第104話 痛み分け
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「あの輝き……まさかあれはケイタ・サガミが持つ能力なのか?」
ガオウはこちらを狙う銃口に気付き、踏みつけてグシャグシャにしてやろうとシルバライザーの元へと向かっていたのだが、シルバライザーが突然黄金の輝きを纏ったことに、警戒心を引き上げた。
先ほどサイクロプスとの戦いで見たその輝きは、決して侮ってはならないものだと認識していたからだ。
結果としてガオウが勝負を制したものの、じつのところ余裕があったわけでもない。イマジナリークラフターを取り込んだエクスドミネーターを以てしても、敗北する可能性はゼロではなかったのだ。
動きが直情的かつ素人じみていたので御しやすかったが、もし乗り手が熟練者だったと思うと肝が冷える。
魔動人形を完全に破壊したことにより、その驚異は去ったものだと思っていたのだが、その輝きをもたらしているのが操縦者だとしたら見逃すわけにはいかない。
「……チッ、あの魔動人形だけの特殊な機能だと思っていたが、そうではないというのか。なればあの男は危険だな。あの時確実に殺しておくべきだった……いや、今確実に殺す!!」
激情に呑まれながらもガオウはあくまで冷静だった。シルバライザーの抱える武装から感じる魔力の量が跳ね上がったことを瞬時に察知し、馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込むのではなく、射線から外れるよう旋回していく判断をした。
「フン……やはり取り回しは難しいようだな。その動きでは捉えきれまい」
ガオウが思っていたとおり、シルバライザーの動きは鈍重だった。射線から外れたエクスドミネーターを追うその動きは、亀のようにゆっくりとしたものだったのだ。
巨人と化したエクスドミネーターも、俊敏とは言いがたいが、それを考慮した上でも余裕をもって回避できる。
「このまま背後に回って攻撃すれば安全に破壊できるか――ムッ!」
ガオウはシルバライザーとは別の方角に魔力反応が増大したのを感知した。
反応があった方角を確認すると、ガレオニクスがアークフレアブラスターの発射体勢に入っているのか確認できる。
ガレオニクスには二体の護衛機からケーブルが繋がれており、魔力の供給をしているようだ。
シルバライザーから感じる魔力反応よりかは小さいものだったが、だからといって無視できる攻撃でないことは、片腕を落とされたことで身をもって証明している。
「綺麗な宝石に釘付けになっていないで、少しはわたくしにもかまってくださいな」
「――チィッ!!」
挑発に乗ったから、ではない。あくまで合理的な判断として、ガオウはやむを得ずより近くにいたガレオニクスを攻撃する判断をした。
巨腕を振りかぶり、横薙ぎに思い切り振るう。
振りざまに腕を伸ばし、変形して倍近くの大きさになった手の平が地を抉りながら広範囲を薙ぎ払っていく。
「喰らいなさい! アークフレアブラスターァァァッ!!」
三機の魔力を併せることにより、不足している魔力をギリギリのところで補い、ガレオニクスは技を放つ。
だが、フラムローゼたちはこの一撃にすべての魔力を注ぎ込んでいたため、無防備であった。
アークフレアブラスターの発射と引き換えに、三機は為す術もなく破壊の奔流に飲み込まれてしまう。
「フン、手間をかけさせおって――――クッ、なんだとっ!?」
攻撃を終えた巨人は、バランスを崩し膝を突く。
ガレオニクスが狙ったのは巨人の足だった。
迫り来る巨腕に向けて放てば、あるいは相殺できたかもしれない。だが、フラムローゼは身の安全よりもあえて巨人の機動力を奪う選択をしたのだ。
――すべては、英雄の一撃のために。