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第110話 カティア仕様

「っと、その前にコア内部を複座型に変更しないとな」


 イマジナリークラフトには、魔力核の内部すらいじれる機能もついていた。それを駆使して、シルバライザーの操縦席を複座に変更する。

 すると、球状だったコックピット内部が、前後に引き伸ばされ、三人いても余裕がある程度の空間ができた。それと同時に、俺の座っている操縦席の真後ろに、もうひとつの操縦席が出現した。


 すると、スマホの画面に表示されていた数値が減少する。やっぱりのの数字はさっき奪った泥……リソースの量だろう。なにかを作ったりするたびに減っていくようだ。


「おっ、おい! なんだこりゃあ!?」


 俺の後ろで操縦席に張り付いていたカティアが驚愕の声をあげる。まあ、狭苦しかった空間が突然広がったんだ、驚きもするだろう。


「よし、じゃあカティア操縦は任せたぞ!」


 俺は操縦席から離れ、戸惑うカティアを強引に俺が座っていた席に座らせる。複座になったぶん、けっこうなスペースが空いていたので、壁にぶつかることなくスムーズに動くことができた。

 

「おっ、おい!? 任せたってなんだよ!?」

「言葉通りだ……よっと。リンは俺といっしょだ、こっちおいで」


 状況が飲み込めず混乱するカティアをよそに、俺は後部座席へと腰かける。

 

「わーい!」


 リンは俺の呼び掛けに応え、ノータイムで俺の膝上へと飛び乗った。イマジナリークラフターを使っていたときの、いつものポジショニングだ。


「お、おいっ! ケイタ!?」

「だから、操縦はカティアに任せるってことだよ」


 後部座席には、魔動人形の操縦桿であるスフィアは付いていない。だがスマホをセットしたりできる装置や、計器類なんかは完備してある。完全にサポート専用の座席だ。

 カティアも以前魔動人形に乗ったことがあると言っていた。であれば操縦方法などは問題ないはず。

 それなら俺が操縦するよりも、センスに優れたカティアが動かした方がいいに決まってる。適材適所ってやつだな。


「でも……前にも言っただろ! オレが魔動人形を動かすとうまくいかなくってよ……!」


 確かに前にそんなこと言ってたよな。だが問題ない、理由はなんとなくだが想像がついている。

 

「大丈夫、俺に任せておけ! カティアは戦いに集中してくれればいい」

「お、おいケイタ――――っと!!」


 会話の途中でエクスドミネーターがこちらへと突っ込んでくる。カティアはそれをいち早く察知し、側面へスラスターを噴かしてなんとか回避した。

 敵の手には武装らしきものはない。どうやら体格差を活かした接近戦で決着をつけるつもりのようだ。


 ――ギッ、ギギギッ!


 装甲が擦れるような音がする。……というか擦れているのだろう。

 カティアの動きは、さながら狩りをする獣の如くしなやかで力強い。特に柔軟性を活かした動作が多いように思える。


 脚を百八十度開く、なんてことを戦闘の最中やってのけるのだが、カティア自身ならともかく、魔動人形がその可動に耐えられないのだ。

 ただでさえ魔動人形には鎧のようなゴテゴテした装甲があるのに、そんなトリッキーな動きができるはずがない。


 現に、ただの一度の回避行動で、シルバライザーの装甲が擦れ合い、悲鳴をあげている。俺の改造で可動域を拡張しているにも関わらずこれだ。

 その辺の魔動人形だったらもっと悲惨なことになっていたことだろう。カティアが魔動人形に苦手意識を持つのも納得だ。


「クソッ、やっぱりいつもの感じで動いちまう!」


 カティアが忌々しそうに愚痴を吐く。イメージした通りに魔動人形を動かせるという、スフィアの良いところが逆に足を引っ張ってしまっているようだ。

 それは凄腕の戦士にとっては足枷になりかねない。機体と肉体に大きなギャップがあるためだ。かと言って、機体に無理をさせないようにすると、動きがぎこちなくなってしまう。

