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東京サイコハザード  作者: グラタファトナ
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ヒーロー5

「やぁ。人間諸君。俺は彼等の統率者だ」

 怪人の統率者。所謂ラスボス。わざわざ目の前に現れてくれるなんて好都合だ。ここで決着を着けられれば怪人側にとって大きな打撃になるのは間違いない。

「きっとヒーローの中には俺を倒せば全て解決する、なんて馬鹿なことを考えている奴がいるかもしれない」

 人の思考を読んだかのような言葉と皮肉気な冷笑が浮かんでいる。

「残念だけど俺を倒したところでハッピーエンドにはならない。むしろ、研究そのものを止めない限り怪人は増え続けるし、比例するようにヒーローも増え続ける」

 研究? 彼は何かを知っているような口ぶりだ。

「信じられないかもしれないがこの世界には『超能力者』が存在する。そしてその超能力者を解剖・研究して全く新しい人類を誕生させようという組織も存在する。この病院もその組織の一端だ。俺たちはその研究の廃棄物、失敗作として捨てられた」

 あまりにも非現実的過ぎる。妄想とも言えるが、ヒーローの力を持つ俺はその言葉を否定できない。そういう可能性があってもおかしくはない。

「怪人と恐れられ、お前たち人間を襲っているのは同じ人間だった者の末路だ。無論、俺も。お前たちは自ら犯した業を受け入れなければならない。ヒーロー、お前たちは俺たちの完成形と言っても良い。だが忘れるな、お前たちという完成の下には何億という犠牲者おれたちがいるということを!」

 その言葉は真実味を帯びていた。一概に切り捨てられるほど彼は気楽に話していなかった。

「――変身。怪人を駆逐する!」

「変身。片付けよう」

「よくわからねぇが、変身! ギャラクシー・ガイだけに良い恰好はさせないぜ!」

「執行承認。変身開始よ」

 別チーム四人が一斉に変身していく。

 彼等は俺に似た姿だが装甲が厚かったり、剣や銃を持っていた。色も赤、青、黄色、橙と一人一人違う。よく見ると顔面の部分も昆虫に似た仮面になっている。

「見て下さい! これがギャラクシー・ガイと並ぶ、いえ、それ以上の新たなヒーロー! 『レッドベリー』と『グリズリーブルー』です! 刀を持っているのがレッドベリー、大きな爪で攻撃するのがグリズリーブルーです!」

 白衣を着た研究員と思われる人物が壇上に登って報道陣に説明をしている、

「我らが新生ヒーロー『サンダーレイ』、『ジェットミカン』! 二丁銃がサンダーレイ、足技を使うのがジェットミカン! 今日から皆さまの安全をお守りします!」

 また別のところでは同じような人が説明をしている。

 新たなる四人のヒーロー。俺のライバルになるかもしれない奴ら、か。

「藤袴さん」

「おう、戦闘は避けられないっぽいな。行ってこい! 無理はするな!」

「はい! 変身!」

 俺も変身して跳躍し、表舞台に立つ。

『ギャラクシー・ガイだ!!』

 俺が出てきたら報道陣は一斉にカメラを俺に向けた。これだけ見られながら戦うのは初めてじゃないけど緊張はする。

「――そうか、お前が」

 白髪の彼が俺に視線を向け、俺に――いや俺たちに手のひらを差し伸べる。

「君たちも犠牲者だ。君たちは人間を守る側ではなく、破壊する側だ。彼等に良いように使われるだけだ。俺たちは戦う必要はない」

「いくぜいくぜいくぜぇえぇえ!!」

「殲滅する!」

 彼の言葉を遮ってレッドとブルーが怪人に襲い掛かる。怪人も応戦する構えを見せ、数体はその場に残って彼等の足を止めた。

 囲んで叩かれる、と俺も数歩踏み出して助けようとする。

「散開。強襲」

 が、それに反して彼は怪人たちを一斉に散開させた。怪人たちは市街地に飛び出し、一般人を襲撃し始めた。四方八方に飛び散ったから警察も急いで対応をし始める。

「ギャラクシー・ガイ! 親玉を叩け!」

 藤袴さんのどでかい声が響く。その声に呼応して俺は彼との距離を詰める。

「悪いけど、俺は俺の生活がある。ここで倒させてもらうぜ」

「倒されるのは構わないけど、先に彼と戦ってもらおうかな」

 背後に控えていた気色の悪い怪人が前に出てくる。彼は後ろに飛び、距離が開いてしまう。

 跳躍して距離を詰めようとすると怪人が進路を塞いで触手を伸ばしてきた。

「くそっ! 退け!」

 躱して躱して、ボディ! 皮膚を叩くと蛆が飛び散ったが手応えはある。

「アアアアアアアアア!!」

「それを倒し終えたら戦ってあげるさ」

 君が戦えるなら、と不穏な言葉を残して彼は他の怪人に指示を出し始めた。

 怪人の巨体が奴と俺との視界を遮る。巨大な前足を振り上げ、俺を潰そうと振り下ろす。

「お前に構っている暇はない!」

 大きく右に避け、がら空きの胴体に蹴りをぶちかます。

「ガアアア!」 

 踏みつけた地面はひび割れてクレーターを作った。直撃を貰ったらただじゃすまない威力だ。

 怪人は何度も踏みつけを繰り返し、触手を伸ばす。動きは単調だ。ダメージを蓄積させていけば倒せるのは他の怪人と同じだろう。

「ゴオオオオオ!!」

 今度はその巨体をいかして突進してきた。直進だから避けるのは簡単だ。後ろ足に蹴りを入れてダメージを増やしていく。

 巨体故に戻ってくるのには時間がかか――。

「ゴオオオオオ!!」 

「嘘だろ!?」

 その場で急にUターンして戻ってきた。先ほどのどんくささが嘘のような素早さと突進力に驚くが避けられない距離じゃない。躱したらもう一度蹴りを入れてやる!

