エピローグ⑥
フラムローゼの一撃によって鱗を溶かされ、体表を焼かれ、大火傷を負った厄災竜。しかし、大した時間も経っていないというのに、じゅくじゅくと火傷のあとが蠢き、新たな肉体を形成していた。
「まあ、驚きましたわ。再生能力があるのね」
「そういうわけだ、フラム。個々の能力を試したいところだったけど、今回は最初から全開でいくぞ」
「わかりましたわ旦那様、アレですわね?」
「ああ、アレだ」
「ん! たのしみー!」
「了解しました!」
「……なあ、ケイタ。本当にあれを――」
カティアがなにか言いかけていたが、聞こえていなかったかのようにケイタは次の言葉を発した。
「いくぞみんな! ユナイト・フォーメェェェーション!!」
「……「「「了解!」」」」
若干不満そうな声がひとつあったが、四人の声がひとつに重なる。
その瞬間、ケイタの搭乗する魔動人形が、再び鳥の形へと変じ、直上へと飛び立つ。
ある程度の高度に達した魔動人形は静止し、その中心からは、球状の力場のようなものが形成され、大きく広がっていく。
それに続くように他の四機の魔動人形も、その形状を変えながら、力場へと飛び込んだ。
鳥の姿から人の姿へと変わったときも驚いたが、今度はもっと複雑な形状へと姿を変えたことに、アノレスは目を丸くする。しかも、力場へと飛び込んだすべての魔動人形が、だ。
「あれは……腕に、足? 身体の一部なのか?」
アノレスには、姿を変えた魔動人形が、それぞれ四肢のような形になったように見えた。
それは間違いではなく、ケイタの魔動人形を中心とし、それぞれが右腕、左腕、右足、左足の位置へと移動し、バチバチと火花を散らしながら接続される。
そして最後に、顔と思わしき部分が胴体から飛び出してきて、そこに兜のようなものが、どこからか飛んできて装着される。
人の姿をした、巨大な魔動人形が今ここに顕現した瞬間だった。
「私たちの心が重なるとき、無限の力を発揮しますっ!」
「世界の守護者たるこの魔動人形の前には、どんな悪も存在することは叶いませんわ!」
「ぜったいしょーり! かんぺきぱわー!」
「や、闇を滅する守護の剣。そ、その名は……」
「悪鬼必滅――完成! ガオガルドォォォーーッ!」
ひとりひとり謎の掛け声(?)を叫びながら、ビシッとポーズを決めたあと、大きく地面を揺らしながら着地する巨大な魔動人形。
ただでさえ普通の倍近くあった魔動人形が五機も組合わさったのだ。厄災竜には及ばないとはいえ、その大きさはかなりのものだった。
「……あ、ガオガルドっていうのは、ガーディアン・オブ・アルズガルドの略でして……」
特に誰からの反応も得られなかったためか、沈黙に耐えきれず、ケイタは合体後の魔動人形のネーミングについて説明を始めた。
おそらく自分に向けた説明であろうことは理解できたが、アノレスは驚きのあまり、あんぐりと口を開けたまま固まってしまっていたので、返事を返すことができなった。
「うーん、やっぱギャラリーが少ないと盛り上がらないなぁ」
「……いや、盛り上がらなくていいだろ。てか、合体するときの台詞、どうしても言わなきゃダメなのか? ちょっと恥ずかしいんだよ」
「なに言ってんだカティア。様式美ってやつだよ。それに、気合いも入るだろう?」
「そうだよカーちゃん。かっこいいじゃん!」
「いや、リンは好きそうだからわかるけどよ……シルヴィアとフラムローゼはなんでそんなにノリノリなんだよ」
「ケイタさんの望みは私の望みですから」
「同じくですわ!」
「……そうかよ。聞いたオレがバカだったよ」
「もう、カティアさんったら……素直じゃないんですから。私、知ってるんですからね。先日、カティアさんがケイタさんの外出中に部屋に忍び込んで、ベッドの匂いを――」
「バ、ババババッカヤロウ! い、今はそんなこと関係ないだろうが!」
「リンもケーくんのにおいすきー」
「……えーと、その、カティア? べつに忍び込まなくたって、いつでも気軽に来てくれていいからな……?」
「くぅ……! いっそ罵ってくれチクショウ……!」
まるで家で寛いでいるかのような、緊張感のない会話に、アノレスの思考は更に深く迷宮入りしてしまう。
呆れや驚愕、戸惑いや葛藤など、複雑な感情が入り混じったアノレスは、ついに思考を放棄してしまった。
唯一理解できたのは、この魔動人形が『この世界の守護者』と名乗ったことだけだった。
しかし、感情が迷子になったアノレスをよそに、
『怒り』というたったひとつの感情をあらわにする者が一人いた……いや、一匹と言うべきだろうか。
「「「「「ガァァァァッ!!」」」」」
完全に傷が癒えた厄災竜が、五つの首を扇状に広げ、威嚇するかのように吼える。その矛先は、当然、自身に傷をつけた者たちだ。
「――へっ、かかってこいよデカブツ。お前みたいなヤツへの対策は、死ぬほど考えてきたんだ」
普通の人間なら失神してしまうほどの凄まじい気迫、信じがたい圧力を放つ厄災竜だったが、ケイタは怖じ気づいたりはしなかった。
魔動人形の拳を胸の前で合わせ、気合い充分といった様子で、厄災竜を迎え撃つ体制をとる。
「いくぞみんなっ! 俺たちの力で、この世界を守るんだ!」
「「「「了解!!」」」」
――国の存亡を賭けた戦いが、今ここに幕を開けた。