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短編集  作者: やまのしか
11/12

ある老人の目的


私は都心の地下街を急ぎ足で歩いていた。

「ヤバイ、取られる・・・」

いったい何が取られるのかというと、馴染みのコーヒーショップの指定席だ。

指定席といっても私が自分で勝手にそう思っているだけなんで、

お店にとっては誠に迷惑な話なのであるが、

とにかく私はそう思っていた。

私は60歳である。

そう、もう老人である、頭も禿げていた。

私は毎朝、同じ電車で都心に通っていた。

でも仕事ではない、もう退職していて無職なのである。

無職の私がなぜ毎朝電車で都心に通うのかというと、

理由がある。

どんな理由かというと・・・

そのとき、急ぐ私の向こう側から、一人のオッサンが歩いて来ていた。

中肉中背グレーの鞄、頭髪は薄くバーコードになっていたが、私よりは10は若いだろう。

「アイツだ!」

私は苦々しく呟き、足を早めた。

目的地は同じなのだ。

先方もこっちに気づいたのか、歩く速度を早めてきた。

「負けてたまるか、クソー、あの野郎~」

私はほとんど小走りになって目的地のコーヒーショップにたどり着き、

カウンターには目もくれず、フロアの奥の角席に鞄を置いた。

《ザマー見ろ》

私は心の中でそう叫び、カウンターにモーニングを買いにいった。

私より少し遅れて、先程のバーコードのオッサンが店に入ってきた。

バーコードのオッサンは私の並びに席を取った。

二人は同じ列の1つ空席を挟んで並んで座る形となった。

テーブルにはモーニングセットが置かれていた。

二人はいつものように鞄からノートパソコンを取り出すと、

何やら仕事をするふりをする。

15分ほど経った

私が毎朝ここに座りたい理由がそろそろ現れる頃だ。

私は女性を待っていた。

といっても知り合いではない。

いつも八時半頃、ここに一人の綺麗な女性がモーニングを食べに来るのだ。

年の頃は二十代後半、

スーツ姿の男性の多いこの駅の地下街で、

彼女の姿はひときわ映えた。

スーツスカートからすらりと伸びる脚は、

とても健康的で誰もが振り向く美しさだ。

そう私も、そしてバーコードのオッサンも、彼女の隠れファンだったのだ。

彼女はいつも向かい側の一段高くなっている窓際の席に座るのだ。

実はここからは彼女の姿がよく見える。

一段低くなってるこの並びの席は特等席で、

彼女の綺麗な脚が低い位置からよく見えるのだ。

ウッシッシ(笑)

あのバーコード野郎も、いつもこの席に狙ってやがる。

きっと奴は今頃悔しくてしかたないに違いない《スケベ野郎!》と彼は心のなかで呟いた。

もうそろそろ入ってくる頃だ。

オッサン二人は揃ってパソコン画面に夢中なふりをした。

自動ドアが開いた。

あの女性が入ってきた。

ガーン、

ショックが二人を襲った。

ズボンではないか!

私とバーコードは苦々しくコーヒーを同時にすすった。


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