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エピローグ③

 高速で接近してくるその影の正体は、ドラゴンではなかった。翼はあるが、ドラゴンというよりかは鳥に近い。しかし、その容貌は生物とは思えないほど無機的だった。例えるならば、『鉄の鳥』と言うのがもっとも適切であろう。


 鉄の鳥はまっすぐに大隊へと接近し、やがてその姿がアノレスの目に鮮明に映る。


「ま、魔物じゃない……のか? であれば……まさか、魔動人形だというのか? 馬鹿な……そんなはずはない」


 その姿を見てもなお、アノレスが疑問を持つのも無理はない。現状、完全な飛行を可能とする魔動人形(マギアドール)は存在しないからだ。あの技術大国と言われるプラセリアですら、短時間の飛行がせいぜいだとされている。

 そもそも、鳥の形を模した魔動人形自体が存在しない。さらに言うなれば、その全長は魔動人形の平均を大きく上回り、おおよそ倍近くある。魔動人形の種類によって多少サイズの違いはあるものの、倍以上となると規格外と言えるほど大きい。


 あれは敵なのか、味方なのか。アノレスがそう考えていた刹那、大隊の直上付近までとたどり着いた鉄の鳥は、とたんにその姿()()()()()


「て、手足が生えた!? いや、人になったのか!?」


 実際にはもっと複雑な動きをしていたのだが、あまりに一瞬すぎて、アノレスには鳥から手足が生えたように感じられた。

 

「おおおおおっ!!」


 雄叫びを上げながら、人型に変形した未知の魔動人形が落下してくる。その途中で大型のドラゴンのうち一体を殴りつけ、そのままドラゴンとともに地面へと衝突した。


「――――おっ、倒したのか……? ってか、このドラゴン、俺がこっち来たばかりのときに会ったやつに似てるな。同じ種族か? いやぁ、あのときは逃げるのに必死だったけど、まさかワンパンで倒せるようになるとはなぁ」

「え、あ……?」


 突如上空より現れ、あろうことか拳一発で大型のドラゴンを倒してしまった。突然の出来事に、味方はおろか、敵のドラゴンまでも動きを止めている。

 部隊を攻撃しなかったことから、少なくとも敵ではないと判断できるのだが、ぶつぶつと独り言を呟いたりと、あまりに緊張感のない様子に、アノレスは呆けてしまっていた。


「あっ、すいません。アークライト王国の人ですよね?」

「そ、そうだが……」

「俺はケイタ・サガミっていいます。国の危機っぽいんで、加勢しに来ました! 遅くなってすんません!」

「ケイタ・サガミ……まさか、あなたはあのサガミ家の者か!?」

「どんなふうに周知されてるかは知らないですけど……多分、あなたの思ってるサガミ家ってのであってると思いますよ」


 サガミ家とは、独自の方法により、不可能と言われていた魔動人形の生産に成功し、僅か一代で成り上がった家柄だ。その技術力は凄まじく、今や一国家に匹敵するほどの戦力を有しているとさえ言われている。

 もともとはアークライト王国に属していたが、その力を軍事利用されることを危惧して、現在はどの国にも属さず独立している。それが、アノレスが知るサガミ家の情報だった。


 それだけにこの場に現れたのが不思議でならなかった。本来ならアークライト王国を助ける義務などないはずなのだが、いったいどういうことだろうか。

 そもそもケイタ・サガミというのは当主の名だ。この戦いに干渉するにしても、わざわざ当主が出陣する理由は薄いはず。そう思った大隊長は、細かな駆け引きなど無視して、素直に尋ねることにした。


「なぜあなたのようなお方がここに……? 我々を助ける義理などないはずだ。現に、他国は傍観に徹しているではないか」

「え? あー……まあ、嫁の実家だし? 人間同士の争いだったら干渉はしないつもりだったんですけど……。ってか、困ってる人を助けるのに理由っていります?」


 『人を助けるのに理由はいらない』。それはアノレスとて同じ思いだが、だからといって自ら死地に飛び込む者がいったいどれほどいるのだろうか。

 いや、彼からしたらこの程度の戦場は死地のうちに入らないのかもしれない。そんな考えがよぎるほどに、ケイタの口調からは余裕の感情が汲み取れた。


「それに、ほら、相手は魔物だし、遠慮なく試せるかなぁって」

「……試す? いったいなにを……?」


 どちらかと言えば、『後者の理由が本音では』と推察できるほど、ケイタの声音は弾んでいた。それこそ、新しい玩具を買い与えられた子供のような――。


「ああいや、こっちの話なんで気にしないでください。――おっと」


 これだけ会話をしていたので当たり前だが、さすがにドラゴンたちも痺れを切らしたようだ。突然の乱入者に警戒していた小型のドラゴンのうち数匹が、ケイタの乗る鉄の鳥――いや、魔動人形へと突進してくる。


 しかしケイタは慌てることなく、それこそ虫でも潰すかのように小型ドラゴンを手のひらで難なく叩き落とし、戦闘不能にさせる。見た目通りのパワーが、その魔動人形にはあった。


(凄まじい……ただの打撃であれだけの威力……それにあの巨体だ。動かすのにかなりの魔力量が必要になるだろう。おそらくは伝説(レジェンダリー)等級(グレード)……いいや、もしかするとそれ以上の魔動人形かもしれんな)


 大隊に配備されている魔動人形は、王国最強を謳うだけあり、すべてが銀等級(シルバーグレート)以上で構成されている。

 アノレスの魔動人形に至っては、金等級(ゴールドグレード)だ。だが、ケイタの乗る魔動人形はそのひとつ上、いや、それ以上の差を感じられた。


「ギャォォォッ!」


 突如現れた魔動人形を、最大の驚異とみなしたのだろう。ドラゴンの群れの大半は、ケイタの魔動人形へと集中し始めた。

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