 が、足と腕を何かに捕まれた。

「ゲロゲロゲロ」

「シャシャシャ!」

「げっ!? くそっ! 離せ!」

 蛙のような顔の怪人と魚のような怪人に四肢を封じられ、一瞬動きが止まる。

 ガツン、と全身がバラバラになりそうなくらいの衝撃が襲う。空と地上が何度も入れ替わり、地面に叩きつけられる。

「こはっ……」

 呼吸が苦しい。ここまでの直撃を受けたのは最初の豚頭以来か――。

「ゴオオオオオ!!」

 この隙を逃してくれるような怪人はおらず、またしても吹っ飛ばされて地面を転がる。何度も転がって血反吐を吐き出す。

 立ち上がる腕も膝も震える。

「くっそぉ……痛ぇ」

「ギョギョギョォ!」 

「ギャァアアアア!!」

 カジキっぽい怪人とコンドルみたいな怪人が襲ってくる。初撃の突進は転がって避け、しかし上空から襲ってきたコンドル怪人の爪が背中を切り裂いた。

「ぐああああ!」 

「ヒョォーーー!!」 

「ピョピョピョォン!!」 

 そんな鳴き声あるかよ、と思いつつも豹怪人の前爪に転がされて切り裂かれ、一角兎怪人の角で何度も足を貫かされる。

「ゴオオオオオ!!」 

 トドメとばかりに四足歩行の怪人の前足に踏み潰され、全身の骨が砕かれたような痛みが奔る。

 体が動かない。意識が朦朧とする。あまりにも辛い。

「ギャラクシー・ガイ!」

「ギャラクシー・ガイ! 負けちゃヤダー!」

 子供の声が聞こえてくる。泣いているのだろうか。

「ギャラクシー・ガイ! 立ってくれ!」 

「ギャラクシー・ガイ!」

「ヒーロー!」

「負けるな、ヒーロー!!」

 無茶言いやがって。でも悪くない。悪くないけど、動けない。

「おい、ギャラクシー・ガイ! 俺はお前に憧れてたんだぞ! 惨め晒してんじゃねぇ!」

「ギャラクシー・ガイ、ヒーロー!」

 ああ、なんか知らない声も心地いい。

「……立たなくちゃ」

 俺はヒーローだ。俺が始めたことだ。

 最初は指を動かす。次に手首、肘、肩、膝、足。四つん這いでもいい。立ち上がるんだ。

 全身が痛い。けど、応援は力になる。

「あ、あれ? ギャラクシー・ガイの身体、光ってる!」

 光ってる? 俺が? 

 自分じゃわからないけど体が少し軽い。視界をちゃんと定めると腕や足のフォルムが少し変わっていた。拳はボクサーグローブみたいな鈍色の鉄の拳になり、足や腰も装甲が増えていた。だが重さはなくてとても軽い。

「ギョギョギョォ!」

 さっきの魚怪人だ。俺が弱ったのを見てトドメを差しに来たか。

「やら……れるかよ!!」

 左を小ぶりに振りぬく。たったそれだけの動作だったのにまるで空気の砲弾が通ったかのように一直線に奥にいた怪人までまとめて貫いた。

「ピョピョピョォン!!」

 何匹もの兎怪人が飛びかかってくる。これも軽く振り払うようにジャブを繰り出し、やはり砲弾のような威力の空気弾が飛んでいく。

「っ……」

 体が少し重くなった。強いけど、長くは持たないか。

 疲労感と共に小手を見ると手の甲に4:25という数字が見えた。その数字は1秒ごとに減っていく。俺の残り変身時間ってことか。

 何度か襲ってきた怪人を同様に返り討ちにする。残り時間は3:58。やっぱりこの空気弾を繰り出しても減るみたいだ。

「一撃だ。それで決着をつける!」

 睨む先にいるのは巨大な怪人。突進は俊敏だが動きは非常に遅く、躱すことは出来ない。

 右の拳に思いっきり力を入れて奥にいる白髪の青年ごと吹き飛ばすつもりで腕を引く。文字通りの全力の一発。

「せやあああああああああ!!」

 直進。奴の真正面に位置取って腰を落とし、ひねりと回転を加えて打ち出す。

 肉を抉って絶つ感触。巨大な胴体は一瞬で穿たれた。回転による捩じりが加わったことで螺子のよう痕が残された胴体に刻まれた。

 巨大な空気弾は背後にあった病院の残骸を吹き飛ばし、半壊しかけていた右半分を跡形もなく消し飛ばし、斜め上の空へと消えていった。

 これは必殺の一撃。迂闊に打てば被害が大きすぎる技だ。そして時間を確認すると0:39まで減っていた。二度は使えないか……。

 ボトリ、と何かが落ちてくる。

 白衣と思われる何かとピンク色の肉みたいな物体だ。それに……名札?

 『斎藤道夫』。名札にはそう書かれていた。



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