八日前-2
どうでもいい情報
・アルドは少食。食べ過ぎると体が受け付けなくなってリバースする。体でかいくせに。
懐かしい夢を見た。
何時の長期休暇だったろうか。如何せん十年以上昔の事で記憶が朧気だが、暑い夏の日だったのはよく覚えている。休み期間中は寮が閉まるってことで、オレは教会に里帰りしていた。牧師様も修道女様もオレの元気な姿を見てとても喜んでくれたし、何より帰ってきたオレを心の底から歓迎してくれた。
長期休暇の間オレは自分の出来る範囲で二人の手伝いをした。ご飯を作ったり、ミサの準備をしたり、信者の挨拶回りや牧師様の説法に着いていったり、出来るだろうと思ったことは何でも。
牧師様は町の人から信頼され、尊敬されていた。最近になって知ったが、牧師様は同盟の偉い軍人さんで多くの実績を挙げた英雄だったそうだ。あの好々爺の牧師様がかつて軍人だったと聞いたときは思わず目ん玉が飛び出そうになった。
そのせい、そのお陰だろうか。
オレはあの夏、初めての出会いを果たした。
暑い日だった。その日オレは体調を崩して寝込んでいた。まだ今ほど体も強くなってなかったし、その前日に何かアホみたいに張り切って教会の手伝いをしたのが原因だ。肝心の張り切った理由はすっぱり忘れてしまったが、何か嬉しいことでもあったんだろう。単純なのも昔と今の大差はない。
とにかく高熱で、とにかく喉が渇いていた。渇いて乾いて仕方なかった。薬とか楽さとかそんなものは二の次で、何よりもまず水が欲しかった。近くに水差しも置いてあったような気もするが、体を動かすどころか目を開けるのも億劫だった当時のオレはただ誰かが水を口に運んでくれることを期待していた。
どれ程待ったか。もしかしたら数分かもしれないし、何時間も経っていたのかもしれない。時間の感覚もあやふやだったが、それだけ待って漸く誰かがオレの部屋にやって来た。
知らない足音だった。牧師様ともおばさんとも違う。直感的にそう思った根拠は、二人に比べて床の軋む音が何時もより小さかったからだ。だがそんなことはどうでも良かった。人が来てくれたのなら水を貰うことが出来るはずだ。
『水…』
誰かと名前を聞くよりも、何の用だと聞くよりも先にオレは水を欲した。
その人は直ぐに近くに寄ってきてオレに水を飲ませてくれた。甘かった。美味しかった。他の何よりも至福で、それだけで病状が和らいだ気さえした。
そして直ぐに感謝を伝えたくなった。比喩でも何でもなく文字通り命の恩人であるその人に。
オレは重い目蓋を開け、目の前のその人の顔を見た。
それは-…
「起きなさいラングマン君」
「…はぁ」
呼ばれて目を開けると、女が一人いた。思わず溜め息を溢してしまう程度に良く見知った輩だ。
彼女の名前は『メリッサ・カヴァフィス』。歳はオレより二つ下の18歳で身長はオレより頭二つ小さい。白髪で大人びて快活な顔立ちが多い民族の生まれにしてはやたらと童顔で小動物チックな雰囲気をしているが、本来目のある場所は真っ黒な眼帯によって完全にシャットアウトされているせいか何処と無く怪しげ…いや不気味な風貌でもある。専攻は『黒魔術』とこれまた怪しげだ。
そんな怪しさ満点の顔馴染みの顔を見たとたん、懐かしくも美しい出会いの夢の余韻も溜め息と共に儚く口から逃げてしまった。
「何で溜め息つくのよ」
「心地良い夢を見てたのに起こされて、目の前にアホ面構えてる五月蝿い女がいれば溜め息つきたくなるさ」
目の前の顔を押し退けて予め置いておいたコップの水を飲み干す。寝起きの口のネバつきは嫌いだ。
「そこまで言わなくても良いじゃない」
「単純にそこまで言われる謂れがあるんだろ。あぁクソ腹減った…」
