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面倒くさがり少女は、王城の大きな豹の世話係 【連載版】  作者: 有梨束


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5/5

番外編 豹の背中に乗って…?

レッサーパンダがやってきて、2、3ヶ月後の話。

夕暮れより少し早い時間、王妃陛下の裏庭に出て、豹に夜ご飯を与えていた。


これが終われば、今日の仕事終了〜。

と、喜びそうな気持ちをまだ胸に秘めたまま、ムシャムシャと肉を頬張っている豹の背中にもすんと顔を埋めた。


ぐりぐりしても豹からお咎めなしなので、餌を食べている間は癒してもらうことにした。


ああ、昼間に水浴びさせたから、いい匂いだわ。


自分で言うのもなんだが、私、いい仕事していると思う。

これだけの毛並みでもふもふなのだから、少しくらい味わってもいいだろう。


そんな気持ちで、珍しく木の上ではなく庭の真ん中で食事中の豹に覆い被さるように、のペーっとしていた。


風が吹いて、気持ちがいい。




ちなみに、この豹には名前はまだない。

隣国の慣習に従って、パートナーが名前をつけることとなり、生後半年の王女殿下が名前をつけられるわけもなく、いまだ名無しの豹なのである。


世話係とはいえ、名前を呼ばずに「あなた」だの「あんた」だの言っているので、私としても特に問題もない。



それから、第一王子殿下のパートナーであるレッサーパンダは、一時期『ライオン』と名前をつけられたが、結局はライオンの意味をもじった『レオル』という名前に収まった。


側妃様が根気強く何度も話し合われて、決めたとか。


レッサーパンダ侮辱罪にならなくてよかったな、とそこは正直ホッとしている。


時々、殿下がうまく呼べなくて「レオリュ」と噛むのは、和むし。



もふもふ、心地いい。

毛の奥の温かみを感じて、気が抜ける。

筋肉質なところと、どぷっとした肉感のところを、交互に撫でてしまう。


豹も文句言わないし、今日はツイているかもなぁ。


こんな清々しい気分で仕事が終えられるなんて最高だ、と思いそうだったというのに…。




「エルバート殿下を見ませんでしたか…!?」

第一王子殿下の従者が、この庭までやってきたのだった。


「また、脱走したんですか…」

仕方なく立ち上がって応対した私は、隠すことなく眉間に皺を寄せた。


王子がいくら逃げ上手とはいえ、目を離しすぎよ。

この人の仕事ぶりは別にいい。

ただ、王子がいなくなるたびに、なぜか私のところに来られるのは面倒なのだ。


「レオルのところにでもいるんじゃないですか?」

「そちらはもう探しました!」


さいですか。


「なので、こちらにいらしているのかとっ…!」

「こっちには来てないですね」

「そう、ですか…」

「あんたは王子殿下見かけたー?」

一応、豹にも声をかけたが、うんともすんとも言わなかった。

肉を食べるのに夢中である、そりゃそうか。


「王城の外に出てしまっているということはないのですか?」

「それは大丈夫です。殿下がつけているリボンタイのブローチが、城外に出ると警報が鳴る仕組みになっていますので」

「へえー」


それは知らなかった。

王族ともなると、便利なものをお持ちだ。

あとから聞いた話によると、王子脱走用に魔法師が作ったものだったとか。


「じゃあ、城内にはいるんですね」

「はいっ…!それで、よろしかったら殿下の捜索に加わっていただけたらと…」

萎れている従者を相手にも、容赦なくため息が出てしまう。


だって、それは残業じゃないか。

私、管轄外だし。

王子のレッサーパンダの世話係は仕事のうちですが、王子の世話は仕事内容に含まれていませんし。

大体、なんで私が…、と言いたいが、面倒ごとは断る方が面倒な時もある。


恩を売っておいてもいいだろうし、早めに上がるのを諦めるしかないか。


「………でしたら、王妃陛下の侍女のアンナさんに、言伝をお願いできますか?持ち場を離れます、と」

「もう伝えてあります!!」


なんでそこだけ元気なんだ…。


しかも、決定事項でしたか、歯向かって余計な体力を使わなくてよかった。

アンナさんが許可したということは、仕事してこいってことだ。

私に、上司に逆らう積極性はない。


「わかりました、お手伝いします」




王子の従者は何度もペコペコ頭を下げてから、裏庭を出ていった。

捜索は別々にする方が、効率がいい。


とはいっても、どうしたものかねえ。


豹のところに戻って、残りの肉を食べているところを見た。


「悪いんだけど、ちゃっちゃと食べ終わっちゃってくれる?あんたに構っている時間がなくなっちゃったの」

そう伝えると、ジロリと目だけがこちらを向いて、低い声で唸られた。


なんだその、『構ってやっているのはこちらだが?』みたいな不満そうな声は。

ああ、うるさいなあ、ガウガウと。

まあ、どっちでもいいわよ。


そうじゃなくてね。


「王子がどっか行っちゃったんだって。だから、探さないといけないの」

私が豹の額をもしゃもしゃ撫でると、鬱陶しそうに首を振られた。


はいはい、食事中に邪魔してすみませんでした。


とりあえず、レオルのところに行ってみる…?

