表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/122

第109話 再戦

「……よかったなリン。ケイタに幸せにしてもらうんだぞ」


 カティアが俯きがちにそう言った。

 よく見ると、その表情には若干だが影が差しているようだった。


「……ん? なに言ってるんだ、カティアもいっしょに決まってるだろ。なぁリン?」


 まさかとは思うが、これでリンと別れることになると勘違いしてるのか?

 もちろん俺はふたりを引き離すつもりなど毛頭ない。リンと家族になるということは、カティアも同様に家族になるということだ。


 確認の意味も込めて、俺はリンに同意を求める。


「ケーくんといっしょなのは嬉しいけど、カーちゃんもいっしょじゃなきゃ、リンやだよ!」


 やはりというか、リンはカティアと別れるなどと、これっぽっちも考えていないようだ。


「だよなあ。カティアお前まさか、『ひとりになっちゃう……』とか思ってたのか?」

「おまっ! いや、だってよ……」

「だってもへちまもないわ! 俺は、カティアにもそばにいて欲しいと思ってるよ」

「――っ! そ、そうかよ……」


 カティアは俺に背を向けるが、否定の言葉はなかった。……というか、尻尾がぶんぶんと揺れてるんだが。いやあ、獣人ってのは感情表現の方法が豊かで、わかりやすくて助かるわぁ。


「まあ、うまいこと国を出れるかどうかはわからないけど、その辺は落ち着いてから考えるとしよう」

「わ、わかった――」


 カティアが照れ臭そうにしながら振り返ったと思ったら、瞬時に表情が一変し、血の気が引いたように顔が青ざめていた。


「……ん? 影……?」


 まるで、突然太陽に雲がかかったような暗闇が俺たちを覆った。


「――ッ! 危ねぇ、避けろっ!」

 

 ぐいっとカティアに思い切り引っ張られ、リンとともに前方数メートル先へと身を投げ出された。その直後、大きく地面が揺れる。

 

「――くっ、もう起きたのか!?」


 たたらを踏みながら体勢を整え、背後を振り返る。そこには、巨人の腕だが、地面から生えるようにしてそびえ立っていた。

 ……と、いっても最初よりかはずいぶん小さくなってはいる。だが、腕のみにも関わらず、一般的な魔動人形と同程度の大きさがあった。数人の人間を屠るには、充分すぎる凶器だ。


 その腕が、今まさに俺たちがいた位置に振り下ろされていたのだ。


「あっ、ぶねっ……!」


 まさに間一髪。あと一秒でも動くのが遅ければ、間違いなくぺしゃんこになっていただろう。

 突然のことに心臓が早鐘を打つが、こんなときにこそ冷静に、だ。一呼吸おいて心を落ち着かせると、ひとつの違和感に気付いた。


 イマジナリークラフターはリンといっしょに吐き出されたはずだ。イマジナリークラフターを取り込んでいないというのに、あの巨人の姿を形成できるはずがない。

 そして、今腕が振り落とされた場所、そこにはリンが閉じ込められていた球体があった。その中にはイマジナリークラフターがあったんだ。そんな大事なものごと叩き潰したのはなぜだ?

 

 ……いや、どちらかというと、今のは俺たちよりもイマジナリークラフターの方を狙ったようにも思える。

 くそっ、わからないことだらけだ……!


「ハ……ハハハッ!」


 巨人から声が響く。低く重厚な響き……ガオウの声だ。笑っていたが、その声色には怒気がふんだんに練り込まれている。


「ああ……ああ! この我輩をここまで追い詰めたのは誉めてやろう。……だが、そんな奇跡もこれまでだ。この全能の力は既に我が物となった!」

「な……に……!? どういうことだ!?」


 全能の力……おそらくはイマジナリークラフターのことだろう。しかしそれはたった今、自らの手で破壊したはずだ。


「フン……冥土の土産に教えてやろう。イマジナリークラフターはもう一台あるのだよ。そして、それは既にエクスドミネーターへと組み込み済みだ」

「二つ目のイマジナリークラフターだと!?」

「そう……そしてもう解析は終了した、もうそんな不純物のガキなど必要としない、完璧なイマジナリークラフターだけが我輩の手に残った、ということさ」


 バカな……もうひとつのイマジナリークラフターだと!?

 そんでもって、今の今まで解析を進めながら戦ってたってことは、本気じゃなかったってことか!?


