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箱庭幻想譚―救い無き箱庭で、少女は幸せを願う―  作者: 物部 妖狐
ようこそ、救い無き箱庭へ

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第13話 不穏な空気の中で……

 いつものようにベッドで起きて、床で毛布を敷いて寝ているゼンさんを起こしたら、朝ご飯の支度を始める。


(……今日も二度寝かぁ)


 ゼンさんは朝に弱いから、一度起こしただけでは起きない。

目覚ましが鳴ったら自分で消して、もう一度寝てしまう……そんな、前世を思い出させてくれる。

意志の弱い彼を見ていると世話が焼けるけど、そんなダメなところがかわいく感じて、思わず頬が緩んでしまう。


(このまま沢山甘やかして、私がいないとダメになっちゃうくらいに、必要とされてみたいなぁって思うけど……)


 それは常識的に、良くないと思ってしまうせいで、踏み切ることができない。

とりあえず、彼が起きたらご飯が食べられるように、支度を終えると家を出て、今日の戦闘訓練と教育のためにキューちゃんの家に向かった……けど。


「……なに、これ?」


 集落の入り口に鎧を着た集団がいて、代表らしい人とキューちゃんが話しているのが見える。


(集落に外から人が来るなんて、すごい珍しいかも)


 何だか不穏な雰囲気がするけど、不安げにしている集落の人たちの様子を見ると、何が起きているのか心配になってくる。


「——キューちゃん。どうかしたの?」


 私の声を聞いたキューちゃんが、九本の尻尾を大きく広げ、私の姿を覆い隠すように包み込む。


「シャルネ様、危険ですのでどうか……お下がりください」


 キューちゃんの声は真剣なのに、包み込まれた九本の尻尾が、すっごい……ふっさふさで、もふもふして、気持ちがいい。


(あ、これ……癖になりそう)


 もふもふの手触りを楽しんでいると、不意に毛並みの奥に硬い感触があって、思わず強く握ってしまう。

その瞬間、尻尾の毛がぶわっと逆立ち、ちくちくとした痛みとともに、全体が小刻みに震え始めた。


(あ、これ……触っちゃいけないところに、触れちゃったかも)

 

 けど、さっき触れた硬いものがすごい気になる。

もっと触れたり、引っ張ったりしたい。

けど今は、キューちゃんと代表の人がお話をしてるんだから、邪魔をしないように、ぐっと我慢しなきゃいけない。


(耐えろ……私っ!)


 すると、キューちゃんと話していた代表の人が、私の存在に気付いたのか、ゆっくりとこちらへ近づいて来る気配がした。


(……こっちに来たっ!)


 反射的に尻尾の奥へ身を潜め、じっと息をひそめる。

こうして隠れていれば、たぶん大丈夫……。


「おぉ!? もしやとは思いましたが、今の声の主がシャルネ殿ですかな?」

「は、はひ!?」

「……おや?」


 知らない人にいきなり名前を呼ばれて、思わず変な声が出てしまう。

恥ずかしくて、顔がかっと熱くなる。


「あぁ……マチザワ殿。シャルネ様はかなり人見知りをなさいますので、できればあまり近づかないで頂きたい」


 キューちゃんの尾の中に隠れているから、赤くなった顔までは見られていない……はず。


「なっ……そうなのでありますか!? これは大変失礼致しましたですぞ——それはそうと、先ほど仰った危険な装いとは……失礼なことでも、我らはしてしまったのであろうか?」

「いえ、失礼とまでは申しません……ですが、集落に武装した集団が来たとなっては、警戒するのは当然でしょう」

「ぐぬ……これはですな。魔族の実質的な頂点に立つお方の一人、グロウフェレス殿にお会いするために必要なことゆえ、こちらとしても致し方なくですな」


 キューちゃんの言い方にトゲがあるような気がする。

もしかしてだけど……マチザワさんって人のことが嫌いなのかな。


「過去の話であれど、我ら人類を最も多く殺した九尾の妖狐が相手となれば、私はともかくとして、他の者たちは警戒するがゆえに、理解をして頂きたいのですぞ……」

「それはあなた方が、私たちの話も聞かずに襲い掛かってきたからではありませんか? 戦狂いのケイスニルのような例外はともかく、無益な争いを避けるために、こちらはわざわざあなたたちの言語を学んだのです。それをニンゲン側が力量を見誤って招いた事故ではありませんか」


 私にはすごく親切に接してくれているけど……それは、私が天神と魔神の間に生まれた特別な存在だからなのかもしれない。


(……まぁ、ちょっとっていうかだいぶ怖いけど、私に優しくしてくれて甘やかしてくれるなら、別にいいかなぁ)


 大量に人を殺したっていうのには驚いたけど……でも、そんなに強い魔族のキューちゃんが私の味方でいてくれるなら、すっごく心強いし安心できる。


「——そこまで言われてしまっては、こちらは何も言えませぬ。 であれど、栄花の使者としてここまで来た以上、我らにも面子があるが故、どうか理解して頂きたい」

「そちらの理解を求めるのでしたら、まずは武装せずに来るべきでしょう……それとも、私たちを信用することができないとでも?」

「いや、私としては信用したいのですがな。グロウフェレス殿に親族や恋人を殺された者もおるがゆえ、皆がそう割り切れるわけではないのですぞ」


 このままだと口論になるどころか、お互いの感情がぶつかり合って、とんでもないことになってしまうかもしれない。

転生前のことを思い出せば、衝動的に動いても、いいことなんて一つもないって分かっている。

それでも……この世界の争いを止めるために、転生したんだから……こういう時こそ、頑張らないといけない。

そう思った瞬間、気付けばキューちゃんの尾の中から飛び出していた。


「あ、あの……け、喧嘩は……やめま、せんか?」


 けど……前世の記憶が脳裏をよぎった途端に頭が真っ白になって、どうすればいいのか、分からなくなってしまった。

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