時計に目を向けると時刻は午後二時になっていた。少し目を閉じる程度のつもりが、ずいぶんと長いこと寝てしまっていたらしい。朝九時寝れるはずがないと宣ったが、知らず知らずの内に疲れが溜まってたのか。
いやそれ以上に心配なのは昼飯だ。確実に食堂は閉まってるし、売店に残ってるのもどうせ冷めた売れ残りの弁当か不人気のカップ麺だ。どうせ今日は講義無いし、いっそ外に出て何か買おうか。
「じゃあさ、いつものお店で食べようよ」
「ナチュラルに人の心の中を読むな」
「アダッ!?」
唐突に後ろからのしかかってきた女の額に強めのデコピンをしてやると、彼女は頭を抑えながら面白いくらいに痛みに悶える。
「…ブフッ!」
堪えきれずに思わず吹き出すと、彼女は顔を真っ赤にして再度詰め寄って来た。
「殺す気かぁ!?」
「悪い悪い、やっぱどうも寝起きは色々加減が効かんみたいでな。まああれだ、一品奢るから許してくれよ」
「むぅ…」
「お前だってオレの心読んだろ。そんな睨んだってこれ以上は譲歩しねぇぞ。
尤も、その眼帯のせいでどんな顔なのか分かんねぇんだけどな」
「取ったげようか?」
「止めろよゾッとしない。それ効かないのお前の彼氏だけだから」
「じゃあさじゃあさ」
彼女は一転して嬉々と起き上がり、
「店まで押してってよ」
と、どこか楽しそうに車イスの上に乗った。
ここで話が一時的に反れるが、先に述べた通り、彼女は『オレと同じ様に』髪が真っ白で、更に怪しげな…ともすれば拘束具ともとれる無骨な眼帯まで装着している。『』使ってまで強調したので察しの良かろうと良くなかろうと分かるだろうが、彼女もオレと同じ『白血』だ。
ここで改めて『白血』について述べておくと、『白血』は単に体が弱いわけではなく、本来あるべき体力を別のところで使用しているせいで生命維持が困難になる『先天的隔世遺伝障害』とでも言うべき体質だ。
人間には『生命力』と『精神力』が宿っている。『生命力』はフィジカルつまり体力や免疫力や筋力等に関わり、『精神力』は魔力や気や第六感に関わってくる。この二つは多少大小はあるがバランスの取れている状態なのだが、たまに生命力は平均あるのに精神力が殆ど無い場合がある。俗に言う『魔盲』だが、これは精神力が大きすぎて肉体そのものにダメージを与える可能性があるから生命力で押さえ付けて『無い』と誤認されているだけだ。体を鍛えて肉体を強くすれば段階的に精神力は増大する。
が、生命力だけで精神力を押さえられない場合どうなるかと言うと、肉体を守るために他のところから…それこそ生命維持に関わるところから回収する。まずは病原菌などから体を守るための免疫力、紫外線から身を守るための色素、最終的に生命維持をする上で絶対欠かすことの出来ない筋力さえも持っていく。そうやって補完した結果が、白血の『白髪赤眼』という特徴に起因している。
オレは免疫力と体色素欠損、筋組織が少し弱いだけで済んでいるが、メリッサはオレよりも酷い…逆接しちまうと精神力の多さが生物としておかしな量だった。そして多すぎた精神力…具現化した第六感が彼女に課した枷が『魔眼』である。
彼女の魔眼についてはまた別の機会に説明するとして、メリッサのつけている眼帯はその効果を抑えるための物であり、彼女がオレに車イスを押してと頼んだのはオレと違い五分以上歩き続ける体力が無いからだ。
「…最近お前の彼氏さんからの風当たりが強いから、こういうのは出来ればしたくないんだが」
「だぁいじょうぶだよ。アイツがラングマン君に突っ掛かるのは突っ掛かってもちゃんと返してくれるからだし」
