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第六話 今はもういない魔女

『また来世で会おう、サリア』


 それが彼の最期の言葉だった。そして彼が天に召されたことが医師達によって確かめられた後、王太子がこちらにやってきた。


「長きの間ご苦労だった、魔女殿。これで王宮での貴女の務めも全て終わった。早々に荷物をまとめて城を出られるが良い」

「長きにわたりお世話になりました、殿下」


 頭を下げるとそのまま部屋から下がった。二人だけで静かな別れ時を過ごすことが出来たのだ、これから国を挙げて執り行われる仰々しい国葬に出る必要はない。二人だけですごす時間を認めてくれただけでも王太子には感謝しなければならないだろう。


 城を去る前に二人で長い時間を過ごした花園に入る。ここも先ほど水路の水を絶ったから程なく全てが枯れ果てることだろう。そしてここには王太子が組織した軍隊の人間が住まう新たな兵舎が建てられる筈だ。


「草花から一転してむさ苦しい男連中が暮らす場所になるなんて。歴代の魔女達が聞いたら腰を抜かすでしょうね」


 そんなことを呟きながら微笑んだ。


「サリア様」


 そこへ侍女が走ってやってきた。ここ数年ほど共に花園のハーブの世話をしてくれていた若い侍女だった。


「ああ、良かった、まだいらっしゃって。もう出られたかと思いましたわ」

「最後にここを見ておこうと思って。どうかしたの?」

「これをお渡ししようと思って。奥宮勤めの皆でサリア様に餞別をと」


 可愛らしい手彫りの宝石箱と美しい刺繍が施された膝掛けだった。


「サリア様は何でも持っていらっしゃりそうだから迷ったのですけどね。気持ちだけでもと思って」

「ありがとう、大事にしますね」

「皆で見送りたかったのですけれど、これから葬儀の準備やら何やらで手が離せなくて。申し訳ありません」

「お勤めが一番だから気にしないで。それより、この場所が無くなったら貴女達はどうするの?」

「はい。それぞれ宮殿の別の場所で働くことになりました。私は妹姫様が嫁がれた侯爵家に行くことになると思います」


 少し神経質な王太子とは正反対の陽気な妹姫のことを思い口元に笑みが浮かんだ。彼女もまた幼い頃からよく花園に来てはあれやこれやと尋ねていたものだ。そういう点では彼女は亡くなった国王によく似ていた。


「妹姫様はこの花園がとてもお好きでしたから、取り潰しになることを知ってとても悲しんでおられました」

「王太子殿下のお決めになったことですからね、仕方のないことよ。ここで作られた薬の記録はきちんと資料室に残されるのだから、必要になれば処方することも出来るから心配ないわ」

「侯爵家の別荘地に同じようなハーブ園を作ろうというお話も出ているんですよ。サリア様も一緒に来られたら良いのに」

「お言葉は嬉しいけれど、降嫁したとは言え王族の人間に魔女が関わることに殿下は良い顔をなさらないでしょう。だから」


 私は大人しく王家の墓所の近くに住みますよと続けた。


「もし何か分からないことが出てきたら遠慮なく訪ねてこれば良いわ。その時は歓迎するから」

「はい、サリア様もお元気で」

「貴女もね。皆にありがとうと伝えて」


 そう言うと花園を後にし、王宮を出ると王家の墓所がある北部の森へと向かった。



+++++



 これ以後、この国の王宮で魔女の姿を見た者はいない。


 国内でたまに風の噂で魔女の話が出ることもあったが、その姿を見た者は少なくやがてその存在は忘れられていった。ただ王宮の古い書物にはその存在が確かに記されていた。


 その強大な力を持った魔女は空を舞う雪色の髪と虹のように輝くオパールの瞳を持っていた。その者は古の時代に仕えた王の墓の側で今も墓守をして暮らしていると。

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