第十二話《オペレーション【ラノ】》
「とにかく!具体的に陣形とか考えるぞ、おい!いい加減ニヤニヤすんのやめろぉぉおおおおお!!!」
クールぶってるだのカッコつけてるだの散々言われて数分。
すっかり口調は年相応の話し方になり。
ようやくリュネルも落ち着き、みんなも笑いが納まったかと思えばこれだ。
リュネル自身はそんな風にしていた覚えは微塵もない。
自分のことをカッコつけてるな、とか今のちょっとキザだったかな、とかは時々思うが故意にやっていたことなんて一度もない。
なのにあの赤眼の小娘は。
「ふっ、始めるとするか。...ブッ」
スーがキメ顔で誰かさんの真似をする。
ツボに入ったようでシンもプリスも抱腹絶倒。
こいつらがこんな感じなので周りの視線が痛くて、今は自分らのホームの食堂に場所を移した。あとレノが眠そうだったので部屋にも連れてった。
今は食堂のテーブルの隣でみんなで椅子を向けあって座っている。
「さ、いい加減やめないとリュネルが本気で怒っちゃうわ。早く始めましょう」
プリスが涙を拭きながらいまだ笑ってる二人を諌め、姿勢を正す。
「おープリスありがとうな、ただお前のそのニヤついた表情もだいぶキてるから気を付けろ?」
「あら、ごめんなさっ、ぃ、」
口を抑えて目をそらすプリス。
え、そんな面白いのか?俺普通にしてるんだけど。一回俯瞰的に自分を見てみたいものだ。
「ごめんね、リュネル。なんか一回面白いと飽きてもずっと笑っちゃって。レノはもう寝ちゃったし、さっさと決めよっか」
スーも懲りたようで、謝りつつ話す体制を取ってくれる。
「はぁ、やっと決めれるのか。じゃあまず自分たちの戦力の分析だな」
「分析?何のためだ?各自で来る敵殴りゃあ終いだろ。今までもそうだっただろ?」
シンがリュネルの物言いが不思議そうに聞いてくる。
パンパンに詰まった腕を組んでいるが、どうやら脳みそまではパンパンにならなかったらしい。
「あのなぁ、シン。それが対策されるだろうから、今こうやって話し合いをしてるんだ。それに俺達は一番乗りで最奥に到達しないといけないんだ。各自が戦うってなると五人全員で最奥まで行けるか分からないだろ」
各々が来る敵来る敵に対応していると、自ずと何処かに比重が偏ったり、カバーに入ろうとするとまた何処かにズレが生じたりする。
だから今回は自分らの戦力を元に、陣形や使う魔導を絞ったりして、本格的な作戦を作ろうと思う。
「えーと、じゃあまずはあたし、スーは水属性、魔導も水です。〔顕現〕で武器錬成、あとは体に纏ったり、レノ程じゃないけど汎用性は高いよ。それと中級魔導二つと上級魔導一つ、極大魔導も今鋭意制作中なのでお楽しみに~」
パタパタと手を振る。
指折り数えながら魔導の説明をするスーを、リュネルはポカンとして聞いていた。
文字通り桁違いだ。
リュネルなんて中級魔導二つ――内一つは〔零の波動〕――と初級魔導を乱れ打ちするくらいしか攻撃手段が無い。
まざまざと才能の差を見せつけられ、改めて危機感を覚えた。
こんなことでは、守れないじゃないか、リュネル。
「はー、スーは相変わらず凄いのね。素直に尊敬するわ。じゃあ私ね。プリスは光属性光魔導です。私は基本回復魔導の〔回復〕を使うわ。中級と上級それぞれあるけど中級を何回も行使する感じでいいかしら?攻める時は〔光速〕で速さを上げて物質強化の基本魔導〔強化〕で戦うわ」
分岐属性なだけあって多彩な魔導を使うプリスは、シンに次ぐ囮役や重要なヒーラーとして立ち回る。
パーティの要と言っても過言ではない。
「おっ、じゃあ俺か。俺はご存知の通り脳筋魔導しか使えねぇぞ?〔強化〕でぶん殴ったり、あまりやったことないが土魔導の〔巨化〕も使える。でもやっぱ得意魔導は〔鉄壁〕だな!」
ガハハハ!と豪快に笑ってみせるがシンはこう見えて魔導、及びロネアの緻密な扱いはピカイチだ。
〔強化〕は物質の強化、具体的には物質の硬化や刃物だったら鋭さなどを強化する魔導なのだが、もちろん基本魔導なだけあってロネアの消費は少ない。が、だからと言って戦闘中ずっと行使し続けるとあっという間にその日は動けなくなるので、要所要所、つまり敵に攻撃する際などに瞬間的に発動させるのがベストだ。
これをシンは完璧にこなしている。
さらに先程本人が言っていた〔鉄壁〕はぐうの音も出ないほど完璧に仕上がっている。