でもなぁ、ここから遠いんだよなあ。

私の足じゃ、20分はかかる。

そのうちに、日が暮れちゃわないかしら。


「あんたがそれ食べ終わったら、私行くか、らああっ!?」

ペロリと肉を平らげた豹は、喋っている途中の私の制服に噛み付くと、そのままひょいっと宙に投げた。


あっさり投げ飛ばされたかと思うと、ボスンと豹の背中に乗せられた。


「え、なに」

びっくりしている暇もなく、豹は立ち上がると、そのまま庭の入り口へと走り出した。


「…うえええぇ、ちょっと、待ってよ!?どこ行くのっ」


背中に乗せられたままの私は慌てて首にしがみついたけど、豹は気にせず走っていく。


こちらの事情とかお構いなしだ。

大きい豹の背中の乗り心地は、正直ちょっと楽しいけど。

これじゃ、私は振り落とされそうなんだけど…!?


豹は勝手に王城内に入っていくと、次々と人を抜かしていった。


「きゃっ!」

「な、なに!?豹っ?」

「え、脱走…?」

王城で働く人たちの声が、どんどん後ろに流れていく。


その声を聞いて、豹の首を少し絞めてやった。

影響ない程度だけど、これぐらい許されるだろう。


ねえ、これ、あとで怒られるの私じゃない…?

