第9話 イケメン二人に挟まれる予定の私
人の成長には痛みが伴うものだということは分かっているつもり。
(転生前は、食べる物すら満足に与えられないような生活だったけど……)
周囲から浴びせかけられるのは、心を傷つけるための言葉の暴力ばかりだった。
心の痛みが、私を大人になるまで生かしてくれたし、成人した後も二本の足で立ち上がることができた。
そういう意味では、生きているという実感を私にくれて、大きくなるまで育ててくれた。
……親のようなものだったのかもしれない。
「ある程度の訓練を積んで、私から見て問題ないと判断ができましたら、ゼンと——もう一人、魔族のカーティスと共に、この集落を出て旅に出て頂きます」
「……はぁ?ちょっと待てよ。なんで俺が!?」
隣で驚きのあまり、大きな声を出すゼンさんに思わず、体がびくっとしてしまう。
「なんでと言われましても、シャルネ様もあなたには随分と心を許しておられるようですし、それに……あなたは私たちとは違って、この世界で生まれた人間です」
「人間だからって、それがなんだっていうんだよ」
「このような狭い集落にいるよりも、あなたには……人間の代表として、側にいてあげてください」
ゼンさんのことを気に入ってると言うより、初対面なのにここまでしてくれる人は、めったにいないから安心しているだけだと思う。
(……改めてゼンさんを見ると、凄い引き締まった身体をしてるなぁ)
顔も悪くない、むしろ……外見だけで見ると、好みかもしれない。
そう思って、まじまじと彼の姿を見ているうちに、思わずよだれが出そうになってしまった。
「なぁ、なんかこいつ、凄い顔してるんだけど」
「え、えぇ……」
これは気を抜いたらヤバいかもしれない。
ゼンさんでこれなんだから、カーティスさんはもっと素敵な人かも。
「ふひ、イケメン二人を囲った美少女——絵になりそう」
「……なんか、変なこと言いだしたぞ?」
そんな二人と旅に出るだなんて、何かが起きてもおかしくないんじゃないかな。
めくるめくラブロマンス、私をめぐって争いあうイケメン、変な期待をしてしまいそう。
「あぁ、えっと……これは困りましたね」
「提案した側が、困惑してんじゃねぇよ——けどまぁ、俺がついて行くのは都合がいいかもな。人間がいるってだけで周囲の印象はだいぶ変わるだろ?」
「はい、それも含めてだったのですが……族長が不在になるリスクさえなければ、私もついて行きたかったですね」
残念そうに、しゅんっと耳をたたむ姿がかわいく感じてほっこりする。
「こればっかりはしょうがないだろ。あんたがいなかったら、誰がこの集落を守るんだって話だからな」
「えぇ、だから——任せましたよ」
「任されてやるよ。……けど、俺はこの国から出たことがねぇから、戦うこと以外はそこまで頼りにはならないぞ?」
髪をかき上げながらそう言うと、ゼンさんが呆れた表情で私の方を指差す。
「……ただでさえ、こいつはこんなんだろ? 情操教育でもしておかないと、問題起こすんじゃないか?」
「そこに関してはできる限り、頑張ってはみるのでご安心ください」
指をさされているのが気になるけど、それ以上に気になるのはゼンさんとカーティスさん。
二人を婿にして、幸せな生活を送るのも楽しいかもしれない。
「……シャルネ様。そろそろ戻って来てください」
「ふ、ふひ——ひゃ、ひゃい!?」
いつの間に立ち上がったのか、気づいた時にはキューちゃんが目の前にいて、私の頭を優しく撫でていた。
「先ほどから何かよく分からない、異世界逆ハーレム?とやらを呟き続けるのは構いません」
「……え、え?」
「ですが……そうですね。シャルネ様は、いささか——いえ、だいぶ緊張感に欠けるお方のようですので、今から戦闘訓練を始めさせて頂きます」
始めるって言われても、まだ心の準備ができてない。
そもそも、どうやって戦えばいいのか分からないのに、キューちゃんが袖の中から御札を取り出して、穏やかな笑みを浮かべてる。
「ゼン——あなたは、戦闘訓練をしている間に、カーティスを連れてきてください」
「連れてこいって、いつもの畑だろ? ゆっくり迎えに行くから時間かけていいぞ?」
「えぇ、ありがとうございます」
うろたえる私を見て、ゼンさんは楽しげに笑いながら後ろを向くと、ひらひらと手を振って——
「じゃ、頑張れよ」
そう言い残して、歩き去っていった。
「まずはシャルネ様、訓練の前にですが——我々魔族の今の姿は、この箱庭で生きるために適応した姿で、本来の姿ではありません」
「も、元の姿が……あるって、こと?」
「えぇ、ですので——シャルネ様。背中に翼がある想像をしてみてください」
言われた通りに意識して見ると、確かに翼があるような感覚がある。
これを外に開放するイメージ……こう、痛々しいけど肌を突き破って外に飛び出すような。
「おっ、おぉ!?」
「まさか、一度でできるとは思いませんでした。 魔神様と天神様の御子に相応しい——立派な翼ですね」
背中に光を遮るように、純白の天使の翼と漆黒の悪魔の翼が現れる。
「どうやら、魔神様の血が濃いのでしょう。頭に可愛らしい翼が生えていますね」
「……え?」
意味が分からず頭に手を伸ばす。
すると——指先が触れてくすぐったいのか、ぴょこぴょこと動く。
小さな悪魔の翼が生えていた。