土属性で有名な防御系の魔導で、体の表面に盾のような物質を作り出し、身を守る魔導だ。
ただシンの使う〔鉄壁〕はそんなもんじゃない。
攻撃が届く0.00000秒の世界で発動し、守るどころか衝撃をそのまま相手に跳ね返す。
正に鉄壁。
脳筋スタイルのシンにピッタリの魔導だ。
「俺の〔鉄壁〕がみんなを守れるくらいに大きな盾を作れるようになったらいいのになぁ。...プリス?どうかしたか?」
夢を語る子供のように自分の魔導について話すシンを、プリスが物憂げな表情で見つめていた。
慌てて自分がシンを見つめていることに気づき、体を揺らす。
「えっ!ア、イヤナンデモナイワヨ!」
「すごい棒読みだな」
「もう!いいから!はい!次リュネルちゃんの番!」
強引に話題を逸らされ、視線がリュネルに集まる。
が、。
「あっ、そっか、リュネルちゃん、まだ...」
しまった、という具合にプリスの言葉が尻すぼみになる。
仲間に気を使わせているのが申し訳ない。
そして、そんなやつがリーダーをやっていることも。
「いやいや、俺も頑張るよ。俺は零属性。使える魔導は中級二つ。〔零の波動〕は最近安定してきたよ」
と言っても、まだ実践で使えるかは怪しいが、そう言わないと三人の不安そうな表情は変わらないと思ってそう言った。
「そ、まぁリュネルは司令塔なんだし、基本的に戦闘には参加しないで欲しいわ。レノの隣に立って戦うのが丁度いいかも」
「それもそうね、あの子見てないと凄いことしそうだし」
スーもプリスも、気遣いを気遣いと思わせない口振りでフォローしてくれる。ほんと、周りに恵まれてるよな、俺。
「そうだな!俺も指示くれないと何すりゃいいかわかんねぇしな!」
「お前はもっと頭使えよな」
シンの物言いに俺がツッコむと、皆が一斉に笑い出す。シンは居心地が悪そうに頭をかいている。
俺もそろそろ、本気で自分の魔導について考えた方が良さそうだ。
気づくのおっそいよなぁ、これ。せめて遺跡調査までには何らかの形で完成させよう。
「分かった、とりあえず戦力が把握出来たところで陣形的なのを組もう。まず一番前はシン。異論は?」
「ないね」「ないわ」「おう!任せろ!」
即決で殿が決まる。囮役にも盾役にもなるシンを先頭に置くのは当然だ。問題はその後ろの陣形。
「盾役をシンに任せて、あとは後ろだ。レノと俺はくっつくとしてプリスとスーは何処にいればいいんだ?」
「あたしは」「私は」
「「こいつと一緒は絶対いや」」
スーとプリスがお互い指をさしあって声を合わせる。
シンもリュネルも「おぉ、」と感嘆混じりの声を漏らす。
「分かった、お前ら第二戦線な」
「「ちょっと?!」」
またもや声を合わせる二人。気まずくなってお互いに顔を見れていないようだ。仲が悪かったら声なんか合わないし、同じ場所に立つことももっと抵抗するはずだ。恐る恐るお互い顔を見ようとすると目が合い、その度にふんっ、と顔を逸らす。何やってんだが。
「よし、じゃあ頭がシン。その後ろにプリスとスーで、レノと俺は縦に並ぶ。俺はできるだけ全体を見て指示をしたいから一番後ろに行くよ。一応レノの〔顕現〕を発動してもらっとく」
「道中からレノの〔顕現〕頼りで大丈夫なの?あの子、いつもはロネア無限っ子だけど、今回ばかりは温存させた方がいいんじゃない?」
ロネアは基本的に寝ないと回復しない。プリスの〔回復〕でも消費したロネアは帰ってこない。
だから基本的に温存しながら戦う。何故なら使えなくなったらただの人間だから。体内、自分自身のロネアを使って魔導を行使するのが寝将騎士。
魔石や魔道具を使って大気中のロネアを消費して魔導を行使するのが魔導師。
リュネルも魔道具は使うがこれはあくまで自身のロネアを使って働くものだ。大気中のロネアは使用できるようにはデザインされていない。
スーの言う通り、今回ばかりは敵国を魔導でねじ伏せる任務とは訳が違う。
温存して行くに越したことはない。もしもの時にレノがロネア切れになってしまっては、【ラノ】の戦力は大幅にダウンしてしまう。
「わかった、じゃあレノの〔顕現〕はギリギリまで」
「だいじょうぶ」
温存させておこう、という言葉の前に、幼い少女の声が割って入る。
皆の視線が食堂の開く扉に向かう。
「レノ、起きたのか」
先程、彼女は眠そうにしていたので、ホームに戻ってきた時に部屋に連れていき、ベッドに寝かせていたのだ。
「れのはつよいから」
