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閑さや 土手に染み入る 割れせんべえ  作者:


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第9話

さて、出かけるか。自分を待っている人がいる。

ものすごい自然に言ったけれど、これはとんでもないことだ。学校にはあれだけの人数がいるというのに、だれひとり自分を待っている人なんていない。少し前までは何年もの間、自分を待っている人なんていなかったのだ。それなのに、こんな人通りの少ない此処には、自分を待っている人が2人も、いや3人か?まあ少なくとも今日は2人もいるのだ。ありがたく…ありがたく思わないとならない。…でもやっぱり優しくて綺麗なお姉さんに待っていてもらいたかった。


あそこには、いつものごとくあのガキと美鈴がみえる。自分はギリギリまで寝ているので、大抵10分から15分ほど遅刻する。ま、遅刻といっても、だいたいこの時間に集まるという目安なので気にしなくて大丈夫。ちなみにあいつらは異様に集合が早い。


「おはよー。」

美鈴がこちらに気がついた。

「もう、未来ち!今日だけはちゃんと時間どおりに来てよね!」

ガキがなんか吠えている。

「ホントだよねぇ。今日はせっかくみんなでイオンに行くっていうのにねぇ。楽しみにしてたのにねぇ。」

「けっ、コイツもガキの味方かよ。」

「あははっ、ごめんごめん。でも今日は未来が悪いねぇ。」

「そうだよ。」

「すみませんでしたね。」

「ま、ほら行こうよ。」

こうして、3人でバス停まで歩きだした。正直家を出たとたんに忘れていたが、今日は3人ででかけようと(おもにあの2人が)目論んでいたのだった。今日いくところには、無料のシャトルバスがでている。とてもありがたい。自分も何度か利用している。


角を曲がると、すでにバスが止まっていた。

「ダッシュだ!」

美鈴がそういって走りだした。

「ダッシュだー!」

ガキも走りだした。自分は本当に走りたくなかったが、置いていかれて後から一人で向かうのはもっとごめんなのでなんとか走り出した。

「未来ち、遅いよ!」

「うるせぇガキ!」

「ホラホラ。」

美鈴に背中を押される。そんなことされても走りにくいだけだと思っていたが、押す人の足が速ければ本当に速くなるらしい。

「ぐへっ。」

急に美鈴が押すのをやめたので、慣性で前に飛び出てしまった。

「よし、間に合った!未来ちお疲れ!」

押しながら走っていた貴女のほうがお疲れだろうに。体力の差がすごい。

「やったね!」

ガキが飛び出して、一番にバスに乗り込む。続いて自分と美鈴も乗り込む。

「2人そこ座っちゃっていいよ。未来ちはお疲れみたいだしね。」

3人だからどうしようかと悩んでいたところ、すかさず美鈴はそういった。経験値が違いすぎる。こやつは今までもそうやってたくさんの友達と遊んできたのだろう。自分が悲しくなる。

「楽しみだね!」

チビははしゃいでる。


イオンに着いた。自分はどこに行ったら良いのかわからない。普段は本屋、100均、アニメイト、ゲーセン、時々映画館といったところしか行かないので、友達と遊ぶとなるとどこへ行ったらいいのかわからない。

「愛華ちゃん、どこ行く~?」

「えっとね、なんかピンクの可愛いおみせ!」

「ファンシーショップみたいなとこか!やっぱそこだよね、行こう!」

ファンシーショップなんて懐かしい。昔は家族に連れられて行ったものだ。自主的に行くところという発想は無かったが。


ファンシーショップに着くと、さっそくガキが店先のピンクの薔薇のような細かい柄が付いたくまに引っ掛かった。

「これ、かわいくない?」

「ほんとだ、かわいいね。頭に付いてるお花がかわいい。」

「そうか?」

「もう、未来ちったらわかってないなぁ。」

ガキが。

「わかってないなー。」

お前もか。


「ねぇ、これ着けてみたらかわいいんじゃない?」

「さすが。いいですね。」

ガキがピンクのプラスチックのカチューシャを着けて、小さな試着用の鏡をのぞく。こんなとこにわざわざ鏡を置く必要は無くないか?