 しかし、その問題を解決するために俺は今ここにいる。そのためのイマジナリークラフトだ。


「カティア、こっちも格闘戦でいくぞ! お前の強さを見せつけてやれ!」

「いやっ、けど……このままじゃ!」


 初撃以降も何度か攻撃を躱し続けるが、動くたびに魔動人形が悲鳴をあげている。やはりシルバライザーではカティアの動きに対応できていない。

 早いとこなんとかしないとな。


 ――――想像しろ。動きに干渉する余計な装甲を省き、各関節の可動域を最大限広げる。パワーよりもスピード重視がいい……。

 俺は頭の中で設計図を描く。求めるものはどんな動きもできる機体。そして、相手を翻弄できるスピード……よし、こんな感じでどうだ!


 俺はスマホに手を当てながら、理想とする魔動人形を頭の中で具体化させる。

 イマジナリークラフトの機能がそれを忠実に読み取り、シルバライザーを素体として再現してくれるはずだ。


「頼んだぜ、俺のスマホ!」


 モニターが一瞬光に包まれ、すぐに平常どおりに戻る。

 ……成功したか?


「貴様……やはりその力を……!」


 ガオウが驚嘆の声をあげる。

 内側からはどんな感じで姿が変わったのかはわからないが、魔動人形の簡易的な状態が表示される手元の計器には、シルバライザーの原型などまったくない、新たな魔動人形が映し出されていた。

 俺の趣味でガンメタに塗装されていたシルバライザーだったが、今はコントロールを奪った素材の色が混じって、淡いグレーの機体と変じている。さすがに塗装する暇はなかったが、わりと良い感じの色合いだ。


「よーし、いけっ! 反撃だカティア!」

「……? お、おうっ!」


 カティアはいまだ状況が掴めていない様子だったが、俺の合図を鵜呑みにして敵へと接近を試みた。


「――っ! これは……!?」


 カティアは戸惑いを見せていた。魔動人形を前進させただけであったが、操作感からして今までとまるで違ったのだろう。


 それもそのはず、もはや今のシルバライザーはシルバライザーにあらず。もはや別機体となっている。

 動きに干渉する装甲を極限まで減らし、各関節の可動域を最大限に確保しているのだ。そのフォルムはパッと見、マシーンと言うよりデッサン人形に近い。

 なんなら可動域は人間の限界を超えているまである。これならカティアの思い描く動きを完璧に再現できることだろう。


 ガオウは追加装甲やらでガチガチに強化したのに対し、こっちは構造そのものから作り替え、余分なものを極限まで削ぎ落とした強化をしてているのだ。

 あえて名付けるならば……そうだな、機体色と狼の獣人であるカティアにあやかって、『グレイウルフ』としよう。


 ゴウンッ!


 カウンター気味に突き出されたエクスドミネーターの拳を、カティアは機体を極端に屈ませることで回避し、さらに相手の懐へと潜り込んだ。

 その動きに淀みはなく、また、魔動人形からの悲鳴もあがらない。


「おらぁっ!」


 そのあとすぐに両手を地面につけ、逆立ちするかのように脚を天へと突きだし、そのまま攻撃後の硬直したエクスドミネーターの腕へと巻き付けた。


「……さっきまでと動作が違うことに違和感があったが、やはり操縦者が変わっていたか。その動きはあの時の犬ころだな? しかしバカの一つ覚えで懲りずにまたその技か、それは無駄だと知っているだろう!」

「ざけんな! 生身のあんたは化け物じみてるがよ、魔動人形はそうじゃねぇだろ! このまま腕一本、もらってくぜ!」


 カティアはグレイウルフの全体重プラス全出力をもって、エクスドミネーターの腕へ負荷をかける。

 ギギギ、とエクスドミネーターの関節部が軋む音が響くが、残念ながら今一歩パワー不足で、破壊までには至らないでいた。

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