エピローグ④
「良い感じに密集してるな。いくぜ、スプラッシュレーザー!」
ケイタがそう叫ぶと、彼が駆る魔動人形の両肩に埋め込まれた結晶体から、幾筋もの光が迸る。
百にも及ぼうかというその光は、ひとつひとつはか細い光の筋だが、魔力耐性のあるドラゴンの鱗を易々と貫いていった。一瞬のうちに光は収まるが、後に残ったのはドラゴンの屍の山だ。
大型のドラゴンはさすがに倒しきれていないようだったが、近付きすぎた小型種に関しては、漏れなく命を落としている。
「もいっちょ、スプラッシュレーザー!」
それだけでも凄まじい光景だったが、恐ろしいことに、ケイタの乗る魔動人形はあれだけの威力を持つ攻撃を連発していた。溜めも、魔力の消費も、制限などなにもないように。
「お次はこいつだ! ガトリングミサァァァイル! スラッシュゥ・ブゥゥゥーメラン!」
次々と技が披露され、周囲のドラゴンが半壊滅状態になるのにそれほど時間はかからなかった。先ほど生き残った大型のドラゴンも、この連撃には耐えられなかったようで、辺りにその屍を晒していた。
どの技も凄まじい威力を誇ったのだが、いちいち技名をねばっこく叫びながら攻撃をする必要があるのかと、アノレスは疑問に思った。
「……さぁて、前哨戦はこんなもんか。問題はラスボスだな」
まだ相当数のドラゴンが生存していたが、ケイタの魔動人形に戦いを挑んでくる個体はいなくなった。残ったドラゴンたちは一定の距離を置き、近付こうとはしない。彼我にある圧倒的な力の差を理解したのだろう。
ケイタの活躍によって落ち着く余裕ができたアノレスは、ふと厄災竜の動向に意識を向ける。
すると、歩を進めていたはずの厄災竜は足を止め、こちらを凝視していた。力量を測っているかのような余裕のあるその佇まいに、アノレスは恐怖を覚える。
「サ、サガミ殿。貴方の魔動人形は確かに凄まじい性能だ。とはいえ、相手は山ひとつを軽々と消し飛ばすほどの力を持っています。いくらあなたとはいえ、ひとりではとても勝ち目などないでしょう。ここまで協力してくれたこと、感謝致します。あとは我々に任せて後退してください」
ケイタの魔動人形の力を目の当たりにし、『サガミ家には一国家に匹敵する力がある』という噂は、悪質な吹聴やホラ話などではなく、真実なのだと信じることができた。
実際にアノレス自らが大隊を率いて戦ったとしても、彼ひとりに勝てるかどうかは怪しいところだと想定できる。
だが、それだけの力をもってしても、厄災竜より伝わるプレッシャーには遠く及ばない、というのがアノレスの率直な感想だ。一矢報いることはできるかもしれないが、撃退など夢のまた夢だと言わざるを得ない。
しかし、ケイタはアノレスの言葉を受けて、なんでもないようにこう言った。
「大丈夫ですよ、俺はひとりじゃな――」
ケイタの言葉の途中で、青白い光が瞬いた。アノレスにとっては見覚えのある光だ。『しまった』と思ったときにはもう既に遅く、厄災竜の頭のひとつから光線が放たれる。
ケイタの魔動人形を驚異と見なしたのか、はたまた気まぐれか。どちらにせよ、破滅の光が再び放たれたのは間違いない。
もはや回避不可能なタイミングだったため、アノレスの脳裏には走馬灯のように妻子の顔が浮かんでいた。
「――アイギス・リモート、フルカウンター!」
女性の声が響くとともに意識が切り替わり、現実へと引き戻される。アノレスの目には走馬灯ではなく、美しい魔方陣が映っていた。光線を迎え撃つように、魔方陣はアノレスたちの間に突如現れたのだ。
その数瞬の後、魔方陣と光線とが真っ向から衝突する。あの魔方陣にどのような効果があるのかはわからないが、とても防ぎきれるものではない。
先の惨状を目の当たりにしていたアノレスはそう思っていたのだが、その予想は良い意味で裏切られることになった。
驚くべきことに、魔方陣は光線と拮抗したのちに、軌道を上空へと逸らしたのだ。
その結果、上空に浮かんでいた雲は穿たれ、余波によって遠くへと押しやられていく。残ったのは、雲ひとつない蒼天のみだった。