何してくれてんのよ、この豹。

草原で過ごしているし、さっき水浴びさせたから、足の裏は綺麗だと思うけどさ。

ああ…、大人たちの困惑した声があちこちで聞こえる気がする…。


はあ、面倒ごとが増えていくぅ…。




豹の背中に乗せられたまま、あっという間にレオルのいる別の庭までやってきた。


「速ぁ…、さすが豹…」

着くなり、さっさと降りろと言いたげに体を揺さぶられた。


「もう、乱暴なんだから〜」

よいしょっと降りて、軽く制服を払う。

その背を撫でると、豹は堂々と顎下を見せてきた。


あー、はいはい、そっちでしたか。


毛並みに沿って顎下から首にかけて手を滑らせながら、庭をザッと見る。


レオルがいるだけで、他に誰もいなかった。

やっぱり、ここではなかったか。


レオル用に新たに植えられた木の上で、レオルは器用に行ったり来たりしていた。

こちらには目もくれない。

枝の先まで行こうとするから、見ているこっちがヒヤヒヤする。

あ、細い枝、折れた。

あとで片付けておこう。


肝心な王子がここじゃないなら、あとはどこを探せばいいのやら。


「ねえ、あなた、王子の匂いを辿れたりしないの?」

そう訊くと、それは無視された。


連れてきたの、あなたでしょ。

なんの根拠もなしに、走り出さないでよねぇ。


睨んでみるけど、それもしれっと無視された。


あれ、でもこの豹が自分からあの裏庭を出たのは、今日がはじめてだ。

そしてこの広い王城を、子どもの足で歩いていくには、それなりに時間がかかる。


それこそ、豹の背中にでも乗っていかないと、私や殿下にはどこも少し遠い。


近くにはいるのか。


「あんた、ここにいてくれる?その大きい図体で歩き回られると、今度こそ困るから。あ、レオルに喧嘩は売らないでよ」

そう言って、豹が腕を伸ばせそうな場所まで連れて行って、ここにいてよと頼んだ。


まあ、たぶん言うことは聞いてくれるはず、…たぶん。


普段だったら私が振り回されるけど、私が本当に困っている時は、親切なことが多い。

今回も、そこに当てはまると思う。



小さい頃からそうだった。

動物たちに擦り寄られることが多いから、接する機会も多いけれど、私が困っている時だけは、獣たちはしおらしくなるのだ。

そうして、慰めるようにそばから離れないのだ。


そういえば、両親が亡くなった時も、近所の移動用の猫が慰めに来たっけね。



「殿下〜。王子殿下、いらっしゃいませんか〜?」

大声は疲れるので、それなりの声で呼びかけるけれど、返事はない。


レオルの庭から行ける場所ねえ。

生け垣の中、草むらの中、掃除道具入れの中。

這いつくばったり、顔を突っ込んでしたりしても、王子の姿はなかった。


私、かくれんぼ苦手なんだよなぁ。


そのうち人の声が聞こえてきて、庭から離れてきたことに気づいた。

もうこんなところまで移動してきたのかと、顔を上げた。

厨房の裏手あたりで、夕飯のいい匂いがしてくる。


お腹すいたな、私も早く食堂に行きたい。


すぐそばにある、食料倉庫が目に入った。

よくよく耳を澄ませると、人の話し声の合間にしゃくりあげる声が聞こえてきた。


倉庫に勝手に入るのは怒られそうだが、緊急事態というわけで。

分厚い扉に手をかけて、たいしてない体重をかけて開けた。

ギギーッという音とともに、暗い倉庫の中が見えたけど、誰もいなかった。


あれ、ここじゃなかったのか?


「殿下〜…?」

扉の向こうに顔を突っ込むと、泣いている声がさっきよりもはっきり聞こえた。


よく泣く王子様だなぁ…。


失礼しますと一応声に出してから、奥に入っていく。

こんな薄暗い場所に、よくいられるな。

一番奥の樽と樽の隙間に、器用に収まっているキラキラの髪を見つけた。


そこは、狭くないですか。

猫かウサギか何かなんですか。

ウサギに似てますねって言ったら、怒られるんだろうな。


「殿下、ここにいらっしゃったんですね」

声をかけると、ビクッと頭が動いた。

膝の間に埋まっていた顔をゆっくり上げて、私を見上げてくる。


「ナ、ナイラぁ…」

初対面の日と変わらないくらいぐずぐずの殿下の前に、私はそっとしゃがみ込んだ。


「どうかしたんですか?」

「ううっ、ナイラぁぁ」

「どこか痛いんですか?ケガでもしましたか?」

「レオリュ、レオリュがっ」


レオルなら、脇目も振らずに木登りに夢中でしたが。


ひっくひっくと泣きながら、一生懸命喋ってはいるのだが、可哀想なくらい泣きすぎで、私は制服のポケットからハンカチを出した。

ボロボロ零れていく涙を、ハンカチで受け止めていく。


頬からハンカチへ、丸い大粒の涙が染み込んでいく。


「レオルがどうかしましたか?」

「れおるがねっ、レオリュが」

「はい、レオルが」

「おにく、たべてくれないのおぉ…!」

「お肉…」

必死の訴えに、頭を抱えたくなった。



ああ〜、だって今日王子の餌やりの日じゃないですからね…。



王子殿下は、とにかくレオルの世話をしたがる。

全部を自分でやりたいようなのだが、4歳児にできることは少ないし、殿下は殿下で勉強などもあるし。

そんなわけで、今のところ、週に1回の餌やりとブラッシングだけ許されている。


それ以外は、基本的には王城のペット世話係の私がしている。



ちなみに王妃陛下の鷹のマイルズは、王妃陛下が自らお世話をしている。

王妃様は子どもの頃からそれが当たり前だったし、私よりずっと上手だ。


公務の合間にする世話が息抜きにもなるからと、おっしゃっていた。

だからお仕事で手が回らない時だけ、私が代わっている。

週に1回か2回あるかないかくらいで、楽なものだ。


それもあって、王子は自分で世話することに憧れているんだと思う。



今日は私の担当の日だから、さっきもう餌やっちゃいましたよ…。

大量のリンゴとバナナとサツマイモを。


朝と昼は、隣国から送られてきた笹の葉を食べていたから、違う栄養のものがいいかと思って。


だから、今から肉を食えは、難しいかもしれない…。



「う〜〜〜ん、もう一度チャレンジしてみますか…?」


自分で言っていて、もし食べなかったらどうすんだ、と思う。

ハンカチは、ぐっしょり濡れている。

それでもべそべそに泣いている殿下は、放っておけないし。


この王子に泣かれると、こう、私が悪いことした気がするんだよ…!


「たべなかったら…?」

「ただお腹いっぱいなだけだと思いますよ?」

「レオリュ、ビョーキじゃない…?」

「それはないです。今日もモリモリ食べていましたから」

「ほんと…?」

「はい、大丈夫です」

「……わかった。もういっかい、いく」

王子は小さい体を起こして、立ち上がった。


そして、その小さな手には生の肉が握られた。


……食料倉庫の床に置かれていたお肉、まあ、ここ涼しいし、ギリセーフか?


