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第100話 葛藤

 キィーーン。


 ふと、聞き覚えのある甲高い駆動音が耳に入る。

 

「ケイタっ!」「ケイタさんっ!」


 そして、聞き覚えのある声がふたつ。

 声のした方へと振り返ると、バイクに跨がった女性二人が、サイクロプスの近くへ停車した。


「カティア! それに……シルヴィア!? どうしてここに!?」


 俺は慎重に魔動人形から降りて、二人の元へと駆け寄った。


「ケイタさんっ! 無事でよかったです!」

「おわっ! シ……シルヴィア、苦しいよ」


 対面するや否や、シルヴィアはその体を預けるようにして、もう離さないと言わんばかりに力を込めながら俺へと抱きついてきた。


「だって……だって私、心配で心配で……!」


 とっさに受け止めたシルヴィアのやわらかな感触と、甘い香りに脳が蕩けてしまいそうになるが、今はそれどころではない。できる限り平静を装って、そっとシルヴィアを降ろした。


「ごめん……心配かけたよね。でも俺はこのとおり、ほら、大丈夫だから」


 むん。とダブルバイセップスのポーズで、平気なことをアピールする。まあ実際はひょろひょろなんで、力こぶの一つもできないんですけどね。


「あっ、頬に切り傷が……今治しますね。【ヒール】」

「……」


 ……いや、聞いてましたかシルヴィアさん?


 ポージングしながらシルヴィアに癒しの魔法をかけてもらってる姿は、端から見たらえらくシュールに映るだろう。

 ていうかシルヴィア回復魔法使えたんだね。


「あー、うん。イチャつくのは後にしてくんねぇかな?」


 カティアが俺とシルヴィアの間に割って入ってくる。


「あ、ごめんカティア。……って、別にイチャついてるわけじゃないから!」

「あー、はいはい。言い訳なら後で聞いてやるよ。とりあえず簡単に説明するぜ」

「――そうだ、なんでシルヴィアがここにいるんだ!? それにフラムも!」


 急な展開に、いまだに頭の回転が追いつかない。

 なぜカティアとシルヴィアが一緒にいるのか。

 なぜフラムは巨人と交戦しているのか。

 俺にはわからないことだらけだった。


「ああ、あの後オレになにができるのか考えてな……結果、アークライト王国へ助けを求めるために行動したんだ。GODSの連中からちょちょいっとバイクを拝借してな」


「拝借って……おいおい」


 カティアは誤魔化すように軽く肩をすくめながら続ける。


「んで、道中偶然出くわしたんだ。プラセリアへと密入国していたこいつらとな」


 そう言って、カティアは親指で自分の背後にいるシルヴィアを指差した。


「密入国!? シルヴィア、どうしてそんな危険なことを……?」

「ケイタさんが悪いんですよ! 連絡のひとつも寄越さないで! ……私、ずっと心配していたんですからね?」


 心配かけちゃってたのは申し訳ないと思うけど……それにしたってあの品行方正なシルヴィアと、元が付くとはいえ王族のフラムが犯罪まがいなことに手を出すとは思わなかった。

 まあその辺はあまりつっこまないでおこう。

 

「ご、ごめん。いろいろ事情があってさ」

「……もう。事情はカティアさんから聞いたので知っていますが、お人好しも大概にしないとですよ?」

「う……ごめん」


 カティアは事情を話したのか。しかし、シルヴィアとフラムが信用してくれたな。

 面識があるものの、問答無用で俺を誘拐したことで、最悪の印象だったろうに。


 俺はちらりとカティアへと視線を送る。


「……まあ、オレなりにケジメはつけたつもりだ」

「ふふ、カティアさんにあそこまで誠意を見せられては、断るわけにはいきませんからね」

「ちょ、コイツの前でそういうこと言うなって!」


 カティアは顔を赤くしながらシルヴィアの言葉を遮った。対するシルヴィアはくすくすと、からかうような微笑みを浮かべている。


 ふたりの間には、なんとなく仲良さげな雰囲気を感じる。どんなやり取りがあったのかは知らないが、彼女らの間にあったわだかまりは、完全とはいかまいまでも改善されたようだな。


 カティアは良き友人だと思っている。俺の家族であるシルヴィアとフラムとは、できれば仲良くしてほしいものだ。


「ったく……まあ、それよりもケイタ。あいつらが時間を稼いでくれているうちに態勢を整えるぞ」

「いや、でも俺にはもう戦う力がないんだ……」


 フラムたちはいまだに巨人と交戦中だ。工業地帯を出たので、今は結構距離が離れたけれど、まだ黙視で確認できる距離だ。

 巨人相手に陣形を維持しながら善戦しているようだけど、今のままじゃいずれ追い込まれてしまうだろう。


「ケイタさん、これを」


 待ってましたと言わんばかりに、シルヴィアが俺に手渡したものは、アーティファクトだった。


「これは……まさかシルバライザーか!?」

「はい。万が一のためにと、用意してきて正解でした」


 俺はシルヴィアからアーティファクトを受け取るも、そのまま微動だにせず考え込んでしまう。

 

 シルバライザー……アークライトにいた時、俺が乗っていた銀等級の魔動人形だ。確かにこいつがあれば再び戦えるようにはなる。

 しかし、一般等級だったサイクロプスと比べ、二段階上の等級のシルバライザーならば勝ち筋がある……とは言えないのだ。


 正直、シルバライザーじゃ巨人相手に勝てるイメージが湧かない。


 ぶっちゃけ、魔力核の性能差を除けば、シルバライザーよりもオリジナルパーツを使って強化したサイクロプスの方が能力値は高いのだ。それはスマホのステータス画面で確認している。

 特に火力に関してはかなり開きがある。相手が普通の魔動人形であれば問題ないのだろうけど、残念ながらそうではない。


 あの化け物を止めようとするのならば、相応の火力が必要になるのだ。


 ――――なんて、なんだかんだ理屈をこねているけど、すぐに動き出さない理由は自分でもわかってる。


 ……戦うのが怖いんだ。


 初めて命を賭けた攻防、敵との戦力差。

 またあの巨人と対峙し、あの凍えるような冷たい瞳で射抜かれるかもしれないと思うと、頭ではわかっていても、体が、本能が、戦うことを拒んでいるかのように言うことを聞かない。


 気が付けば、俺の体は小刻みに震えていた――。

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