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あの日の夢の中で。  作者: たなえび
第一章«夢の初めは»
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第十四話《昨日の敵は今日の友》

 遺跡調査任務当日。


 早朝から、リュネルの気分は最悪だった。


 目が覚めてからいつも通り皆で食堂で朝ご飯を食べ、なぜか疲れている体を少しでも休めるべく風呂に入った。


 それでも尚、体の倦怠感は抜けきらない。

 そう、まるで中級魔導を行使した後のような体のだるさ。


 しかしそんなことで任務をおざなりにする訳にも行かず、重い身体を引きずるようにして、どうにか集合場所、アルテネ大公国の南側、飛行船の発着場に到着した。


 今回の遺跡調査任務の概要は、その名の通り遺跡の調査、及び最奥で発するロネアの原因の究明。


 場所は暗黒大陸(ダークコンポーネント)の北西に位置する遺跡。

 移動手段として飛行船があるが、今回は未知の領域である暗黒大陸(ダークコンポーネント)に行くわけだから、念の為、飛行船が何らかの理由で故障してしまう可能性を考え、風魔導師に風魔導の〔飛行(フォルーズ)〕で大きな船を飛ばしてもらう。


 普通の飛行船は一般的な燃料を積んで飛ぶわけで、〔飛行(フォルーズ)〕はロネアの量に比例してどんなものでも飛ばすことが出来る魔導だ。


 これなら、万が一飛行船が壊れても、レノ当たりが飛行船を顕現(アライズ)で作ってくれれば国に帰れるという訳だ。


 まぁ要するに風魔導師を多く引き連れていくということ。

 そして、そうするのはもう一つ理由がある。


 飛行船には積載量に限界があるからだ。

 今回の遺跡調査任務は、何故かスーパルトとの共同任務となった。

 アルテネ陣営+スーパルト陣営の人数と備品の重さと量があり、持ち合わせの飛行船では重量オーバーなのだ。

 更にスーパルト陣営は現地集合、つまり暗黒大陸(ダークコンポーネント)に直接行き、そこで待ち合わせればいいものの、スーパルト側は一度アルテネに来てから、アルテネ陣営と共に暗黒大陸に行くという。


 まぁ、当然と言えば当然かもしれない。

 魔導の発展が遅れているスーパルトが、自力で暗黒大陸に行こうとなると、それこそ至難の業だ。

 彼等も飛行船くらいの知識と技術はあるので、到着はできるだろうが、そこからの活動が難しくなるに違いない。


 暗黒大陸は、その名の通り、黒い瘴気におおわれている。

 その物質が何なのかはまだ解明されておらず、ただ体に害を及ぼすことくらいは、何も分からなくとも理解出来る。


 アルテネ陣営はまず風魔導師の魔導でその黒い瘴気を全て吹き飛ばす作戦だ。

 そして開けた道を進み、遺跡を目指す。

 遺跡内部はそんなことも無いそうなので、風魔導師は本当に雑用のためだけに着いてくるみたいだ。


 と、まぁそんなこんなで始まった遺跡調査。


 荷物の積み込みも終え、飛行船の安全確認、各々の身体検査、寝将騎士に身体検査がどれだけの意味があるかはわからなかったが、一通りは済んだようで、寝将騎士団に各一室与えられたチーム部屋で、【ラノ】はくつろいでいた。