食べさせる前に、せめて水洗いさせるか。

それくらいは聞き分けてもらおう。

それにしてもどこから調達してきたんだか、たくましいやら、恐ろしいやら。

厨房のおじさんでも、その可愛さで懐柔したのかな。


私はハンカチを仕舞って、手を差し出した。


「一緒に行きましょう、レオルのところに」

「うん!」

肉を持っている反対の手をあっさり握られて、なんだかくすぐったかった。





「レオルは、ご飯を食べているところを見られたくないのかもしれませんね」

「そうなのか?」


庭の蛇口で洗った肉を木の下に置いて、殿下と待ちぼうけだ。

レオルは相変わらず、枝から枝へと飽きずに動いている。


庭の端っこには、新たな縄張りとでも言いたげに、豹がでぷーんと横になっている。


「こっそり遠くから見るのも、時には大事です」

「そうするっ!」

王子はすぐに木の下から離れて、豹の方へ向かう。

その後ろを従者のようについていく。


豹は私たちに気がついて立ち上がると、するりと反対側に移動した。

ああ、王子はまだダメですか。


王子は今やレッサーパンダに夢中なので、気にする様子もなく、豹がいた場所に座り込んだ。

ああ、そんな高そうな服…、洗濯係の人、大変そう。

仕方なく、隣に座った。


「ナイラは、どうして、すぐなかよくなれるんだ?」

「どうしてと言われると、難しいですね。昔からなぜかそばに寄ってくるんです」

「ナイラがやさしいから?」

「えっ、私、優しくはないですよ」

「ナイラはいいやつ。いいひとは、どうぶつにすかれるって、ははうえが言ってた」

「そう、ですか」

じーっとレオルから目を離さずに言う殿下の横顔は、少し眩しかった。

もっちりほっぺのくせに。


王子を見ている間に、豹がいつの間にかこちらに来ていて、背中に擦り寄られた。


「うげっ、なに」

「…うおぉぉ?えっ!?」

私の声とは別に、王子の驚く声もした。


それはそうだ、豹が王子の頭に自分の顎をぐりぐりと乗せたのだから。

なんだ、私と王子をまとめて慰めに来たのか?


豹の大きい顔に王子の顔半分がすっかり埋まるようで、王子が動揺していた。

わたわたしながらも、頬を紅潮させていた。

豹は揶揄いに来たらしく、ずっとぐりぐりしている。

王子は緊張しているのに対して、豹は満足げだ。


よかったですね、殿下。


「あ、殿下。見てください、レオルが食べていますよ」

「ふぇ?…ほ、ほんとだ、たべてる」

王子は一生懸命にレオルを見つめて、さらに頬を赤くした。

目が輝いていて、いつもよりキラキラだ。

これなら、もう大丈夫だろう。


私がホッとしたのも束の間、レオルは肉を食べ終えると、のそのそとこちらにやってくるではないか。


顎を乗せられている殿下が動けるはずもなく、レオルにしっぽで顔面をパシパシされ始めた。

豹のもふもふの顎下に、レッサーパンダのもふもふのしっぽ攻撃。

気に入られているのか、おちょくられているのか。


「うわ、ま、まって!」

「あーあ…」

「ナイラ、たすけて!」


あんたたち、王族相手に容赦ないな。


「ほら、王子窒息罪で処分されたくないでしょ?それくらいにしときなさいよ」

私がしっしと手を払うと、豹にはガウガウ言われ、レッサーパンダにはフーと言われたが、どちらもゆっくり離れていった。


殿下は2匹が離れると、私の胸へと飛び込んできた。

ぎゅっと制服を握られる。


「…もふもふ、すごかった。びっくりした」

「お疲れ様でした、殿下」


それにしても、今から王子を送りに行くのか。

辺りはもう夕暮れよりも暗くなり始めている。

面倒ごとは、一つにしてほしいものだ。


というか、豹が王城を走り回った件、どうしようかな。

始末書って、豹に書かせられないのかしらね。


歩くのも面倒だし、もう一回豹の背中に乗せてくれないかなぁ。



はーあ、疲れた、それとすんごく面倒くさいっ…!








お読みくださりありがとうございました!!


まさか番外編まで出すことになるとは…。

自分でもびっくりですが、お楽しみいただけていたら嬉しいです!もふもふ〜!

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― 新着の感想 ―
あぁ~もふみに溢れておるうぅ(*゜∀゜)いい
めんどくさいwww でも、もふもふもふもふする(っ・ω・c) (*´罒`*)いー(*´□`*)なー
良いエピソードでした。 またまた、番外編に期待してもいいですか?笑笑
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