつ同じものは用意されない。
・規定時間は30分とする。
・内容によっては別空間をこちら側が用意する。
・内容に挑戦した場合、クリアもしくはプレイヤーが全滅するまで次のゲームには挑めない。
・参加するプレイヤー数は自由。
・クリア者には以下の報酬を与える。
報酬
・なんでも願いが叶う権利。
※ただし一人に付き一回までとする
上記のルールを守って楽しく遊びましょう。
ニャルより
顔を上げて教卓を見るといつの間にかスロットマシーンが置かれている。中のレールには『チップと』『ライフと』『ソリティア』と書かれている。
そのままの意味が考えるならそのゲームは『命を対価にしたトランプゲーム』ということになる。
確かにこれをやる人なんていないだろう。
『さあ、ゲーム開始だ。尚、この放送はニコニコ生放送、YOUTUBE、TWITTERなどで同時放送中のため無様を晒したら生き恥でーす! コメントもドシドシくださいねー! 内部の参加者たちもネット環境は繋がっているので実況してくれてもいいよー!』
陽気な明るい声とゲラゲラゲラという品のない笑い声が教室中に響く。
「うわっ、マジで配信されてる」
「えー、ちょっとヤダー」
「この視点って……えっ? カメラなんてどこにあるんだ?」
宣言通り配信しているらしい。プライバシーもなさそうだ。
「ははっ、馬鹿じゃねーの。俺たちがやらなきゃクソ動画確定じゃん」
「ってかもう帰ろうぜ」
男子数人が扉に手をかけ、ガチャガチャと嫌な音を立てる。
「……おい、何してんだよ。早く開けろよ」
「いや、開かねーんだよ」
「は? お前動画映え気にしてんの? ウケるわ」
ガチャガチャとまたしても音が鳴る。開いた様子はない。
「ちっ、マジで開かねーんだけど。誰か、窓開けてくれ!」
「ダメだ! こっちも開かないぞ!」
ドンドン、ガチャガチャとやかましい音が鳴る。
「退いてろ! うおおおおお!!」
体格のいいスポーツ部のクラスメイトが机を持ち上げて窓に叩きつける。次に来るだろうガラスの粉砕音を聞きたくないので思いっきり耳を閉じて目を瞑る。
――音は何時まで経っても来ない。
「……嘘だろ。あり得ないだろ」
誰かの呟きが聞こえて、目を開けると机にも窓にも傷一つなかった。あまりにも非現実的な話だ。
ブッブー、とクイズ番組ではずれの回答をした時のような音がスピーカーから鳴った。
『おやおや、ルールを見てないのかな? でもルール通り、ルール以外の脱出行為には罰を与えまーす! ハイ、罰内容のコメント募集! あっ、いいねいいね! 足一本行ってみよう!』
ブチン、と何かが千切れる音がした。ぼてっ、と間抜けな誰かの座り込むような音。
「ひ、ひっ、ひぎゃあああああああああああああああああああああ!?」
男子生徒の泣き叫ぶ声。思わずそっちを見ると、右足の膝下が千切れていた。まるで人形の足を千切ったかのような裂け方だ。大量の鮮血が辺り一面に飛び散って床や机、近くにいたクラスメイトたちを濡らした。
――これガチな奴だ。
私は早々と悟った。さっさとゲームをクリアしないと自分の身が危ないこと、クラスメイトが敵対するかもしれない危険、下手したら皆狂乱して酷いことをされるのではないかとさえ脳裏を考えが浮かぶ。
さっさと終わらせよう。
私は立ち上がって気だるげにスロットマシーンの傍へ行く。
『おっと最初のチャレンジャー君がスロットを回すようでーす!! はい、拍手!』
テンション高いなー、なんて思いながらどうでもよさげにレバーを引いてスロットを回す。このスロットは割と現代的な構造をモチーフにしているらしく、目押しようのボタンが付いている。
かと言って私は目押しなんてできないので適当に連打してスロットを止める。
『50:50』『理不尽な』『コイントス』
『50:50理不尽なコイントォォォス!! このゲームは弾かれたコインが自分の言った通りならゲームクリア! 違ったら死ぬだけの超絶単純ルール!! 自身の命をチップに挑み、葛藤し、参加者も観客も手に汗を握るストレート一本勝負!!!!』
「へー」
チャリン、と教卓の上に金色のコインが落ちてくる。どうせ私しかやらないだろうし手にとって眺めてみる。ってこれよく見たら500円玉だ。
……ん? 今、あいつなんて言った?
