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第111話 力を合わせて

「クハハ、それ見たことか。貴様に我輩を倒す力などないのだよ!」

「くっ、やっぱりオレじゃ……勝てないってのかよ!!」


 ふたりの会話から察するに、以前やり合ったことがあるようだ。その時はカティアが敗北したみたいだが……心配ない。いまカティアは一人じゃない、俺たちがついている。


「諦めるなカティア、お前は一人じゃない。今は俺とリンがついてるんだぞ!」

「――っ!」


 軋む音がするってことは、まったく力が足りないわけじゃない。だったら、足りないぶんは推進力で補うとしよう。

 

「ブースターを増設する、全力で噴かせっ!!」

「っ、おう!!」


 イマジナリークラフトを使い、グレイウルフの各部に小型ブースターを増設。カティアは間髪を入れずにそれらの出力を最大にした。魔力消費量は相応に大きいが、そのかわり瞬間的に得られる推力は大きい。

 そして、その爆発的な推力による負荷は、カティアの巧みな操作によって、すべてエクスドミネーターの関節にかかる。

 新たに大きな負荷が加わった結果、どうなるかは明白だった。


 ガキッ、バキンッ!!


 鈍い音とともに、エクスドミネーターの肘関節部が耐えきれずに破損し、肘から先を失う。

 支えを失ったグレイウルフは、スラスターの勢いに振り回され、きりもみ回転しながらも、着地は見事に決めて見せた。


 ……いやしかし、さっきの逆立ちまがいの動きといい、今のきりもみ回転といい、いろいろな方向からGがかかってちょっと吐きそう……。

 魔動人形の中はジェットコースターなんて比じゃないほど上下左右に揺さぶられている。幸い、操縦席の機能かなんかでかなり緩和されているっぽいのが救いだ。じゃなきゃ逆立ちした時点で天井に頭ぶつけてる。


「はっ、見たかよ……! ざまあねぇぜ!」

「ぐっ、犬ころめが……小癪な真似を!」


 エクスドミネーターの折れた右腕が、泥によって新たに形成される。だが、その形は有機的であり、色合いこそ違うが人間の腕そのものだった。腕としての機能はあるだろうが、さっきまでのパワーは発揮できなさそうだ。

 多分だけど、魔動人形こ腕の構造を瞬時に一から想像することができていないんだ。だから、人の腕のような形しかとることができない。


 攻めるなら今しかない……!


「カティア、一気に攻めきるぞ! 爪を使え!」

「爪……わかった!」


 俺はグレイウルフ唯一の武装として、両手の指先に魔力発生装置を組み込んでいた。これを発動させると、両手の指先から魔力の刃が伸びる。

 それはさながら獣の前足のように、鋭く敵を切り裂くだろう。


 カティアは俺の意図を汲み取り、魔力の爪をその手に纏いながら、再び高速移動で敵へと接近を試みた。

 今度は直線的な動きではなく、左右に細かく動きながら的を絞らせないようにしている。


 ……それにしても、もう増設したブースターを使いこなしているな。さすがの戦闘センスだ。


「っらぁ!!」


 敵とのすれ違いざま、爪による一撃を加える。それを三百六十度あらゆる方向から、何度も、何度も、繰り返し行った。


 やがて魔力の大半を消費したため、十分な距離を取ってから、グレイウルフはようやくその足を止めた。

 あまりにもの高速での移動のため、辺りの砂塵が巻き上がっていて、エクスドミネーターの姿はよく見えない。だが、あれだけの攻撃を加えたのだ、かなりのダメージを与えたのは間違いないだろう。


「――なっ!?」


 やがて砂塵が晴れ、エクスドミネーターはその姿を現した。だが驚くべきことに、その身体はほぼ無傷。ほとんどダメージを与えられていなかったのだ。

 腕を交差させ、屈むことで防御の体勢をとっていたとはいえ、それだけでは説明がつかない。


 ……いや、よく見ると細かな傷はあるものの、どれも致命傷とは程遠い。それに、あの新たに形成した右腕だけは大きな欠損が見られる。ってことは、やつの装甲はまさか……。


「エーテルコーティング……! それも、攻撃をほとんど通さないほど強力なものなのか!?」


 エーテルコーティングとは、装甲表面に魔力を弾く膜を張る加工のことだ。

 程度にもよるが、例えば連射重視で一発の出力の低い射撃武器であれば、無効化することができる。魔力を用いた武器が大半であることから、この加工は対魔動人形戦では必須であるといえる。


