第四話 自由奔放な青髪娘
俺とシェリィさんは、クエストを受けるために近くの草原に来ていた。ちなみに言っておくが、薬草採取のためではない。魔物退治のためだ。俺は薬草採取を受けようとしていたのだが、シェリィさんが勝手にクエストを変えたのだ。何でも、「いち早く金を稼ぐため」らしい。
「はぁ……」
「ん?何ため息ついてるのよ。幸せが逃げちゃうわよ?」
「今現在進行形で幸せが逃げているわけですが」
「なっ!?わたしとクエストを受けるのが不満だって言うの!?失礼な男ね!」
シェリィさんが隣でわめき始める。いけない、本心が口に出てしまったようだ。でも仕方ないだろ?俺、魔物と戦ったことなんてないんだから。また死んだらどうしてくれるんだ。
「すみません。それより、一体何のクエストを受けたんですか?」
「クエスト?えっと……ツインベロスの討伐ね。ツインベロスって知ってる?こうグワーッとしていて、ガオーッて感じで……」
全然伝わらない。
「分かりました。俺はレベルがそんなに高くないので、足手まといかも知れませんが……」
「別にいいわ。ツインベロスは初心者の冒険者でも倒すことが出来る魔物だから」
「なるほど。……ん?じゃあなんで俺を誘ったんですか?シェリィさんなら、一人で倒せるんじゃ……」
「……わたし、ツインベロス苦手なのよね」
早速不安材料が増えた。初心者でも倒せるんじゃなかったのか?いきなり矛盾したんだが。
「じゃあ、俺はどうしたらいいんですか?」
「ツインベロスを見つけたら、わたしがあなたに身体強化の魔法を掛けるから、そいつを引きつけて欲しいの。その間にわたしがこの剣で切り刻むわ」
シェリィさんは腰に下げていた剣を鞘から抜くと、自慢するかのように見せつけてくる。……つまり、俺は囮ということか。体力には自信がないのだが、大丈夫だろうか。
「あ、早速見つけたわ!あれがツインベロスよ!」
シェリィさんは草原の少し遠くを指さす。――そこにいたのは、大型の犬みたいな奴だった。日本で見たような犬と少し似ているが、首から二つの頭が生えているというのが違う所だ。なるほど、あれがツインベロスか。
「≪強化≫!さぁ、行ってきなさい!」
「ちょ、ちょっと!」
まじまじと観察していると、シェリィさんが俺に魔法を掛け、ツインベロスの方を見向きもせずに俺の背中を押してくる。どんだけ苦手なんだこの人。
「行きます!行きますから!押さないでください!」
俺がそう言うと、シェリィさんは素直に押すのを止めてくれた。俺は剣を構えると、ツインベロスの方を向く。まだこちらに気づいていないのか、奴は辺りをキョロキョロと見渡していた。
(身体が軽い……奥底から力が湧き上がってくる)
これがシェリィさんの言っていた支援魔法か。剣がとても軽く感じる。今なら何でも出来そうな気がするな。
「よし、行くぞ……≪宝物≫!」
俺は剣を掲げながら呪文を唱える。すると剣が蒼い光を放ち、身体の中が何かで満たされていく。――これはこの剣を貰ったときにホロウに教わった呪文だ。これを使うことで、数分の間だけまるで剣の達人のような動きが出来るようになるらしい。簡単に言うと、数分だけ強くなれるということだ。
「グルルルアアア!」
ツインベロスはこちらに気づいたのか、凄まじいスピードでこちらに走ってくる。獰猛な瞳と牙を輝かせ、こちらを殺そうと飛びかかってくる。
「……はあっ!」
「ギャン!?」
俺はツインベロスが飛びかかってきたタイミングで剣を振るう。すると、ツインベロスは身体を弾かれ、地を転がった。奴はすぐに体勢を立て直し、今度はその爪を振るう。しかし、その攻撃が俺に届くことはなかった。
「ふっ!」
俺は剣を盾のように構え、爪の攻撃を防ぐ。ツインベロスは苛立ったように爪を振るってくる。これは……さすがにまずい!攻撃が多くて剣で防ぎきれない……!必死に剣を構えていると、ふと、ツインベロスの後ろに青髪の少女の姿が見えた。シェリィさんだ。