「かわいい!」

「えへへ。では、美鈴ちゃんも。」

美鈴も似たようなカチューシャを着けてガキにみせる。嫌な流れだ。

「残るは…。」

「いらないから。」

「まったく、そんなこと言って!」

「ほらほら未来ち~!すちゃ。」

やられた。

「かわいいっ!未来ち、一番似合ってるんじゃない?」

「嬉しくない。」

自分からつけておいて貶されるよりはマシだが。

「かわいいですよ。」

このガキはいつもどっかしら失礼なんだよな。

「これ買ってったら毎日着けてくれる?」

「着けないね。」

「え~、せっかく美鈴ちゃんが買ってくれるのに、不躾な。」

「悪かったね。」

「んじゃあ、これならどう?」

小さい花の付いた、薄い緑っぽいヘアピンだった。

「まあ、これなら。」

「えっ、ほんとですか?」

「うそ!」

「そんなつまらない嘘はつかないが。」

「それはないでしょ~。」

なんだこの美鈴は。

「いやったぁ!もう、すぐ買ってくる!未来ちの気が変わらないうちにね!」

「いや、悪いから自分で払う。」

「私、バイトしてるんで。未来ちと違ってね。」

「なんだコイツ。」

「それに、私が買いたいからね。」

「そう。」


「はい、未来ち。」

ピンは赤いチェックにテディベアとリボンが描いてある小さな紙袋に入れられていた。おそるおそる着けてみる。

「恥ずかしい。」

「なんでよ!」

「なんで!」

「そらそうだ。」

「せっかく私が未来ちのことを思って、よーく考えて買ったんだから、ちゃんと付けてよね?」

「別に付けますけど。」

「なんだ、未来ち照れてるだけですね。」

「ガキが。」

「ツンデレだね~、かわいよ~。」

「…うるさい。」

「ほらほら、何か食べにいこ。」

「やったあ、私お腹すいた!」

「未来ちは?」

「自分もお腹空いた…。」


3人でフードコートに来た。フードコートってやけにガヤガヤしていて五月蝿くて、苦手だ。

「なに食べようか~。」

今も美鈴はお姉さんムーブをかましている。

「愛華ハッピーセット!」

こいつはクソガキムーブをかましている。

「いいね!私ハッピーセット大好き!私はね~、ラーメンにしよう!」

自分は…、ちゃんぽんだな。あんなに美味しいのにあんなに野菜が摂取できる、素晴らしい食べ物だ。


「じゃあ、私ここで待ってるから2人先に買ってきてね。」

またこいつはお姉さんしてやがる。

「はーい。」

ガキはすぐさまハッピーセットに吸い込まれていった。

「未来ちも買ってきな。」

「美鈴さ、ずっとそんお姉さんぶって大丈夫なのか?」

「んん?」

「バスの席のときも、ここ着いたときも、今だって、ずっと美鈴が仕切ってるだろ。それ、…疲れるやつじゃないの?」

「未来ちったらそんなことも考えられるようになったんだねぇ。ありがと、でも大丈夫だよ。」

「無理してんじゃないの?」

「してないよ、ほんとに。2人は純粋で良い子達で、クラスの奴らとはわけがちがうの。やることはそんなに変わらないのに、今日はすごい楽しいもん。それに、未来ちにこれはできないでしょ?」

「グゥの音もでない。…まぁ、ならいい。」

「ほら、未来ちも買ってきなさい。」

「はい。」


ちゃんぽんは空いていたので、すぐにあのフードコートでしか見たことのないブーブーなるやつをもらって美鈴のもとへ戻った。ガキはまだ列にソワソワしながら並んでいる。

「早かったね。」

「うん。早く行ってこい。」

「いってきますよ。」


美鈴のとこもすいていたので、すぐ帰ってきた。

"ヴヴゥーーー!"

「うわあぁっ!」

「あは、未来ちびっくりしすぎ。かわいいね。」

「うるさい。いってくる。」

「いってらっしゃい。」


温かいちゃんぽんを持って帰ると、すぐに美鈴のヤツがブーブー言い出して、美鈴はラーメンを取りに行った。直後にはガキもハッピーセットを持ってご満悦な様子でやってきた。

「みてみて未来ち、かわいいでしょ!」

「うん、幼稚園児が好きそうでかわいいね。」

「もー。素直じゃないんだから。」


我々はその後昼めしを食べて、アイスも食べて、本屋やらガチャガチャやらいろいろと回った。

帰りのシャトルバスを待ちながらも奴らはワイワイしている。

「ねえ未来ち、今日どうだった?」

美鈴が覗き込んで聞いてきた。続けてガキも覗き込んでくる。

「まあ、疲れたけど…楽しかった。」

「だってよ!」

「やったね、愛華ちゃん!」

2人は異様に喜んだ。

「なんだよ。」

「未来ちってこういうとこで遊ばなそうだから喜んでくれるのかなって。」

「お友達と遊んだことなさそうだもんね。」

「おいガキ。幼稚園のころは遊んでたわ。」

「あはは、ずいぶん昔じゃん。」

「しょうがないんだもん。」

「ふてくされちゃったね、未来ち。」

「まったく。ほら、バスきたぞ。」


自分たちは列の先頭に並んでいたので、一番後ろの3人で並んで座ることができる座席をとれた。帰りは、今日1日お姉さんムーヴをかましていた美鈴も含めて見事に3人で寝過ごし、バス停4つぶん歩くことになった。


やっぱり今日はとても楽しかった。




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