第二話 出会い
「うーん……お金が足りないわね……」
机の上に広げた銅貨等を見ながら、少女はため息を吐く。綺麗な青い髪に特徴的な赤い瞳を持った少女――シェリィは、自らの財力の無さに悲しさを覚えた。
「良いクエストもないし、これじゃあ明日のご飯も食べられないわ……」
シェリィの腹から切ない音が響き、彼女の空腹感を増長させる。彼女の机に置いてあるのは銅貨と水だけで、心なしか彼女の顔がやつれているようにも見えた。
(それもこれも、あのクソ男のせいだわ。わたしをパーティーから追い出すなんて……)
シェリィは心の中に怒りの炎を燃やす。――数日前、冒険者である彼女は自らの入っていたパーティーを理不尽にも追放され、満足に稼ぐことも出来なくなっていた。
(何回わたしがあのパーティーを救ってきたと思ってるのかしら。あの男はわたしの事を道具としてしか見てないのね)
シェリィは脳裏に自分を追い出した人物の姿を思い浮かべる。彼の下卑た笑みが浮かび、シェリィはまた怒りがこみ上げてきた。
「……はぁ、やめましょう。早くお金を稼がなくちゃ……そのためには、誰かクエストに誘わないと……」
シェリィは辺りを見渡し、暇そうな人間を探す。すると、掲示板の前で立っている少年がいた。背はシェリィより低めだろうか。後ろ姿なので顔は見えなかったが、この辺りでは見ない黒髪が特徴的だった。
(あの子にしましょうか。よし、そうと決まれば早速……)
シェリィは机の上に並べた銅貨を懐にしまい、少年の元に歩いていった。
アヴァロン大陸、イチの町。この場所はそんな名前で呼ばれているらしい。この大陸では冒険者と呼ばれる者達が多く暮らしており、彼らは魔物退治や、町の人の頼み事等をこなしているらしい。俺――コウが数日前から来たこの町は、そんな冒険者達が暮らす事が多いことから、駆け出しの町とも呼ばれているそうだ。
(異世界転生の鉄板ってやつだな。いや、この場合はファンタジーなのか……?)
大いに悩む所であるが、ともかく。俺はこの世界に姿そのままで転生し、ホロウの推薦――どうやったのかは知らないが――によって冒険者になった。まだ本物の駆け出しなので大したクエスト――依頼は受けられないが、異世界生活の足がかりにするつもりである。
(魔物退治とかは勘弁だが、頼み事を聞くくらいなら俺の性にも合ってるしな)
昔から、頼まれたら断れない性格なので、こういう事には慣れている。一つ上の姉にも、よく何か頼まれる事が多かった。
「さて、そろそろクエストを受けないとな……」
暮らしていくにはお金が必要だ。もちろん異世界から来た俺も例外ではなく、しかるべき手段で金を稼ぎ、暮らしを安定させなければならない。というわけで俺は、町にある冒険者ギルドという所に来ていた。
(手持ちは少ない。生活費はもってあと三日分……それと、この剣だけか)
この世界に来る時にもらった、一振りの白く輝く剣。シンプルな形状で、見た目は普通の剣とほぼ同じだが……どうやらこの剣には、特殊な力があるらしい。虚無龍を倒すために必要だと言われ、ホロウにこれを渡されたのだが……いまいち使い方がピンと来ていない。
(多分、便利な能力でもあるんだろう。……そんなことよりクエストを選ばないとな。日が暮れてしまう)
俺は依頼が貼られている掲示板の所に立ち、その内容を確認する。……マンティコアの討伐、グランドスネークの討伐、ツインフォックスの討伐……どうしよう、どれも一人で出来そうにないんだが。この町の周りにはこんな怖そうな魔物が彷徨いているのか?
(うーん、どれも難しそうだな……あっ、薬草採取とかがあるじゃないか。取り敢えずこれで……)
「そこのあなた」
薬草採取のクエストに手を伸ばしかけたその時。後ろから、凛とした少女の声が聞こえてきた。振り返ってみると、――そこには、青髪の美少女が立っていた。背丈は俺より高めで、透き通るような赤い瞳がこちらをじっと見つめていた。
「えっと、何か用でしょうか……」
「あなた、冒険者よね。わたしと一緒にクエストを受けない?わたしと組んだらどんなクエストも簡単になるわよ」
どうやら、この人は俺を勧誘しに来たようだ。……ナンパでもしに来たかのような誘い文句だな。確かに、人手が足りないとは思っていたが、薬草採取で何とかなりそうだし……それに、見ず知らずの人についてこられるのもちょっと怖い。ここは断っておこう。
「すみません、遠慮しておきます」
「そう、なら早速一緒にクエストを…………待って、今なんて言ったの?」
「すみません、遠慮しておきます」
「はー!?あなたこのわたしの誘いを断るっていうの!?わたしは期待のルーキー冒険者、シェリィ・コモンズよ!?ほら、元高レベル冒険者パーティーの!」
シェリィさんは怒ったように詰め寄ってくる。……そんなこと言われても、こっちは初対面だしなぁ……まだこの世界に来て浅いし、有名人なんて聞いたこともない。
「俺は今から、薬草採取のクエストに行くので。人手には困っていませんから」
そう言ってクエストの書かれた依頼書を掲示板から剥がし、受付に持っていこうとすると……足にしがみつかれた。
「ちょっ、待ってちょうだい!お願い、薬草採取でも何でも良いから一緒にクエストを受けさせて!このままだと明日のご飯も食べられないの!お願い!」
「……多分もう少し粘れば、丁度良い人材が見つかると思いますよ」
「いやよ!どうせ他の連中なんてわたしの足元見てたかってくるようなやつばっかりだもの!その点あなたは人畜無害でチョロ……優しそうだし!」
「今チョロいって言おうとしてませんでした?」
この人、本当に勧誘する気があるのだろうか。いや、勧誘って言うよりかは頼み事みたいなものだが……ああもう、めんどくさい奴に絡まれたな!
「あの、誰か……えっ?」
辺りに助けを求めると、ギルドの中にいる全ての人から目を逸らされた。……確かに面倒だとは思うが、そこまで?
「ふっふっふ、甘いわね。ここにいる連中はわたしに手は出さないわ。あまりにも突っかかってくるからちょっと前に一発絞めてやったもの」
「ええ……」
どうしよう。この人、ヤバい人だ。これ以上断り続けたら俺の身体が危ういかもしれない。……しょうがない。これも生き返るっていう願いを叶えるためだ……!
「……じゃあ、よろしくお願いします」
「え、いいの!?やったー!」
その場でぴょんぴょん跳ねて喜びを表現するシェリィさん。……なんだか、一つ上の姉みたいな反応だな。そういえば、姉達は今どうしているだろう。俺が死んだことを知ったのだろうか。
(いや、考えても無駄か……)
取り敢えず今は、この状況を乗り越えるのが先決だ。




