神話の始まり
神の住まう世界 天清界。
それは最高神が変われば名前も変わる。
人間より遥かに長い寿命を持つとはいえ、神は死ぬ。
だから神の入れ換えの時期を世界ごと変える節目としているのだ。
今の名前は「天清界レティジア」
大精霊神ティデアを最高神として治められる世界であった。
そして、その女神が住まいし宮殿 「パドラヌス」
女神はその玉座の上で、神世の者達に見せる笑顔などとうに失ったかのように厳しい顔で目の前の鏡を見ていた。
時折目を瞑っては、胸に手を当てて。
目を開けては、大きく息を吸って。
暫くその行動が繰り返されているうちに、突如宮殿のなかが魔力の強い空間に変わった。
魔力が強い空間はいわば酸素濃度の濃い空間とも同じと言える。最上位の神ティデアは瞳が鋭くなる程度だったが、従者の中にはフラりと倒れるものも現れれた。
酸素酔いならぬ、魔力酔い。
限りある命と引き換えに得られた五感による弊害。
その源は、ティデアの前に置かれた鏡。
先程からティデアの姿は映らず、代わりに写るのは雲の上の美しい世界 天上界ジェネーヴ。
「絶対魔法」が現在恩恵を与える世界の方だ。
「絶対魔法」の入れ換えは、「絶対魔法」が永い年月をかけてもたらし続けた魔力の飽和によって起きる現象である。
与えられ続けた魔力はじき溢れ返り、「絶対魔法」すら別の世界に押しやるほどになる。その兆しが、歴代の最高神達が扱ってきた「望んだ世界を写し出す」宝鏡によって、鏡すら通り越し溢れ出る魔力だった。
「…ティデア様…。」
側近の神がティデアに対して盆を掲げた。
その盆のなかにあは四つの宝石のような輝きを持つ玉が入っている。
赤、青、緑、黄色。
この四つは四加護者を選び出す上で無くてはならない神具。
ティデアはその一つ、黄色の玉を掴むと掲げて見せる。天窓からの光にかざされ、黄色の玉は更に輝きを増した。
無意味な行動ではあったが、もう一柱の大精霊神が行方知らずになっているティデアにとって、この玉に宿った精霊は心のよりどころだった。それを今から神話すら廃れた世界「地上界アレヴァーブ」へ送る。仕方のないことといえ、ティデアにも心はある。
心配そうな眼差しを黄色の玉に向けた。
「…私は今から貴方を地上界へ送る。……どうか、」
どうか。
そのあとの言葉は続かなかった。
此れより始まるは、魔法を、神話を否定された世界で起きる四人の加護者と四人の精霊達の物語。
願いを叶える事と引き換えに
神話として語られ続けることを引き換えに
長くとも辛くとも続く
神話の物語




