12 それからのベルクール伯爵家
最終話です。
ようやく、待ちに待った日が来た。ついに、そうついに、あのコリンヌが結婚するのだ。おめでとう! コリンヌ! 心からお祝いしますわよ~。ほ~ほっほ。
セスト様も安堵の表情だ。
「良かった。無事にこの日を迎えられて。ビョルルンド侯爵から婚約破棄されたらどうしようかと父上も母上も私もヒヤヒヤしていたからね」
「うふふ。ついに今日、結婚式ですわ。ここまで来たらビョルルンド侯爵様も逃げられませんわよ」
私はウキウキしていた。
「ああ、ついにコリンヌが家を出て行くぞ。何て、めでたいんだ!」
セスト様。実の妹に対して酷い言い草である。だが何にせよ、サラバだ! 天敵コリンヌ!
結婚式でのコリンヌは美しかった。イケメンのセスト様の妹なのだ。黙っていれば美人なのである。
お義父様もお義母様も目に涙を浮かべてウェディングドレス姿のコリンヌを見つめていらっしゃる。あんな女でもご両親にとっては可愛い娘なのだわ。当たり前か。
式が終わると、お義父様は目を赤くされたまま、
「これでコリンヌはビョルルンド侯爵家の人間になった。ようやく嫁に出せた。安心したよ」
と、おっしゃり、お義母様は、
「本当に良かった。これでコリンヌは出て行くわ。ロザリー、なるべく早く本邸に戻って来てね」
と私に言われた。
「は、はい」
うん? 何だか、ちょっと……?
「いや~、セイセイしたな! 解放感で涙が出たぞ!」
え? お義父様?
「おほほ。今日でコリンヌが出て行くと思ったら嬉しくて、私も涙が出てしまいましたわ」
え? お義母様? そしてセスト様は、
「ホントに良かった! これでコリンヌがロザリーを傷付けることは、もうないな!」
と実に嬉しそうにおっしゃった。身も蓋もない家族である。いえ、きっと私に気を遣っていらっしゃるのだわ。そうに違いない……と思う。
「……おほほ。と、とにかく、おめでたいですわね」
私は、とりあえず作り笑顔でそう言っておいた。
式の後、披露宴が始まり、新郎新婦が皆から祝福を受けている。
ビョルルンド侯爵はコリンヌより20歳年上といっても、まだ38歳。”2度の離婚歴がある”という事実が納得できる、いかにも女性にモテそうなダンディでセクシーな殿方だ。あらぁ~、カッコイイじゃない。遊び慣れてる殿方は女性の扱いが上手いから、我が儘なコリンヌには合っているのではないかしら? お義父様もなかなかいいトコを突いていらっしゃるわ。
さっきから二人を見ていると、ビョルルンド侯爵がツンツンしているコリンヌのご機嫌を取っているようだ。やはりこの結婚が不服なのか、コリンヌはお客様の前であるにもかかわらず不機嫌そうな表情をしている。招待したお客様に失礼だろ!? コラァ! と、気の短い私はイラッとしてしまう。が、ビョルルンド侯爵は穏やかな笑みを絶やさない。まるで小さな子に接するように上から優しく見下ろす感じでコリンヌのご機嫌を取り、そして同時にお客様に対して気を配っていらっしゃる。ふ~ん、これが大人の男性なのね。感心してしまう。なんてスマートなのかしら。
「ロザリー! ビョルルンド侯爵のことばかり見つめて! ああいう浮ついた男がいいの?」
私の隣に居るセスト様がムッとした顔でおっしゃる。
「いえ、侯爵様に感心しておりましたの。あの洗練された立ち振る舞い。大人だな~。素敵だな~って」
「『素敵』!? ロザリー! 私という夫がありながら、そんなことを言うのか!?」
めんどくさいなー。セスト様ももう少し大人になって頂きたいわ~。3ヶ月前に20歳の誕生日を迎えたばかりのセスト様と、経験豊富な38歳の”イケおじ”とを比べる気はございませんけれどね。そう、比べるつもりはない。そう思いながらも、私はつい溜息をついてしまった。するとセスト様は、
「あ、今、私に呆れただろ? 酷いよ! ロザリー!」
と口を尖らせて抗議する。
「そんなことはありませんわ。セスト様は立派な旦那様です。呆れたりなんてしていませんわ。ええ、決して呆れたりしていませんわよ。断じて呆れたりなどしておりません」
「呆れてるじゃないかー!?」
だ・か・ら! そういうとこだってばー! ホント、子供っぽいんだから!
私とセスト様がそんなクダラナイやり取りをしていると、いつの間にかビョルルンド侯爵が近くにいらしていた。
「おやおや、何を揉めていらっしゃるのですか?」
わぁお! 何という低音イケボ! 耳が妊娠しそうだわ!?