「構ってちゃんはNGで。勿論ツンデレもだ」
「嫌いだもんねラングマン君。…で、押してくれないの?」
「…はぁ」
再度溜め息を一つ溢しながら補助杖を腰のホルダーに掛けてから車イスのグリップを握ってやると、メリッサは何故か嬉しげにはしゃぎ出す。
「何時もなら断るのに、今日のラングマン君は優しいね!何か良いことあった?」
「牧師様は人に優しくあるべきなんだとさ。その練習だ」
「じゃあじゃあ、その優しさ練習に免じて私にイッチバン高いケーキを買ってくれる気は…」
「それは『甘やかし』か『貢ぎ』だな」
「そうだね!」
「開き直るなよ。全く…さっさと行くぞ」
「レッツゴー!」
相変わらず口の回転数が早いメリッサに適当な相づちを打ちながら、オレは研究室を離れた。
研究室を出て十分ちょっと。正門前から続く学内大通路の先、校舎本棟の前にある大掲示板。オレはその前でアホ面晒して立ち呆けていた。眺めて、目を擦って、もう一度目を逸らして、そしてオレより前で車イスに腰掛けているメリッサの方を見る。
「…なぁ、オレは夢でも見てるのかね」
「いいやラングマン君。もしアンタの夢の続きならアンタは自分の美しい出会いの思い出を自分で汚すことになるし、私に今目の前に見えてるそれは幻覚でも夢でもないよぉ」
「…ですよねぇ」
期待と百八十度の答えが返ってきたのに落胆しながら改めて掲示物に目を向ける。残念ながら書いてある事柄は一字一句変化していなかった。
『以下ノ者ハ本日十八時迄ニ校長室ヘ出頭セヨ。
レオンティエン・ファン・ドースブルフ
ロイター・ケーニッヒ
アルド・ラングマン』
「上二人は何となく分かるけど、ラングマン君何かしたの?」
「皆目見当付かないから戸惑ってるんだよ」
事実オレはこの半年大きな事をしでかしたりもしてないし、ロイターの所要とかにも一切関わってない。強いて、本当に強いて言うなら卒業論文で昔袂を別った別宗派の体勢についてボロクソ書いたくらいだけど、校長と学科長に何故か絶賛されてたからそれで呼ばれるとは思えない。
そう言うことは心当たりがありそうな奴に聞けば良いだけだ。
「取り敢えずバカ呼び出して話聞かないと」
「まだ講義中じゃない?」
一日の講義終了時刻は十七時だけど最終学年で講義で埋ってる輩何てのは卒業のための単位計算を間違ったか資格マニアくらいだ。ロイターもバカだがオツムの出来は相応に良いし根っからの趣味人だから今更一般教養の講義を受けてはいない。そもそも趣味の合間に人生してる放蕩皇子が必要以上に時間を削るとは思えない。
「飯食ってる間に終わるだろ」
「それもそうね」
本人の意思など鑑みること無く二人で納得し、オレ達…少なからずオレはほんの少し憂鬱な気持ちを胸に抱きながら校門へと向かった。
学院が在るのは現在世界有数の大都市であると同時に完全中立の立場を取る海上都市国家『イスティール』。
都市の直径は250km、在住人口は百万人前後だが連盟の重要機関が集中しているのと観光名所・流通の中心地でもあるため実際の人口は一千万人に迫る。
学院があるのはその南西部の端、100k㎡の土地を占有している。土地の使用用途は校舎と学生寮などで4k㎡で、残りの96k㎡は実習施設だとか実験棟だとかパイロット養成だとかの土地だ。この現状を見るに、学科が多すぎるのもどうかとも思わされてしまうが、現状この学院の卒業生達の多くが活躍することで回っているこのご時世でそんなことを大っ広げに言える輩は中々居ないだろう。それこそ馬鹿の実家レベルの権力者じゃなきゃ、口にした途端一家朗党後ろ指を指されていくことになるだろうな。
