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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST12. 歩む果ては何処へ
201/237

sandy

 ジザン海岸(かいがん)。クシャーノ半島から更に西へ突き出た、東西に伸びる海岸線の名称である。

 この海岸は砂洲(さす)であり、まさに西から東へと伸びる砂浜ではあるが、西の尖端には巨人が海に向かって(くい)を刺したような円柱型の岩場が存在する。

 岩場には橋が架けられ、この橋がウシル大陸と接続している。あなたたちはこの橋を渡って国境を越え、いま地峡あるいは回廊と言うべき海岸線を東に向かっている。

 その道中。長刀を構えるワラビが、

「やあああぁっ!」

 立ち塞がる敵を、一閃(いっせん)(もっ)て切り伏せた。


「ねえキミ! 大丈夫!?」


 ワラビが駆け寄る。あなたたちはモンスターの群れと遭遇し、今ワラビが最後の一体を斬ったのだが、あなたは油断を突かれてダメージを()ってしまった。

 右脚が痛み、(しび)れる。幸いにも大事はないが、この痛みと痺れがあなたを跪かせる。

 あなたを刺した触手。ワラビが斬ったことにより、ピチピチと砂の上でのたくるように(うごめ)いている。


 『ヒドラ』。あの九つの首を持つと言う、神話のヘビの名を冠するモンスターである。

 実際にヘビの頭を持っているわけではない。細長い棒状の軟体生物で、一方に無数の触手を生やす、気味の悪い見た目の生物である。

 この生物は触手を使って獲物を捕食する。と言っても力は弱く、タコやイカのように獲物を拘束する力はないのだが、その触手から毒を送り込む。

 この毒がヒトを痺れさせる。主に海中を漂うこの生物だが、(まれ)に波の力を借りて陸に侵出することがあり、あなたたちは運悪くも行く先をこの生物の群れに阻まれたため、()む無く相手をしていた。


「――“泥命(モモヒナキ)”。ごめんなアンタ。あたしの武器じゃ、ああいうモンスター相手にできなくて」


 ジュリアが罪滅ぼしに解毒魔法を唱えた。

 ジュリアは戦いに参加しなかった。と言うより、あなたとワラビが参加させなかった。

 これは彼女の得物に起因する。鎖分銅と(いしゆみ)、つまり打撃と射撃を武器とする彼女は、ヒドラのような生物とは相性が悪い。

 彼女は「点」で攻撃する。急所を見極めて狙い撃つのが彼女だ。しかしヒドラにはその急所がなく、「線」や「面」で攻めて制圧するしかないため、あなたとワラビは彼女を後方に控えさせていた。

 魔法があなたの脚から痛みと痺れを幾分か引かせる。が、抜け切るまで(しばら)くの時間が要るだろう。


「なあワラビ、このヒトの毒が抜けるまで休もう」

「そだね。ちょっと早いけど“おゆはん”にもする?」


 ジュリアがあなたに肩を貸し、ワラビがあなたの荷を抱えた。

 仲間と言うのはこういった時にありがたい、などとあなたが感じ、あなたたちがヒドラの死骸から離れた所まで移動する。

 そして腰を下ろし、あなたが空を見上げる。時刻は落猿の時を過ぎ、もう少し()てば日が傾くだろう。

 明るいうちに進んでおきたかったが仕方がない。砂に尻をつけたあなたが海水で右脚を洗う。


「なんて言うか、風情あるとこだよな、ここ」

「そうだね」


 白波が押し寄せては引く、(あお)い海を眺めながら二人が言った。

 砂洲は沿岸ではしばしば見られる地形であるが、一つの岩に向かって(しか)と伸びる砂洲は珍しい。

 この海岸にヒトは見当たらない。ニカブを外している二人が過去に訪れたある島に想いを()せる。


「バースデイ島を思い出すね」

「ああ。よかったなあの島は、食べ物もうまかったし。そういえばセルマちゃん元気かな」

「ふふっ、ジュリアあの子に嫌われてたじゃない。未練がましい」

「うるせえ。ありゃテオがいたからだ。テオめ、あんないたいけな子をたぶらかしやがって。あいつさえいなければあたしが独り占めできたのに」

「ジュリア”ろりこん”だもんね」

「ああ。子供はめっちゃ好きだ。否定はしねえ」


 ふん、とジュリアが鼻を膨らませてワラビの蔑称を認めた。

 二人は忘れている。あの島でドラゴンと戦ったことを。脚を潰され、散々な目に遭った事をあなたが思い出す。

 いま思い出しても身震いがする。あのドラゴンの耳をつんざく叫びに、刃物の如く銀色に光る眼。あの時はよくも挑んで勝てた、などとあなたが思い返していると、

「あっ、あれって」

「“マンゴーシュ”だ。まずいのが現れたな」

 上空から飛来し、着地した二羽の白い鳥に、あなたたちが警戒した。


 『マンゴーシュ』。ツルと呼ばれる種の鳥に似た、大型の海鳥である。

 決して刺激するな、と警戒されているモンスターでもある。その理由は、(くちばし)がとても危険なのだ。

 鋭利に尖った嘴は正に剣。獲物である魚はもちろんのこと、船の帆布やロープも容易(たやす)く切断し、だから一地方における短剣の名で呼ばれている。

 この鳥はヒトを恐れず、危害を加えようものならその嘴を以て攻撃する。迂闊に刺激して(おお)怪我(けが)を負ったヒトは数知れない。


「よかった。あたしらに気付いてないみたいだ」


 ジュリアが息を吐く。二羽の海鳥は、あなたたちが倒したヒドラの死骸を(ついば)んでいた。

 腹を膨らませ、(ひな)の分まで蓄えたら巣へ帰るだろう。けれど、ワラビが声を潜め、

「でもあの鳥の嘴って、けっこー貴重だったよね?」

 危険と促される海鳥の討伐を呼びかける。


「ワラビ、やる気か?」

「倒した方がよくない? 今の私たち、お金ないようなもんだし」

「……あっ。おいワラビ」


 ジュリアの返事も待たずにワラビが、二羽の海鳥に向かって一気に飛び出した。

 長刀を抜いたワラビ。気取られぬよう姿勢を低くし、足音を立てず静かに駆ける。

 獲物を見つけたネコのように速く、しなやかに。対する二羽の海鳥は啄むのに夢中で、後ろから迫るワラビに気付かずにいる。そして、

「“鏖殺剣(オーバーキル)”!」

 不意を突き、ワラビの一閃が一羽を一撃で(ほふ)る。


「あいつ。無茶しやがって」


 ジュリアが弩を構えて援護に向かった。

 だが、その必要もなかった。残る一羽と切り結ぶワラビが、ジュリアが駆け付ける前に斬って倒した。


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