「あら、ヤダ、お恥ずかしい。おほほほほ。侯爵様、今日は本当におめでとうございます」
慌てて取り繕う私。
「ありがとうございます。こんな美しい方が私の義理の姉上になって下さるなんて、光栄だな」
ビョルルンド侯爵はそう言うと、流れるような綺麗な動作で私の手を取り甲に口付けた。ひょ~!? セスト様はポカンとした顔でそれを見ていた。反応が出来ていませんのね?
すると、そこへ急にコリンヌが現れて、
「ちょっとリュリュ! 何してるの?! 他の女にそういう事しちゃダメだって言ったでしょー!?」
と言いながら、ビョルルンド侯爵の背中をポカポカ叩いた。え? えっ? えーっ!? 今度は私が反応出来ない。コリンヌ、この結婚を嫌がってたわよね? 今日だって不機嫌そうだったし……。でも、今、「リュリュ」ってビョルルンド侯爵のファーストネームを呼び捨てにしたわ。20歳も年上の殿方を呼び捨てるなんて、相当親しいカンケイでないとあり得ないことだ。つまり二人はそれほど親密だってことよね? 不機嫌そうに見えたのは、もしかして照れ隠しだったの? それに「他の女にそういう事しちゃダメ」とは――ヤキモチ!? えーっ!? コリンヌがヤキモチ!? ウソォー!? 何それ!?
私とセスト様が固まっているうちに、プンプン怒っているコリンヌが、
「リュリュは女性に近付いちゃダメなんだからね!」
と言いながら、ビョルルンド侯爵を引っ張って行ってしまった。残された私とセスト様は、顔を見合わせて同時に叫んだ。
「「何じゃ、こりゃ~!?」」
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コリンヌが結婚した後、セスト様と私はベルクール伯爵家本邸に戻った。
そして、その1年後。私は第一子となる男の子を出産した。
セスト様はとても嬉しそうだ。お義父様もお義母様も初孫の誕生を大層喜んでくださった。
「うわぁ~。ちっちゃいな~」
そう言いながら、産まれたばかりの息子をコワゴワ抱くセスト様。
「セスト! 早く抱かせてよ!」
待ちきれない様子のお義母様が手を伸ばすと、お義父様がお義母様を押しのけて、
「この子はベルクール伯爵家の後継者になるんだぞ! 当主の私が先に抱く!」
と、おっしゃる。
「当主だからなんてカンケイございませんでしょう? 私が先に抱きますわ!」
「何だと!? 許さんぞ! 私が先だ!」
ご両親が争っている横で、セスト様はご自分の腕の中の息子の顔をのぞき込んで、目を細めていらっしゃる。
「可愛いな~。目元がロザリーに似てるね。鼻と口は私似かな? 可愛い~。ホントに可愛い」
「可愛い」ですか? 産んだ私が言うのもどうかとは思いますが、産まれたばかりの息子の顔はまだ真っ赤でクシャクシャですわよ……
「ロザリー、ありがとう。信じられないくらい幸せだ」
セスト様の目が潤んでいる。
「私も、幸せですわ……」
貴方と結婚して良かった。
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その後、時は流れ、私は次男、三男、そして更に四男を出産し、ベルクール家は男だらけになっていた。毎日、賑やか、と言うより騒がしくて堪らない。男の子って、どうしてこう動き回るの? 大きな声を出すの? すぐに戦おうとするの?
私が、息子4人を追いかけてヘトヘトになっていると、またコリンヌがやって来た。ウザッ! 夫婦喧嘩するたびに実家に戻って来るんじゃないわよ! まったく!
「ちょっと、ロザリー! 聞いてよ! リュリュったらまた女を勘違いさせちゃって、相手の女がのぼせ上がってるのよ! 『誰にでも優しくするのはヤメテ!』って、あれだけ言ってるのに!」
私は言ってやる。
「そんなこと言って、いつものように侯爵様が迎えに来てくれるのを待ってるんでしょう? コリンヌったら毎度行動がワンパターンなのよ。たまには実家じゃなくて、ほれ、他の男の所に行って侯爵様を焦らせるとか、そのくらいの気概を見せたらどうなの?」
「何よ、それ!? そんなことしたらリュリュに嫌われちゃうでしょー!」
ヤレヤレ。侯爵様、早くコリンヌを迎えに来てくれないかなー?
執務を終えたセスト様が居間にいらした。セスト様はコリンヌの姿を見るとあからさまにイヤそうな顔をして、
「また夫婦喧嘩か? いちいち実家に帰って来るな! 迷惑極まりない!」
と、おっしゃった。
「お兄様ったら、酷い!」
コリンヌがむくれる。そのコリンヌに、うちの4人の息子達が纏わりつく。
「「「「コリおば! あそぼー!」」」」
コリンヌに登り始める息子達。
「キャー!? いっぺんによじ登ろうとするなー!?」
コリンヌが喚く。コリンヌったら、さながら蟻の集団に襲われる昆虫のようですわね。
「ちょっと! ロザリー! 助けなさいよー! ひぃ~!?」
ベルクール伯爵家の一日は、今日もこうして騒がしく過ぎて行く。
終わり
最後までお付き合いいただきありがとうございました。




