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エピローグ⑤

「……もう、ケイタさんったらひとりで突っ走っちゃって。心配したんですよ?」


 純真そうな少女の声とともに、新たな魔動人形がアノレスたちのもとへと現れた。


「サンキュー、シルヴィア。助かったよ。アイギスの遠隔操作もばっちりだった」

「ありがとうございます。……ですが、跳ね返すつもりだったんですけど、逸らすのが精一杯でした。あれを連続で撃てるのであれば、アイギスでも防ぎきれるかどうか……」

「マジかー。んじゃあ、最初から本気でいかないとまずいかもな」


 アノレスは、新たに現れた魔動人形(マギアドール)に驚きを隠せなかった。

 ケイタの魔動人形は通常サイズの倍近くあるが、新たに現れた女性が乗っているであろう魔動人形は、それよりも更にふた回りほど大きい。

 横幅も相応に長く、見た目から、かなり分厚い装甲を持つことが窺える。厄災竜の攻撃を防いだことから、防御に特化した魔動人形なのかもしれない。

 そんな伝説等級レジェンダリーグレードにも匹敵しようかという規格外の魔動人形が二機も並んでいるのだ。サガミ家の戦力評価は、ケイタの乗る魔動人形一機が傑出しているものだと思っていたが、その考えを改めねばならないだろう。


 そう思考していたのも束の間、アノレスは新たな影が近付いてくるのを察知していた。


「――っ!? なんだあれは!?」


 四足獣のような影が三つ、アノレスたちへと接近している。翼がないことから、地竜の類いかと警戒していたが、すぐにそうではないことに気付く。


 獣のうち一匹が立ち止まり、口を大きく開いた。獅子のような見た目のその獣は、たてがみを逆立て、口から熱線を放った。


 その熱線は厄災竜の頭のひとつに直撃した。痛みの感情を伴う悲鳴を上げながら、厄災竜の身体が大きく揺らぐ。


「おっ、来たな」


 他の獣はそのままアノレスたちのところへと直進してきており、合流を果たす。

 近くで見るとはっきりわかるが、獣の形をしているものの、生物ではなく魔動人形だということが理解できた。


「とうちゃーく!」

「ったくよぉ……ひとりだけ飛べるからって先に行くなよ」

「ごめんごめん。つい気分良くなっちゃってさ」


 アノレスの脳は、限界を迎えようとしていた。さっきは伝説等級クラスの魔動人形が二機並んでいたことに戦慄していたが、おそらくはそれと同等の機体が、なんでもないことのように二機追加されたのだ。

 それに、まだ合流をしていない、先ほど熱線を放った魔動人形も同様の戦力を持つだろうということは、想像に難くない。


「みんな、待たせましたわね!」


 そう考えていると、少し遅れて獅子の魔動人形が合流した。そして、聞き覚えのある声に、アノレスは魔動人形の中にいるにも関わらず、反射的に背筋をぴんと伸ばした。

 そして、その声の持ち主に恐る恐る声をかける。


「ま、まさか……フラムローゼ様……ですか? なぜこのような場所に?」

「あら、アノレスですの? 久方ぶりですわね。なぜ、と聞かれましても、国の危機に立ち向かうのは当然じゃなくって?」

「しかし、相手はあの厄災竜です! あなたのようなご身分の方が命を捨てるような真似は、いくらなんでも許容できません!」

「勘違いしないでくださる? わたくし、死地を求めてここへ来たわけではありませんわ。それに、今のわたくしの身分など、それほど大層なものではなくってよ」


 フラムローゼが家族の反対を押しきり、家を出たことをアノレスは知っていた。その際に王族としての身分も捨てたことも。

 とはいえ、王家との縁が完全に切れたわけではない。国王はいまだフラムローゼを気にかけており、しょっちゅう「娘は元気か」「辛い目にあっていないだろうか」などど、アノレスが知るよしもないことを問いかけてくるほど溺愛している。


 そういった事情もあり、同じ戦場に立っていながらフラムローゼに万が一のことがあれば、国王に合せる顔がない。もちろん、厄災竜と戦って生きて帰れるとも思ってはいないのだが。

 そんなアノレスの事情を知ってか知らずか、それでもフラムローゼは退く気はないようだった。


「しかし、それでは……!」

「アノレス」


 食い下がるアノレスだったが、諭されるように名を呼ばれ、はっと息を飲んだ。


「あなたの立場上、そう言わねばならないのはわかりますわ。でも、心配しないで。わたくしと、わたくしの旦那様を信じなさい」

「…………わかりました」


 アノレスはこれ以上、なにも言えなかった。悔しいが、今この場で厄災竜をどうにかできるとしたら、サガミ家をおいて他にない。

 自らが率いる部隊を自滅覚悟で突撃させたところで、多少の時間稼ぎくらいにしかならないだろうということはアノレス自身がよく理解していた。自分だけならまだしも、部下を無駄死にさせるわけにはいかない。

 守るべき対象であるフラムローゼを送り出さねばならないという葛藤で唇を噛みながらも、渋々フラムローゼが戦場に立つのを了承する。


「ありがとうアノレス。あなたたちはこの場から下がって、厄災竜以外の魔物への対処をお願い。なるべく人里へ向かわせないようにね」

「わかりました。……ですが、その役目は部下に任せます。私はフラムローゼ様の戦いを、その勇姿を、この目で見届けさせていただきます。それだけはどうかお許しくださいませ」

「……好きになさい」

「ありがたき幸せ」


 アノレスは魔動人形を跪かせ、忠誠の意を表す。しばらくの間そうしていたが、沈黙を破るようにカティアが真剣な声色で言う。


「……おい、フラムローゼ。もう話し込んでる暇はないようだぜ? 見てみろ」

「あら、本番はこれからってことかしらね」


 こうして、ケイタ、シルヴィア、フラムローゼ、カティア、リンの五人が揃い、厄災竜へと対峙したのだった。

 

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