話が逸れて何言いたかったのか分からなくなったが、単純に学院の敷地がアホみたいに広いと言うことさえ理解できればそれで良い。具体的な時間を言うと、先程の大掲示板のあった広場から校門を出て、近くの定食屋に辿り着くまでざっとニ十分掛かる。徒歩では何かときつい距離だが、ちょっとした散歩やランニングにはちょうど良い距離でもある。
なら何が不満かと言えば歩いている間、延々とメリッサの彼氏さんに対するノロケと愚痴とその他諸々のお話を聞かされる事だ。他人の恋人話というのは話す方は楽しくて愉しくて、自分の愛しい相手のことを他の誰かに知ってもらえてとても嬉しいものではあるのだろうけど、それを聞かされる方の身にもなってくれ。何が悲しくてそんな他人二人のあんなことやこんなことを、聞いてもいないのにダラダラと聞かされ続けるのだ。オレじゃなければ初めの五分で我慢の限界を迎えていただろうし、オレも後数分終わるのが遅かったらブチキレていただろう。
だが結局店内で注文した昼食が運ばれてくる間もお話が続き、ここでついに我慢の限界を迎えたオレは運ばれてきた出来立てのミートパイをメリッサの口に無理矢理ブチ込み黙らせるという暴挙に出てしまった。
「ンンーーー!?」
出来立てで熱かったのかそれとも単に不意打ちで驚いたのかメリッサはバタバタと手を振りながら何かもがくが、それも何処吹く風かとオレは追加で店の名物『チーズたっぷりホワイトソースグラタン』とお冷やを注文し、持ってこられたお冷やをメリッサに渡す。
メリッサはオレの手からグラスを奪い取りミートパイを体内に流し込んだ。
「殺す気かぁ!?」
「お前ツッコミのボキャブラ無さすぎじゃないか?」
「そういう問題じゃ無いでしょうが!何でミートパイ!?黙らせるにしてももっと良い方法あったでしょ!?」
「やっぱりお前オレの内心分かってた上で話してやがったな。何?『彼女いない歴=年齢』のオレに進んで喧嘩売ってるのか?良いだろう何時でも高価買取中だ、何なら二個目いくか?あぁん?」
やたら喧嘩腰で、苛立った口調で粗暴な言葉をぶつける。粗暴な口調なのは何時も通りだけどここまで苛立っている理由は、わざわざ繰り返すまでもないだろう。オレは元来短気なのだから、よく耐えたと思う。うん。
しかし流石に強く言い過ぎたのか、メリッサは数秒唖然としてからグッと下唇を噛み締め押し黙る。
「大方卒業して会えなくなるかもしれないから出来るだけ沢山思い出を共有しようって算段なんだろうがよ、別に今生の別れって訳でもねぇだろ。お前らしくないし、そういうのは会う機会が全く無くなるロイターにした方が良いんじゃねぇの?」
メリッサはお喋りではあるけど気遣いもできる女だ。オレが嫌だと思うことを率先してやるほど馬鹿じゃない。なら何故こんなことをしたのかと考えるのならば、気を引きたかったか知って欲しかったから…さっきメリッサは『構ってちゃんが嫌いだもんね』と言ってたから恐らく後者だ。
何を考えてそんなことを、等容易く思い付く。思い当たりなど幾らでもある。そのいの一番の心当たりがさっきの言葉だ。
その証拠に、
「…ラングマン君って、魔眼持ちだったっけ?」
と、案の定図星だったメリッサは何ともバツが悪そうな顔をしてボソッと呟く。
「オレの就職先忘れたか?これくらい察しが良くなきゃ、牧師様の後なんか継げるかよ」
「朝ケーニッヒ君に言ったこと忘れてない?」
「あー何だっかな~思い出せねぇわ~ここのデザート奢ってくれないと思い出せないわ~」
「私じゃなくても分かる棒読みしないでよ!何で私が貢ぐことになってるの!?」
「体の弱いアルドさんはもしかしたら帰り道に死んでしまうかもしれないのに、弔いのデザートも貰えないのか」