イノシシデザインのパジャマに身を包んだレノは、『だいじょうぶ』の理由をたどたどしく話す。
何故か脇には枕が抱えてあった。
「強い、って、いくら強くてもロネアが切れたら」
プリスが具体的に説明しようとする。
確かにレノは強い。【ラノ】の中では一番だろう。
ただそれは【ラノ】の中での話。他と比べても強い部類には入るだろうが、今回は相手が人でない可能性もある。
そして強いだけではいけない。強くても、ロネアが切れてしまえば。
彼女は【ラノ】で一番非力な少女になってしまう。
遺跡では何が起こるかわからない。未知の場所での対応を完璧にこなす自信は、リュネルには無かった。
「レノ、お前が強いのは確かだが、」
「だいじょうぶなの!!!」
突然、レノが声を荒らげる。
今までレノが声を荒らげてものを言うなんてことは無かった。
皆唖然として、口を開けなかった。
「だいじょうぶだから、だいじょうぶ」
意味不明なことを言うレノだが、寝ぼけている風でもいなかった。
ギュッとパジャマの裾を握り、一呼吸置いて、言い放つ。
「しんじて」
「――――」
真っ直ぐにリュネルをその大きな瞳で射抜く。
レノは。
レノ・ラノ・モーネリアはわがままだ。
さながら、幼子のように自分の意見を曲げずに、我を突き通そうとするフシがある。
しかし今は。
【ラノ】の一員として、自分の力を信じて欲しいと。
「いつも、わがままばっかだから」
俯いて、もごもごと話す声は少し恥ずかしそうな色を帯びていた。
「つぎは、れのががんばる」
そんな風に思っていたのか、と素直に納得してしまった。
自分でも、普段からワガママなことは分かっていたのか。
いや、十五歳にもなってそれが分からないのもどうかと思うのだが、それでもそれが知れただけ良かった。
それにいつも自分たちで決めたことをレノに押し付けていたことにも、少し罪悪感を感じていたのだ。
今みたいに話し合いや決め事のとき、レノの意見が採用されることは少なく、いつもほかの四人が決めたことをレノに伝えるだけだったのだ。
レノは理論的なことは何も言っていない。結局は精神論だ。
気合いで乗り切る、とか言ったことはリュネルは好きではない。
ただ、仲間を信じるとか、仲間のワガママは聞いてあげたく思ってしまう。
それがリュネルの嫌いな精神論ってあっても。
「わかった」
「?!リュネル?!...いいの?」
スーが驚きながら、リュネルに聞き返してくる。
「何かあったら、皆でフォローし合えばいいんだよ」
だろ?、と言って皆を見渡す。
俺だって、みんなの力になりたい。
何の説得にもなっていないレノの物言いに未だ納得していないスー。
しかし。
「レノが言うなら大丈夫だな!何かあったら俺が守ってやるからな!」
「れのもまもる」
「回復しかしてあげられないけど、私もフォローするわ。レノはうちのエースだもの」
「ぷりすもまもる」
各々、レノの意見に賛成のようだ。
プリスは言うと、レノに駆け寄り、「さっきは止めてくれてありがとうね」とハグをしていた。いいなぁ。プリス。
レノが魔導でサポートしてくれるとなると百人力だ。戦力、陣形的には万全。ただ、未だ未知の敵、という部分だけで、不安は何倍にも膨らむ。
未だ黙るスーを見る。
と、目が合った。が、直ぐに逸らされてしまった。
否定した手前、あとに引けなくなった、と言ったところか。
助け舟を出してやりますかね。
「お前も、レノに守られればいいんじゃないか?」
軽く、スーにそう言ってみる。
レノも聞こえたようで、プリスに抱っこをせがんでいる。
そんなことを言う今も、レノなら出来てしまう、やってしまえるんじゃないかと、思う自分がいた。
いつもレノの魔導を頼りにして作戦を立てていた。
レノの意見なんかお構い無しに、ただただやるべき事だけ伝えて放ったらかしにしていた。
ただ今回は、レノが自分から言ってくれた。
守ってやる、と。
「...あたしも、守ってくれる?」
恐る恐る聞くスー。
不器用な彼女はごめんね、とか自分から誰かにアプローチすることが下手くそだ。そのくせ、仲良くなった相手にはズケズケと踏み入ってくる。ほんと、変わってない。
そしてレノがスーの申し出を断るはずもなく。
プリスに抱っこされて来たレノが親指を立ててグーサイン。
「まかせろ」
無表情のまま、そう言った。
「これはりゅねるのまね」
要らんことを付け足して。
次回からいよいよ遺跡調査編です。




