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heartache

 生物が()み付くことを拒むアシュタルト砂漠。その地下に、豊富な資源が眠っていることは説明した。

 特に天然ガラス、アシュタルト・グラスを求め、戦士やハンター、冒険家などが訪れる。その玄関口と言うべき町・オムドゥルマに、なんと雪が降り積もった。

 雪は直ぐに溶けた。しかし、その溶けた雪が引き起こした空前絶後の山津波は、オムドゥルマに甚大なる被害を与えた。

 死者、行方不明者は枚挙に(いとま)なかった。その溺死者の中には、あなたたちが立ち寄ったタンジュラのヒトもおり、今回の山津波がいかに凄まじかったかを物語っている。

 大通りが(さら)われたことで街の機能も失われ、戦士であるあなたたちはしばらく街の復旧活動に勤しんだ。そうして六日が経過し、水が粗方引いたことを確認したあなたたちはオムドゥルマを出立した。


「うう、今夜も寒いねぇ」


 外套(がいとう)(くる)まるエムブラが、夜空を見上げながらコーヒーを(すす)った。

 満天の星空。あなたとエムブラを震わす冷たい風が、波に似た風紋を砂地に描いている。

 あなたたちとエムブラは今、砂漠で野営をしている。砂漠を越すつもりはなかったあなたたちだが、進路を変更してアシュタルト砂漠を横断していた。

 元々目的地としていた港町ヤースケーは、シバ・ワジの河口に位置する。ヤースケーも山津波によって機能不全に陥った(しら)せを聞いたため、東へ向かうあなたたちは砂漠を通らざるを得なくなってしまった。


「……ぐー」


 あなたの後ろに立つテントから、ワラビのいびきが聞こえた。

 普段ワラビはいびきを()かない。腹の虫が鳴ることはあるが。


「彼女、やっぱり疲れてるね」


 テントに顔を向けたエムブラが物憂げな声で言った。

 ワラビとジュリアは、ここのところいびきを掻いたり、うなされる毎日が続いていた。

 慣れぬ砂漠の気候もあるが、主な原因はオムドゥルマで行った活動にある。あなたたちはオムドゥルマで、たくさんのヒトの死を目の当たりにし、しかもその死体を葬った。

 弔う暇などなかった。死体の数は膨大で、言い方は悪いが片付けるが如く死体を葬っていた。これにはあなたも(こら)えるものがあり、ヒトが手に掛けた死骸の情け深さを感じている。

 自然は容赦なかった。山津波による遺体は、水と土砂が押し潰した所為で損傷が激しかった。中には肉塊と言っても差し(つか)えのない変わり果てた遺体もあり、そんな痛ましい亡骸(なきがら)を数え切れぬほど葬ったのだ。残された人々の嘆きも併せ、二人が疲れているのも無理はなかった。


「うう、ごめんよ、おじさん……」


 ジュリアのうわごとが聞こえた。


「……ふぅ。君も、早く忘れなさい」


 コップを置いたエムブラが、一息吐いてあなたに告げた。

 食堂の主人が、濁流に呆気(あっけ)なく呑まれた。あの光景は今もあなたの脳裏にこびりついている。

 それにしてもエムブラは気丈だ。彼女もオムドゥルマで死体の葬送を手伝っている。

 疲れた素振りを見せない彼女に、エムブラこそ大丈夫なのか、といった旨をあなたが問う。すると、

「……正直なこと言えば辛い。寝る前とかに頭に浮かんじゃうもの。でも、ボクは君たちの先生だから」

 無理をした笑みを浮かべて答えた。


「君たちに頼れるところを見せておかないと。君も辛かったら、ボクに弱音を吐きなさい。聴いてあげるよ」


 今は夜中だ。しかし、砂が月の光を反射するためか、あなたは優しく微笑(ほほえ)むエムブラの顔がはっきりと(うかが)えた。


 ***


 そして日が昇り、二人が起床した。

 朱色(あけいろ)に染まった砂の大地。()に併せて気温が上昇する。


「はぁ。今日も暑くなりそうだな」


 身支度を済ませたジュリアが、地平線上の日を望んで言った。

 オムドゥルマを発って五日が過ぎた。ひたすら続く砂の大地が彼女に疲労を与え続けている。


「元気出して、ジュリエッタさん」

「センセー。センセーは“ニャンフンルル”で船に乗るんだよな?」

「そう。だからもう少しでお別れだね。短い間だったけど、君たちとできた旅をボク忘れないよ」

「ふふっ、別れにはまだ早いよセンセ」


 他愛のない会話を交わすジュリアとエムブラ。今ジュリアが言った「ニャンフンルル」とは、アシュタルト砂漠を抜けた先に在る、ハルシエシス最東の港町である。

 このニャンフンルルにて、あなたたちはエムブラと別れる予定だ。あなたたちが元ムーダイトと呼ばれる地へ行くのに対し、彼女は船に乗って遥か北東の国・レキへ行く。

 これまで進んできた経路が正しければ、あと二日でニャンフンルルに着くだろう。


「よし、行こう。行くよ、ビッグス、ウェッジ」


 ワラビがラクダのビッグスとウェッジを呼んだときだった。


「うっ、風だ」

「あうっ」


 突風が吹き、砂の混じった風にあなたたちが腕で目を覆う。

 間もなくして風が止み、あなたたちが腕を下ろすと、

「えっ、ちょっとなにあれ!?」

 ワラビが仰天する。盛り上がりながら走る『砂』を、あなたたちは目撃した。


「お、おい、こっちに来てるぞ!」


 たじろぐあなたたち。隆起する砂は、蛇行しながらもあなたたちに向かって突き進んでいる。

 地中に何かいるようだ。その海面すぐ下を泳ぐサメの如き砂に、あなたたちが得物を手に取って身構えるが、

「あっ! ビッグス!」

 地中から勢い良く飛び出した生物は、あなたたちを無視してラクダ二頭を狙った。

 ビッグスが噛みつかれ、左後ろ足を引き千切られる。続いてウェッジも襲われ、胴体を食い千切られる。


「こいつ!」


 ジュリアがラクダを貪る生物の、(うろこ)に覆われた胴体に矢を放った。

 矢が刺さり、くるりと振り向く生物。環節状の細長い胴体があなたたちを凝視させる。


「なんだこいつ……」

「ヘビ? ミミズ? ちょっと違う……」


 見たこともない巨大な生物を、二人が(いぶか)しげに臨む。

 目の前の生物は、その巨体に似合わぬ小さな目を持ち、鱗に覆われた長い胴体には短い前足が付いていた。

 妙な生物だ。基本は大きいくせに、一部の重要な器官が極端に小さい。前足など最早飾りのようである。


「これ、きっと“パズズ”だね……」


 エムブラが険しい顔をして生物を見上げながら言った。

 確かに食堂の主人が言った話と外見は一致する。パズズはヘビのようでいてミミズのようでもあるモンスターと言っていた。

 しかし砂嵐は吹いていない。パズズはカムシーンと共に現るモンスターと聞いている。

 食堂の主人は遭ってはいけないと警告した。あなたたちの前に、(ねっ)()(ぜん)(ちゅう)が現れた。


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