「そういう状態でデザート食べるの!?馬鹿なの!?そもそも死ぬ予定なんて無いでしょ!!仮に死ぬとしても間違いなく私の方が先よ!?ていうか私に奢ってくれるって話は!?」
「そうか、じゃあ葬儀はうちの教会でしてくれ。安心しな、安くしとくし毎年命日にはお前の好きだったスウィーツをお供えするから」
「その前に結婚式とか勧めなさいよ縁起でもない…じゃなくて、ああもう!」
やっぱりこいつ生粋の芸人だ。一体どんな人をリスペクトしたらこうなるんだ?ロイターだろうか。あのボケと下ネタの申し子相手にするとなると相当ツッコミの才能がないと無理だ。それともまだ物語に登場してない彼氏さんだろうか?あれもあれで中々のキワモノだから、可哀想に、メリッサは犠牲となったのだ…。
「アンタよ馬鹿!!」
「え、マジで?」
正直リスペクトされているのは嬉しいけど、そのうちオレみたいに常時低血圧の短気野郎になっちゃったりしないよな?一気に心配になってきたぞ。主に彼氏さんが。
「…」
「…」
「…ねぇ、この茶番何時まで続くの?」
「散々ノロケ話に付き合っただろ?あとたまにはオレにもボケさせろ」
「モンブラン奢るから止めて。何時もの厳しいけど怖くない、ちょっと優しいラングマン君に戻って」
「やったぜ」
こうしてオレとメリッサはお互いにデザートを奢りあう不思議なランチタイムを過ごすのだった。
謎の奢り合いの30分程経ち、漸くロイターが店に着た。
「遅いぞロイター」
「これでも授業終わって直ぐに着たんだが…というか何だよその皿の山は」
ロイターは机の上に山のように積まれた空の皿を見て顔を引きつらせた。
「あえて言うがオレじゃねぇぞ?」
「メリッサか?」
「そ。尤も本人は食いたいだけ食って今はグロッキーだがな」
皿の山の奥ではメリッサが食い過ぎで気分を悪くして突っ伏していた。
「止めなかったのか?」
「口じゃ止まんないし、初犯じゃないからあえて止めなかったんだよ」
メリッサはストレスが食欲に回るタイプの人で、特に気を紛らしたい時なんかはアホみたいに、それこそ完全に胃腸の許容量を軽く越えた量のスウィーツを食べる。しかし当然の事ながら体の許容量を越えた量を食べてるわけだから苦しくなる。そして倒れたのだ。
いつもは彼氏さんが無理矢理止めてるけど不在だった上に、今回のストレスの原因は間違いなくオレというのははっきりしてたけど、学ばないのはオレのせいではないはずなので今回痛い目を見てもらうことにしたのだ。
「相変わらず厳しいな」
ロイターは呆れながらオレに言うが、
「人は大体痛くないと覚えないからな。そういう意味で是非とも優しいって評価してもらいたいもんだよ」
オレは皮肉を混ぜながら弁明をするとロイターは苦笑いを浮かべた。馬鹿して痛い目を見て学んできた男にとってはさぞ面白くない言葉だろう。
「それより俺を呼んだ理由はなんだ?俺もお前もこの後呼び出しをされてるんだから、ここで悠長にお茶会とは洒落込めないぞ?」
「今自分で言ったじゃねぇか。今度は一体どんな馬鹿をやらかしやがった?女子更衣室に変な術式を組み込んだか?寮の風呂に一方向透過魔術を書き込んだか?それともまた同盟のお偉いさんの娘と一夜の過ちもといワンナイトフィーバーでシッポリムフフか?」
因みに今のは全てロイターが過去複数回に渡りやらかした所業だ。勿論こんな馬鹿なことをしている理由もあるのだが、これが世継ぎだと思うとこいつの親父さんもおちおち隠居も出来ないだろう。というか子種適当に取り出してから去勢するのが誰にとっても幸せなのではないだろうか。この調子では隠し子だとか何だとかで相続権と王位継承権が大変なことになるぞ。