 だが、今やつに当てたのは近接武器だ。一撃必殺が求められるため、剣などの武装は、射撃武器に比べ出力が高い。

 それはグレイウルフの爪も同様だ。それが防がれたとなると、生半可な武器じゃ傷ひとつつけられないだろう。


「……ご名答だ。その程度の攻撃なぞ無意味と知れ」

「っ、なら! もう一度腕をへし折ってやるよ!」

「二度も同じ轍を踏むも思うなよ!」


 さっきの関節技は、魔力を使わない完全な物理攻撃だったので、腕を折ることができた。それを理解しているカティアは、再び同じ方法で仕掛けようと接近する。


 しかし、さすがに同じ手が二度も通用するほど甘くはなかった。ガオウは明らかに大振りな攻撃はしてこなくなり、さらにはこちらのスピードにも慣れてきたのか、最小限の動きでこちらの攻撃を捌きはじめている。


「――ぐあっ!」


 大きな衝撃とともに機体が傾く。焦りから隙を見せてしまったカティアは、カウンター気味に攻撃をもらってしまったのだ。


「カティア、いったん仕切り直しだ。離れよう!」

「っ、ああ……!」


 動き続けていたぶん、こちらの消耗が激しい。対するエクスドミネーターはその場をほとんど動かずに防衛に徹していたので、魔力量は十全だろう。

 ここは距離を取って回復に努めるべきだ。


「休ませると思ったか?」


 バックステップで距離を取った瞬間、泥でできたエクスドミネーターの右腕が歪に蠢く。

 それは瞬時にして銃の形となる。……が、普通の銃じゃない。複数の銃身を一束にまとめたような見た目、まさか、あれは……!


「――ガトリングガンかっ!? カティア、動き続けろっ!」


 俺の言葉を受けてグレイウルフが走り出したその瞬間、エクスドミネーターのもつガトリングガンが轟音をあげて回転し始める。

 そこから放たれるのは無数の弾丸。百や二百じゃ収まらないほどの破壊の嵐が、さっきまで俺たちがいた場所を通過していく。


 しかし、嵐は止むことなく吹き荒れ、どこまでも執拗に追いかけてくる。途中、岩壁に身を隠したが、数秒も経たないうちに大きく抉り取られ、大穴が空く。

 ……これが魔動人形に直撃したらと思うとゾッとする。


 ガガガガガガガガガッ!!

 ズドドドドドドドドッ!!


 ――いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう。ようやく攻撃の手が止まったときには、俺は緊張のあまり額に汗をかいていた。

 操縦してない俺がここまでのプレッシャーを感じていたんだ、操縦者であるカティアの負担は相当だったろう。その証拠に、前に見えるカティアの背中は、実際に運動をしたわけではないというのに、酸素を求め深く上下していた。


「ほう、初見でこれを避けきるとは……やるではないか。まさか、この武器の特性を知っていたのか?」


 知っていた……いや、偶然だ。たまたま俺が知っていたガトリングガンと形状が似ていて、たまたまその攻撃性能も酷似していたに過ぎない。

 こっちの世界の武器の知識なんて、俺にはほとんどないのだから。だから、運が良かったとしか言えない。

 もしその武器が別の効果を及ぼしていたら、もし移動することで罠にかかるような代物だったら、俺たちは絶体絶命の危機に陥っていた可能性だってある。


 相手の次の一手が予想できないというのは、それだけで次の行動が後手に回ってしまう。絶対的なアドバンテージがあるのだ。


「――っ、そうか、それなら……」


 ――そう、それは敵だって同じはずだ。


 俺はにやりと笑みを浮かべる。


 そういうのが大得意なのがひとり、こっちにはいるんだよ。この危機的な状況でも、物怖じせずに楽しんじゃってるいたずらっ子がな。

 俺は目線の少し下にある、ぴょこぴょこと揺れる猫耳を撫で、こう言った。


「リン、出番だぞ。いつもの感じで遊んでやれ!」

「はーいっ! リンにまかせて!」



 ――さあ、反撃開始だ。

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