「はぁー、なっがいねー。早く着かないかな?」


 スーが長いソファーに体を投げ出してぐでーっとしている。


「そんなすぐには行ける場所じゃないわよ。黙って大人しくしてなさい」


「えー暇よー。レノー、なんか出してー」


 プリスが姿勢正しく椅子に座り、ダラダラするスーを諌めるも、態度を改める素振りは見せず、レノに何やらお願いしている。


「ボードゲームとか作れない?」


「わからない」


「あー、そっかー...」


 眠そうな目を擦りながら断るレノに、スーが残念そうに諦める。


 リュネルとシンはと言うとプリスと同じように椅子に座ってぼーっとして、他愛もない話をしていた。


「今日の朝飯美味かった」


「お?ほんとか?今日のは気合い入れたからなー」


「お前はいい嫁になるよ、シン」


「ガハハ!誰か貰ってくれねーかなー」


 あはははは、と、椅子の背もたれに顎を乗せて二人してどうでもいい会話を繰り広げる。


 するとそこへ扉を叩く音が割り込む。


「失礼」


 聞き覚えのある声だった。


 開く扉の前には、シンと体つきや身長が大差ないほどに鍛えられた巨躯を持つ、見覚えのある男が立っていた。


「この度、貴国と遺跡調査の共同任務に当たらせてもらう、仮ではあるがスーパルトのリーダー、ドナーロだ。挨拶をと思い、お邪魔させて頂いた」


 丁寧な言い回しに、最後はお辞儀までしたその男は、以前王宮で初めてリュネル達がスーパルトとの共同任務を王族に言い渡された時にそこに居た、スーパルトの幹部の男だった。ドナーロと言うのか。今は先日のような無骨な鎧は着ておらず、スーパルトの騎士の制服なのか、きっちりした正装を纏っていた。


 と、直ぐに気づき、慌ててプリスの方を見る。


 あの時、プリスは我を忘れてスーパルトへの恨み、と、この男に襲いかかったのだ。

 突然そいつが部屋に挨拶に来て、またも心が揺らされたに違いない。


 そう思いプリスの方を見るも、彼女は依然として椅子に姿勢正しく座ったままだった。

 勢いよく振り返ったリュネルを見て、プリスは口だけ動かして「だいじょうぶよ」と言った。

 彼女の中で、どうやら折り合いが付いたようだ。彼女の事だから、任務は任務、私情は私情、みたいに住み分けをしたに違いない。


 その様子を見ていた男は不思議そうにリュネルらを見るも、プリスには気づかず、視線はレノの方へ向かっていた。


「おお!貴方は夢属性の!お名前は何と申すのですか?」


「れの。じゅうごさい」


「じゅごっ、そ、そうですか、」


 素直に返すレノだったが、年齢とたどたどしい口調とのギャップに驚いたのか、ドナーロは少し動揺し、レノをジロジロと見ていた。

 当のレノはなんの事やらさっぱりと、首を傾けてハテナマークを頭の上に浮かべていた。


 すると不意に、これまでずっと黙って未だソファーに寝そべっていたスーがドナーロに問い掛けた。


「ねぇ、何であんたら急に遺跡調査の共同任務なんて申し出たの?」


 あまりの直球さに、リュネルは動揺を隠せなかった。

 シンもプリスも、驚きからか、すごい速さで首を動かしスーに視線を送る。


 目で「おい何言ってんだよ!」という意を込めて睨むも、スーは知らんぷりで、更に深く追求する。


「今更アルテネと仲良くしようだなんて思ってないんでしょ?なのに何で?」


 敬語も使わず、攻撃的な口調で喧嘩を売るように聞くスー。

 まだ任務が始まってまもないのに共同でやる所と揉め事を起こすのはまずい。揉め事とはならなくとも、険悪な雰囲気になるだけでも、やりずらさはどこかで必ず出てきてしまう。