「今よ!≪スラッシュ≫!」
「グルルルアアア!?」
シェリィさんはツインベロスの脳天から剣を振り下ろし、身体を真っ二つに切り裂いた。二つに分かれたツインベロスは動かなくなり、灰のようになって消えた。
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまったわ……」
シェリィさんは決め顔でポーズを取り、剣を鞘に収めた。……凄い、なんて強さなんだ。俺は息を整えながら、称賛の言葉を贈る。
「凄いですね、シェリィさん。まさか一発で倒せるなんて」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう!例え苦手なツインベロスとはいえども、わたしにかかれば楽勝よ!」
「そこまで強いのなら、やっぱり自分一人で行ったらよかったのでは?」
疑問を投げかけると、胸を張って踏ん反り返っていたシェリィさんが、スーッと目を逸らした。
「……わたし、ちっちゃい頃犬に追いかけ回されたことがあって。それ以来、犬みたいなのは苦手なのよねー……」
「…………」
俺は胡乱げな瞳をシェリィさんに向けた。……凄いんだか凄くないんだか、分からない人だな。
「こちらが、ツインベロス討伐の報酬になります。お受け取りください」
「やったー!これであと二日は生きられるわ!」
ギルドに帰ってきた俺たちは、受付の人から報酬を受け取っていた。魔物の身体は残らなかったのに、どうやって討伐したかを判断するのかと思っていたが、冒険者になった時に貰えるカードに討伐記録が乗るらしく、それでクエスト達成を判断しているらしい。閑話休題。
「はい、あなたの分。ちゃんと半分に分けたから確認して」
「あ、ありがとうございます」
言われた通り報酬の入った袋の中身を確認する。うん、ちゃんと入ってるな。
「それにしても、あなた、なかなかやるじゃない。初心者なのに、ツインベロスの攻撃を全部防ぐなんて」
「いや、たまたまですよ」
「そうなの?そうは見えなかったけど……」
シェリィさんは首を傾げ、俺を不思議そうに見つめてくる。……まさか、剣の力を借りてるなんて言えないよなぁ。変な探りを入れられる前に、この場を離れよう。
「それでは、俺はこれで」
「――待ちなさい」
そそくさと立ち去ろうとしたら、がっと肩を掴まれた。……全く動けないんだけど。この細い腕の何処にそんな力が……?俺は仕方なく、シェリィさんの方へ振り返る。
「な、なんでしょう」
「……あなた、わたしとパーティーを組まない?あなた、見かけによらず結構やるみたいだし。わたしとパーティーを組めば、高難易度のクエストも受けられるわよ?」
「……俺と、パーティーを?」
……思いもよらない誘いだった。シェリィさんは笑みを浮かべながら、俺の肩を掴んでいる。……美少女に誘われて悪い気はしないが、俺は虚無龍について探らないといけない。パーティーを組んで、また変なクエストに巻き込まれたら……
(いや、待てよ?)
俺が見た所、シェリィさんはかなりの実力者だ。俺よりもこの世界について詳しいだろうし、何より虚無龍を倒すには十分な戦力が必要だ。この人と組んでおけば、虚無龍に近づけるのではないだろうか。……仕方ない。これも願いを叶えるためだ。
「……俺で良ければ、是非お願いします」
「ほんと!?ありがとう!……えっと、あなたの名前は……」
「あ、まだ名乗ってませんでしたね。俺はコウって言います。以後よろしくお願いします」
「シェリィよ。改めてよろしくね」
シェリィさんは笑顔のまま俺の手を握る。……そんな彼女を見ながら、「最初にあった時に喚いていた人とは思えないな」と俺は思うのだった。




