第17話 子沢山系男子
ゼンさんの後ろについて、カーくんの家まで来たけど……
(……えぇ?)
改めて見ても、洞窟にドアを取り付けただけの、家と呼ぶにはおこがましいような場所が目の前にある。
「ね、ねぇ……ここにカーくんがいるんだよ、ね?」
「この前一人で行ったんだから知ってるだろ? けど……そうだな。この中は嫁入り前の女に見せられるような場所じゃないから、シャルネは入らない方がいいぞ?」
どこか気まずそうなゼンさんに、なんだか違和感を覚えるけど、そこまで言い淀むってことはきっと、女の子には見せづらい何かがあるのかも。
「す、すごい気になるから……入るね?」
「ちょ! おまえ、待てって!」
ゼンさんの静止を振り切って、勢いよくドアを開ける。
すると目の前には、数えきれない程の卵がずらりと並んだ棚と、愛おしげに赤ちゃんを抱いている女の人たちがいた。
(……もしかして、カーくんってこの世界で産婦人科みたいなことしてるのかな)
周囲を見渡してみるけど……それっぽいものはない。
そもそも、畑を耕してばかりいるカーくんが、洞窟の中でお医者さんしていたら、あまりにも状況がおかし過ぎる。
「おまえさぁ……せめて家に入る前にノックしろって」
「え、えぇっと……好奇心に勝てなくて、でもゼンさん? この人たちと卵はいったいなに?」
なにか変なことを聞いてしまったのか。
ゼンさんが言いにくそうにしているけど……気になってしまった以上、もう知りたいって気持ちは抑えられない。
「まぁ……なんだ? あいつらはカーティスの嫁で、卵も赤ん坊もあいつの子だよ」
「え、あ……あー、お邪魔してごめんなさい! ゼ、ゼンさん私、外に出るね? 失礼しました!」
「ってことだからさ、シャルネが急に入って来て悪かった。悪いんだけどさ……カーティスが中にいるなら、グロウフェレスが呼んでるって伝えてくれないか?」
皆が不思議そうな顔をして挙動不審な私を見ている。
このまま騒いで赤ちゃん泣かせたりしちゃったら大変だと思うから、急いで二人で家を出る。
「……だから、入らないほうがいいって言ったろ?」
「うん、でも……なんでカーくんに、あんなに大勢の奥さんがいるの? 中には天族の人もいたよ?」
「まぁ、あいつなりの理由があって、種族の違いとか気にしていないから、天族もそりゃいると思うぞ?」
「……えぇ?」
それってまるで、誰とでもそういうことをする人みたいで、カーくんに対する印象がよくない方に変わってしまいそう。
「人化の術を使って色んな種族との間に子供を作ることで、もしこの世界に留まることになった時のために種を撒いておくつもりらしいぞ? ……なんていうか、凄い発想だよな」
「それなら現地の人たちを奥さんにすればいいのに……天族は、ちょっと違くない?」
「違くないかって言われても、これに関してはただの興味本位だよ。人化の術を使って、天族と子を成せるのか気になったんだよね」
そう言いながら洞窟から出てくるカーくんを見て、思わず後ずさる。
私の価値観が転生前に引っ張られてるせいかもしれないけど、不特定多数の人と関係を持つなんて最低だ。
私だって妄想の中では色々考えるけど、実際にやるのかって言われたら……それはなんだか違う気がする。
(もしかしてカーくんと一緒に旅に出たら、私も奥さんの一人にされちゃうのかな……)
そう思うのに、もしそうなったら私はいったい何人目になるんだろうって考えてしまう。
二桁? それとも……旅に出た先でも増え続けるとしたら、三桁目の奥さんになってしまうのかもしれない。
(けど、やっぱりやだな。だって……身内がたくさんいるのって大変そうだし。そもそも、血が半分しか繋がっていない家族がいるなんて……嫌)
将来的に一緒になるのなら、やっぱり……私が選んだ一人の男性と家族になりたい。
「一応……無いとは思いたいけど、シャルネには手を出すんじゃねぇぞ?」
「あぁ……出さないよ。魔神様に誓ってもいい。興味がないと言えば嘘になるけど、さすがに命を投げ捨てる趣味はないからね」
「わ、私は嫌だから……本当に、やめて……ね?」
「重ねて言わなくてもいいよ。手を出したら、天族や同胞の魔族を敵に回すことになる。そんなこと俺もわかっているし、欲望のままに動くほど飢えてもいないさ」
不機嫌そうに目を細めているカーくんも、やっぱり整った顔立ちのせいで、すごくエッチに見える。
もしかして女性を惹きつけるフェロモンでも出してるんじゃないのかなって、疑いたくなるけど、私の考え過ぎかもしれない。
「さて……いつまでもここで立ち話をしているのも、待っているグロウフェレスに悪いからね。そろそろ行こうか」
カーくんがドア越しに様子を見ている奥さんたちに手を振ると、優雅な仕草で私たちの前を歩き出す。
小走りでその隣に並ぶと
「ね、ねぇ……カーくんってもしかして、女性を惹きつける何かを持ってたりする?」
さっきから気になっていたことを思い切って口にした。
「あぁ……こいつの魔族としての特徴らしいが、異性を惹きつけるフェロモンを常に出してるらしいぞ?」
「ゼン、その言い方は心外だね。これは子孫を残し繁栄するための進化だよ」
「人化の術を使ってるのに、それを使い続けてるのは正直……どうかとは思うけどな。まぁ、慣れてはきたけど」
「嫌われたものだね。……けど、それならどうして俺の妻たちとは仲良くしてくれてるんだい?」
「そりゃあ、狩りの獲物を届けるだけで、うまい野菜を分けてくれるんだから、仲良くしない理由はないだろ」
カーくんが嬉しそうに微笑むけど、ゼンさんが美味しいって褒めていても、水でさっと洗って食べるだけだから、ちょっとだけ説得力がない。
「君のそういうところ、俺は嫌いじゃない……むしろ好ましく思ってるよ」
「けっ、言ってろ」
それに服を脱いだらそのまま放置するし、料理をするときも灰汁を取らずにそのまま煮込むだけだから、私がもしゼンさんのお嫁さんになったら苦労しそう。
(……でも、毎日ちゃんとご飯を獲ってきてくれるし、一緒にいると落ち着くんだよなぁ)
そう思うと、旅に出ている間に少しずつ改善してくれたら、かなりの優良物件かもしれない。
乙女ゲームにも、理想の彼氏を育てていくシステムってあるし……つまりこれは、主人公のゼンさんがヒロインの私に恋をしてから始まる青春ストーリー。
「ふ、ふひ、ふひひ」
「……またなんか始まったよ」
「だいぶ気持ち悪い……いや、個性的な笑い方をするんだね」
「気にしないほうがいいぞ。シャルネは自分の世界に入るたびにこうなるみたいだから、こういう時は落ち着くまで放置しとけ」
「……ならいいけど、整った容姿のせいで残念に見えるね」
凄い失礼なことを言われてる気がするけどどうでもいい。
(……だって今の私は本物の美少女だし、この世界を救う主人公だもの)
私は自分が幸せになるために手段を選ばないし、周りの言葉よりも自分の気持ちを大事にしたい。
そう思いながら、呆れたように笑う二人に微笑みを返して、キューちゃんの元へ戻った。