 それをスーも分かっているはずなのに、どうしてこんなことをするのか。


 男は無言でスーを見、スーもまた口を噤んで男を見返す。


 すると男は諦めたように嘆息し、ゆっくりと口を開く。


「分からない」


「はぁ?」


 スーが、苛立ちを隠そうともせずに聞き返す。


「そんな訳ないでしょ?腐っても幹部でしょ?知らないわけないじゃない」


「本当に知らないんだ。この任務自体俺は先日アルテネへ行ったその日に知らされたのだ。表向きは遺跡の調査となっているが、本当の目的などは俺は知らない」


 男は近くにあった空いた椅子を自分のところへ引き、深く座った。


「これから共同で任務をしようと言うのだ、できる限りの事は教えてやりたい。ただ俺の知らないことまでは教えてやれない」


 男は「すまんな、」と言って苦笑いをする。

 いつの間にか、丁寧な話し方は取れて、気さくな口調に変わっていた。


 スーもこれ以上追求する気は失せたらしく、きまり悪そうにそっぽを向いていた。


 本当の目的、という物が実際あるのかは分からないが、あっても無くてもそれが幹部クラスになっても教えて貰えないとは一体どういう事だろうか。

 それすら分からずに任務に赴くというのは、それだけ忠誠心が高いのか、それとも強制力が強いのか、どちらなのだろう。


 それにしても。


「何でそんなに俺達に良くしてくれるんだ?仮にも敵同士だぞ?」


 スーパルト連邦国とアルテネ大公国は腐っても敵同士。

 お世辞にも仲が良いとは言えない。なんなら悪い。


 なのにどうしてこの幹部さんは俺達にこんなにも情報を垂れ流しにするのか、不思議でならなかった。


「さっきも言っただろ、今から協力して任務をするって言うんだ、国同士仲が悪いからこそ、俺達だけでも話しやすくなっておいて悪いことはないだろう」


 な?、とドナーロが同意を促してき、とりあえず「あぁ、」と返しておいた。


 なんだか話が出来すぎてる気もしなくもなかったが、男の話し方や態度、何より表情に嘘の空気は無かった。気がする。


 それに、とドナーロは言う。


「そこのお嬢さんにずっと睨まれてるしな」


 視線の先にいたのはプリス。いつの間にか、膝の上にはレノが座っていた。

 皆の視線を集めていると気づくと、「え、私?」と戸惑っている。


「あぁ、あの時俺に殴りかかってきたお嬢さんか? 悪かったな、投げ飛ばしたりして」


「あ、いえ、こちらこそ、」


 小さくなって謝罪を述べるプリス。

 大丈夫とか言ってたがずっと睨んでいたのか。まぁ恐らく無意識なんだろうけど。

 ドナーロの予想外の腰の低さに戸惑いつつも、嫌悪感は無くなったようだ。


「とにかく、俺はできる限り今回の任務、穏便かつ互いの利益を尊重して行いたい。これは全ての団に言うつもりだ。だが、一つ一つの団に真っ直ぐ伝え、軽薄な言葉にならないよう振る舞うつもりだ。どうか」


 よろしく頼む、と椅子に座ったまま頭を下げる。


 いつの間にか、怪しむ気持ちは霧散しており、単純にドナーロという人間の人間性の良さに驚いていた。

 ただドナーロを良い奴だと思ったのもそうだが、スーパルトにいながらも、また、アルテネからの気持ちの良くない視線を浴びながらもこうして真正面から気持ちを伝えられるこの男を、酷く尊敬した。


 確かに小さく考えていたかもしれない。

 アルテネにだって極悪人はいる。王族とか王族とか王族とか。

 逆に、スーパルトにだっていくら大戦期に甚大な被害を被られたからと言って悪い人達ばかりではないという事だ。


 プリスのことじゃないが、気持ちは、きちんと向ける対象、方向を理解してぶつけるべきだと、改めて思った。


 ドナーロは、爽やかに「次の挨拶もあるから、また。時間をとってしまってすまない。ありがとう」と言って部屋を後にした。


 ドナーロが出て行き、少ししてシンが何だか楽しそうに。


「おいおい、普通に良い奴じゃねぇか、ドナーロっておっさん」


 シンがドナーロに対して、リュネルと同じ意見を述べた。


「そうね、少し早とちりしてしまったわ。謝られるだなんて、思ってなかった」


 下を向いて申し訳なさそうにプリスが言う。


 レノは特に何も考えていなさそうな顔だったが、嫌いな相手となるとレノはすぐに顔と態度に出るので、少なくともドナーロはレノの目には悪い人とは映らなかったのだろう。


「なんだか、あたしが子供みたいだった。この前の王宮の時と態度違いすぎじゃない」


 スーが拗ねたように口を尖らせて言う。

 まぁ彼女含め俺達は実際子供なのだが。

 それでも確かにドナーロの態度の変わりようは凄かった。

 仕事とプライベートを分けている、と言えば聞えはいいがここまで変わるものなのか。


 ドナーロも、敵国の王宮で下手に出てはずっと見下されたままだと思い、大きく振舞っていたのだろうと、あの態度を見たあとなら分かる気がする。


「まぁ穏便に任務が終わるに越したことはないし、良かったよな」


 皆一様に頷く。

 ただ一人、彼女を除いて。



 ☪︎*。꙳



 少し、違和感があった。

 彼女は気づいたかもしれない。

 まぁ幼い彼女だ。きっと気づいてもどうしようもないだろう。


 全ては、主のために。



 ☪︎*。꙳



 リュネルらの部屋からドナーロが出たその時と同時刻。


 アルテネ、スーパルト陣営を乗せた飛行船に風魔導師達は〔飛行(フォルーズ)〕をかけ終わり、飛行船はアルテネ本土より、離陸を果たした。

遺跡調査編始まります

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