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エピローグ②

「っ!? そ、そんな……こんなことがっ……!?」


 先程まで部隊が展開していた場所は山の中腹だった。しかし今、自分の周りは()()()()()()()()()()()()()となっていた。

 かなりの距離を吹き飛ばされたのかとも思ったが、いまだ目視で確認できる厄災竜の巨躯が、たいして距離が変わっていないことを示している。つまり、ただの一撃で山ひとつが跡形もなく消し飛んだのだ。


 アノレスが慌てて部隊の様子を確認する。アノレスの号令を信じ、全員一目散に逃げたのが功を奏したのか、奇跡的に部隊には死亡者はいなかった。とはいえ、余波で戦闘不能になった魔動人形も少なからずあった。


「っ、化け物が……!!」


 あまりにも規格外。あまりにも理不尽。

 あれを止めようなどと、最初から考えるべきじゃなかった。全員生きて帰ろうなどと、考えが甘かった。

 アノレスは、数分前までの驕りと、先程植え付けられた恐怖を、頭を左右に振ることで取り払う。そして、一度深く呼吸することで覚悟を決めた。


「……お前たち、すまんが私に命を預けてくれ。祖国を守るため、愛する家族を守るため……命懸けで奴の気を引いて、可能な限り進路を逸らすぞ」


 アノレスが選んだのは、自らが囮となって厄災竜の注意を引き、少しでも進路を逸らすことだった。

 助けを呼ぼうにも、王都に着くころにはどれほどの犠牲が出るか計り知れない。もちろん、『逃げる』という選択肢もあった。しかし、ここで自らが生き長らえたとて、王都に残した家族は、罪なき国民たちはどうなってしまうのだろうか。

 そう考えたのはアノレスひとりではなかった。損傷が少なく動ける魔動人形(マギアドール)は全機立ち上がり、厄災へ抗う姿勢を見せる。その動作には、一切の躊躇いもない。

 

「――貴君らの忠義、この部隊を率いる者として誇りに思う」


 一呼吸おき、アノレスは誰にも聞こえない小さな声で妻子の名を呟くと、改めて厄災竜へと視線を戻した。


 ――しかし、その覚悟を嘲笑うかのように、五つの頭は天に向かって()えた。


「「「「「ゴァァァァァーーーーゥ!!」」」」」


 耳をつんざくような轟音に、アノレスは思わず顔を歪ませながら耳を押さえる。


「くっ、俺たちが生き残っていたことを怒っているのか……? いや、あの様子……どういうことだ?」


 この咆哮はどうにも不可解だった。仕留めきれなかった怒りをあらわにして大隊へ向けて吼えるのならまだ理解できる。だが、まるで花開くかのように五つの首がそれぞれ違う方角へと向いていたのだ。

 突然の出来事に唖然とするアノレスだったが、その不可解な行動の理由をすぐに理解することになる。

 

 遠くの空から羽ばたく小さな影がひとつ、またひとつと増えていき、やがて空を埋め尽くすほどまで広がる。

 『小さい』とはいえ、それは厄災竜と比較しての話である。離れた場所からでも視認できるということは、相応の巨躯を持つ存在であることが窺える。


「あの影は……ドラゴン!? まさか、仲間を呼んだのか!?」


 アノレスの推測通り、先の咆哮は周囲に生息するドラゴン種を呼び寄せるものだった。ひとつ訂正をするのであれば、『仲間』ではなく『眷属』と言ったほうが正しい。

 種の頂点たる存在に逆らえるはずもなく、ここら一帯のドラゴンというドラゴンが、厄災竜の召集に応じ、この場に集まってきているのだ。


「……総員周囲を警戒、動けない魔動人形をフォローしながら応戦するぞ」


 一言にドラゴンといっても、種によってその能力には差がある。しかし、どの種にも共通するのが、魔力への高い耐性だ。ドラゴンの鱗は魔力を分散させる性質があり、また、硬度にも優れる。

 数ある魔物の種族のなかで、最強種と言われる所以(ゆえん)だ。一番低いランクのドラゴンでさえ、魔動人形無しで討伐するのは困難だとされる。


 体長二、三メートル程度の小型種ばかりであれば、どうにかなったかもしれない。だが、集まってきたドラゴンのなかには魔動人形に匹敵する大きさの種もいる。そういった大型種は、通常なら一体に対し小隊単位で対応しなければならないのだが、今回ばかりは数の上での立場が逆だ。


 アノレスは顔をしかめながらながら、攻撃の命令を出す。


「大型を優先して狙え! 撃てぇ!」


 簡易式魔轟砲が火を吹く。

 その砲撃は大型ドラゴンの鱗を貫き、急所に当たったドラゴンは絶命した。

 撃ち漏らし接近を許してしまったドラゴンには、新式の刀剣武器で応戦する。これもまた、耐性があるはずの鱗を容易く切り裂くことができた。


 円形の陣を敷き、最新式の装備によって善戦してはいるものの、現状自らの身を守ることで手一杯な状況だ。しかしこの混戦状態では、いつ不測の事態が起きてもおかしくない。

 厄災竜の気を引くという、本来の目的も果たせぬまま、事態は悪化の一途をたどるばかりだった。


 そして、ついにはアノレスたちにとって最悪の事態が起きてしまう。


「――っ! 待て、行くな……! まだ決着はついてないぞ! っ、くそ、くそぉぉぉっ! 我らなど自らの手を汚すまでもないということか……!」


 アノレスの叫びも虚しく、眷属を呼び終えた厄災竜は、何食わぬ顔で再び歩を進め始めた。もはやアノレス率いる大隊など、自らが相手にする必要もないのだと、そう判断したのだろう。


 事実、アノレスらは目の前の相手に対処するので手一杯だ。そして、それが続くのも時間の問題だろう。

 アノレスは自らの不甲斐なさに、奥歯をぎりりと噛み締める。


「……た、隊長! 南の空より大きな影を確認! は、速い……!」


 そんなアノレスに、部下からの報告が上がる。

 また敵の増援が来たのかと、自棄になりながらも部下が示した方角へ視線を移した大隊長は、驚きで目を見開いた。


「あ、あれは……なんだ!?」

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