「お、落ち着け親友…」
「落ち着けだぁ?テメェはそれやらかした後処理で大体オレを巻き込んできたじゃねぇか?それでオレ何度死にかけたよ?何回お前助け出すために頑張ったよ?オレはどこぞの配管工か!?」
「じゃあ俺はピンクのお姫様か。流石の俺も男には手を出したことは無い。手を出されそうになったことはあるがな」
出されそうになったことはあるのか。是非とも顔を拝んでみたいものだが、宗教的、生理的にソイツとは一生分かり合うことはないだろう。
「だが、親友であり尚且つ細身で在れど鍛え上げられた肉体美を持つお前なら抱いても良い、抱かれても良いかもしれんな」
「身の毛のよだつ事言ってんじゃねぇよ!!」
思わずケツの穴がキュッとなる事を平然と言いやがって。というかやっぱりコイツ山寺に突っ込んじゃダメだな。阿鼻叫喚ならぬアッー鼻嬌喚になってしまう。
「アル×ロイですか?ロイ×アルですか?」
「寝てろ発酵系女子ぃ!!」
「あぶん!?」
いつの間に起きたのかそれとも腐った性根が根性みせたのか変なことを口走ったメリッサの口の中にオレのデザートの『季節のフルーツチーズタルト』をぶちこみ黙らせる。奢らせた分だったけどメリッサが食べてしまったのでノーカウントのはずだ。というかノーカウントにしろ。
「なぁに安心しろ。実は最近読んだ魔道書に書いてあった性転換魔術を修得している。これで戒律を気にする必要など無いぞ?」
「勘弁してくれよ…」
部屋に帰ったらベッドにセーフティゾーンを拵えなくてはならなくなった。仮に体が女でも男に貞操を奪われてたまるか。死んでも御免だ。
「…で、結局のところどうなのよ?」
「非情に申し訳無いが心当たりが一切無い。だから俺もお前に理由を聞きたかったんだ」
「なるほど八方手詰まりか」
すんなりと答えられたせいでアテが無くなってしまった。だとすると何だろうか。オレは学院に入学してから今日まで生徒指導の教員に怒られそうな事はしたことがない。寧ろ生徒指導の教員に『ロイター・ケーニッヒの外付け安全装置』とまで呼ばれていて『あの放蕩皇子を止められるのは君だけだ』と謎の信頼を得ている。それくらい素行が良いと評判の学生だと自負している。
ロイターでもなく、当然のことながらオレでも無いとしたら、一体何が原因で呼ばれたのだろうか。
「…行って直接確認すればすむ話ではないか?」
「それもそうだな」
結果的に言ってしまえば呼び出した人物に直接聞くのが一番手っ取り早いのだ。ロイターには無駄な労力を払わせてしまったけど、疑いが晴れたから良かったと思わせることにしよう。
「ところでアルド、午前の講義でお前を見かけなかったが何をしていた?」
…。
「研究室で寝てた」
「アイス一個な」
「…はぁ」
忘れてれば良かったのに。
メリッサちゃんですが最初期設定ではヒロインでした。
当初の予定ではアルドが牧師になって数日後、何かしらの理由で町を歩いていたらゴミ捨て場に打ち捨てられていた…とかそんな感じの出会いを考えていました。その後アルドが無視したのを突っ込むって形です。
でも在り来たりすぎたのでやめました。
でも彼女を出したいなぁ、ならどんな形で出そうかなぁと考え、何やかんやあって現在の『仲の良い後輩その1』ポジに収まる結果となりました。たまにいる『友達以上にならない異性』って感じです。多分距離が近すぎるんでしょうし、何たって相手の考えが読めるんだもん。
なお、彼氏さんはそのうち出ます(次回とは言ってない)。
次話投稿は11/16月曜日の予定です。
よろしければ読んでみてください。