 そんな会話をしている間にも、エクスドミネーターは再び泥を制御し、ゆっくりと巨人の姿を取り戻しつつある。

 さっき腕を振り下ろした位置が射程ギリギリのようだが、徐々に力を取り戻しているのならばそう安心もしていられない。それこそ魔力弾のひとつでも撃たれたらおしまいだ。


「くっ、シルバライザーはいけるか……!?」


 魔動人形を再び顕現させるためのクールタイムが終わっていることを祈りながら、俺はスマホの画面を確認する。

 すると、さっき見た桃色の光が、突然スマホの周りに出現し、画面に吸い込まれるように消えていった。突然のことなので驚きはしたが、なんだか暖かいものを感じる。

 きっと悪いものではないだろう。思えば、リンを助けたのもこの光だ。もしかしたら、リンの両親が魂となって……?


 ……いや、今はそれどころじゃない。気持ちを切り替え、改めてスマホの画面を覗くと、見慣れない表示が浮かんでいた。

 

「――っ、これは!」


 表示されていたのは新機能追加の文字。その名は『イマジナリークラフト』。説明など読まず、俺はスマホをタップする。

 

「イマジナリークラフト起動。素体としてシルバライザーを選択……追加機能? 素材……? ええい、ままよ!」


 説明を見ないまま、直感で次々とタップしていく。そして最後に『完了』のアイコンがでかでかと表示されたので、それをタップする。


「カティア、リン!」


 俺はふたりの手を取り、クールタイムが明けていたシルバライザーを起動させた。


人形接続(ドールコネクト)っ!」


 その宣言と同時に、シルバライザーが巨大化した姿で顕現する。

 そしてそのコックピットである魔力核(コア)の内部には、俺とカティア、そしてリンの姿があった。


 魔動人形を起動する際に搭乗者に触れていると、他者も同時にコアの中へと転移することができるのだ。前に本で読んだのを、とっさに思い出せてよかった。

 ただ、さすがに一人用のコックピットに三人もいると結構狭苦しくなるな。だからといって外に放っておくわけにもいかないし、ここにいたほうが安全だろう。

 それに、ふたりを連れ込んだのには理由がある。


「フン、いまさらたった一体の魔動人形でなにができる。武装すら持っていないではないか!」


 ガオウの言うとおり、シルバライザーの手には武器がひとつも握られていなかった。魔轟砲はチャージに時間がかかりすぎるので、あらかじめ外してある。

 だが問題はない。俺の予想通りなら、奴と同じことができるはずだからな……!


「よいしょお!」


 俺はシルバライザーを跪かせ、両手を地面……いや、地面に散乱した『泥』へと触れさせた。

 すると、海の底のように真っ黒だった泥は、シルバライザーを中心に、じわじわと純白に染まっていった。


「な……に!?」

「悪いな! 素材、使わせてもらうぜ!」


 白へと変わった泥は、こちらの制御下に入った証だ。なぜ色が変わるかはわからないけど、わかりやすくていいな。

 そんでもって、こっちの制御した泥は消えていっている。その現象に驚きつつも、スマホから音がしたので画面を見ると、画面に表示されている謎の数値が上昇していた。

 ……この数値は使える素材の量を示すものか?

 これを消費してイマジナリークラフターの機能を使えるって解釈で問題なさそうだ。


「まさか、貴様も……!? ええい、させるものか!」


 黒い泥が急速にガオウの元へと集束していく。

 ……ちっ、さすがに完全に向こうの制御下にある分は奪えないようだ。だが地面に散乱していた泥の半分近くはこっちのものにできた。これなら互角に戦えるはずだ……!


「――おおおおおっ!!」


 ガオウの咆哮とともに、黒い泥はひとつの球体へと変貌した。それは渦を巻くように回転しながら、泥の中から現れたエクスドミネーターの頭上へと浮かぶ。

 そのあとすぐに、球体から蛇のように数本の触手が伸び、エクスドミネーターへと絡み付く。

 それはぐねぐねと蠢きながら、やがて分厚い装甲を象った。そのせいで、どちらかといえば細身だったエクスドミネーターは、ごてごてとしてずいぶんとマッシブな機体に生まれ変わっている。


「へっ、フルアーマー化……ってとこか?」


 泥の量が足りなかったからか、巨人の姿になるよりも、本体であるエクスドミネーターを強化する方針をとったようだな。


「でもな、そんなことができるのはもうお前だけじゃないんだぜ?」


 ――俺は、目の前の相手を打倒するべく、新たな魔動人形のイメージを膨らませた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