「テンション絶頂GM、ちょっと聞きたいんだけど質問いい?」
『おや、なんだいリスナーのお嬢ちゃん』
質問には答えてくれると。向こうから声も聞こえてくるってことは教室のどこかに送信機とか設置されているのかな? まあそれは置いておき。
「このゲームは弾かれたコインが自分の言った通りならゲームクリア。それでルールは間違いない?」
『――そうとも! 理解が早くて助かるなぁ! 他のボンクラ人間どももこのくらい要領が良かったらいいのになぁ』
「ふーん。じゃあゲームしよっか。参加者は私だけっぽいし」
ぐるりと教室を見渡すと全員の視線が私に向けられていた。どうなるのかという興味的視線、恐怖と困惑の視線、あいつなんかに出来るわけがないという侮蔑の視線。
コインを指に乗せて構える。
『早い! 即断即決! 自身の命に興味がないのか! それとも全てをコイン一枚に託したのか! 少女の運命や如何に!! さあ皆さま予想してください!!』
ちょっと待ってあげた方がよさそうかな?
『そして少女の答えは!? アーユーアンサー!!』
それと同時にピンとコインを弾いて空中に放る。くるくると回って落ちてくる中、私は薄い笑みを浮かべて答える。
「私の答え? そんなの『手のひらに落ちてくる』に決まってる」
特に音もなくコインが手に収まる。
『――嘘だろお前』
スピーカーの中から唖然とした声が流れてくる。
「さっき言質は取ったし、イカサマダメ、ルールの抜け穴を付くのもダメなんてルールに記載してなかったGMの落ち度でしょ。それにコイントスするなら『表か裏の二択』って明記しないとこういうことになる。――人間、舐めすぎなんじゃないの?」
クスリと嘲笑ってやる。私の笑みはよく薄暗いって言われるし、動画的にも映えるんじゃないかな。
『――はは』
声の主は笑った。
『はははははははははははははははははははははは』
抑揚のない文字列が並んでいるかのような笑い声。ボーカロイドだってもう少し変調がある今のご時世にその声は酷く不気味だった。
『ルールはルールだ。人間、お前の勝ちだ。だが、グレーゾーンを使ったのはお前だ。願いの幾分かは叶わぬと知れ』
真面目なトーン。それが本性なのだろう。だけど妙にその声は私にとって心地よかった。
「本当はここにいる皆をクリア扱いにして欲しかったのだけど、それじゃあせいぜい私くらいしか脱出できなさそうね」
心にもないことを平然と息を吐くように告げる。大きな願いから小さな願いへ。口先だけのクソみたいな自己保護欲。
『――良いだろう。扉から出て帰ると良い』
スンと澄ました態度で鞄を持って教室の扉に手をかける。
カラカラと音を立てて開いていく。
「あ、空いた!?」
「で、出られるのか!?」
私は扉を開けたまま教室を出て、完全に出ると背後からクラスメイトたちが駆け寄ってくる音がした。
「やった! 俺も出られ――」
ピシャリと自動ドアの如く閉まった。
……。
一歩外へ出ると夕方だった。ざわざわとBクラス前に人だかりが出来て、教師や生徒たちが一斉に様子を伺っていた。
「ほら、散った散った! 今日のところは帰れ!」
体育教師が生徒たちを散らし、私の方へ歩み寄ってくる。
「Bクラスの白坂紬だな。悪いが中で何が起きているのか話してくれ」
「――はい」
場所を移動して生徒指導室で私は徴収を受けた。
教室内部で起きていたこと、動画と全く同じ内容が行われていること。ゲームをクリアしないと出られないこと。知っている限り全てを話しつつ、私も気になっていたことを聞く。
先生が言うには放送室には誰もおらず、詳しい調査は警察がしているらしい。教室の扉も開かず、壁を破壊しようとしても壊れる様子はないらしい。窓の方に回っても黒く塗りつぶされたみたいに中を覗き見ることができないようだ。
動画の投稿も流血沙汰になったことから運営に停止を要請したが、運営の方からも何故か動画を消すことが出来ず、放送は垂れ流しになっているとのことだ。
タブレットで見せてくれたニコニコ動画では再生回数がもう100万を越え、コメントやマイリスも10万を超えていた。
学校も先月の件もあって対応は迅速だった。Bクラス前には医療スタッフや精神カウンセラーが常駐するようになり、授業中も扉は開けっ放し、校門の前には警察が一人常駐してくれるらしい。
私は特段身体的にも精神的にも異常はなかったが、念のためということで一旦病院に運ばれて検診を受け、メンタルケアも受けてから帰宅となった。
寮の自室に帰り、シャワーを浴びてからベッドにダイブする。
精神的な疲れもあってか眠気が襲ってきた。
――今日はちょっと楽しかったな。
薄暗いだろう笑みを浮かべながら、今頃苦しんでるだろうクラスメイトたちのことを考えて私は眠りへと落ちた。




