第7話 魔王の娘(3)
前回の投稿から大分間を空けてしまい申し訳ございません。
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ローズマリーは差し出されたブルドーの手を掴み、彼にお礼を言いながら立ち上がった。
「ありがとう。ブルドー」
「それよりもマリー、あの子は?」
「ガレディアよ」
「ガレディアさん!?何であんな姿に……」
真っ赤な爪を光らせながら、空中を飛んでいる少女がローズマリーの専属侍女である事にブルドーは驚きを隠せない。
「それに、今回の襲撃の首謀者はあの子なの」
「何だって!?」
ブルドーは目を丸くしてガレディアの方を見ると彼女は背中の翼を羽ばたかせながら無表情で2人をじっと見つめている。
「他のみんなは?」
「まだ魔族と戦っている」
「じゃあ私達でやるしかなさそうね」
「でもどうやって彼女に攻撃する?」
自分達でガレディアを止める事を決意したローズマリーに、ブルドーはどうするのか彼女に聞いた。
「私が魔法で彼女を地上に下ろす。そしたらブルドーは翼を切り落として」
「分かった」
「それじゃあ、作戦……」
「「開始!!」」
2人はガレディアを翻弄するように左右に分かれて走り出し、ローズマリーはすぐさま重力魔法でガレディアの動きを封じた。
「動……けない……」
ガレディアは必死に起き上がろうとしたが、自分の身体に岩がのしかかっているかのように身動きが取れず、指一本動かせなかった。
その背後からブルドーがワイバーンを振り下ろして翼を狙うが切断するどころか傷一つつかなかった。
「凄く硬いな。だったら……!」
ブルドーはワイバーンに力を入れ、
「サラマンダー!」
と叫ぶとワイバーンは煙と火花を上げ、やがて発火しだした。
ワイバーンには古今東西のドラゴンの力が秘められており、ドラゴンの名を呼ぶ事によってその力を得られる事が出来るのが特徴。
その力は様々で火や水を出すから空を飛んだり、毒を撒き散らしたり、大地を豊かにする事まで可能である。
ブルドーは魔法を使えないが、ドラゴンの力は魔法とは別物である為、彼でも魔法のような物を使うことが出来る。
ドラゴンの力を借り、ブルドーはガレディアの翼の切断を試みると少しずつではあるがワイバーンの刃が翼に食い込んでいく手ごたえを感じた。
「よし、このまま行けば」
ブルドーが続けてガレディアの翼の切断をしているといきなり
「おらぁ!」
大声を上げ、斧を持った大男が反対側のガレディアの翼を攻撃しだした。
「グリアム!」
「悪りぃ。片付けるのに少々手こずったがここからは俺も手伝うぜ」
「ありがとう。今のところマリーが魔法でこの子の動きを止めてるからその間に翼を切り落としてくれ」
「おう。任せとけ!」
大男の正体は鋼の勇者のグリアムで魔族達をある程度片付けた後、ローズマリー達に加勢しに来てくれたのだ。
「しっかし硬えなこれ」
「俺も今、サラマンダーの力を使ってるけどそれでやっとだ」
「じゃあここは俺の出番って訳だな」
「あまりハメを外すなよ」
「分かってるって。じゃあ、行くぜ!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
グリアムが叫ぶとロンペレが翼にどんどん食い込んでいき、遂に切断する事に成功した。
ロンペレは使用者の破壊衝動を駆り立てる事によってとてつもない力を引き出し、通常ではあり得ないような威力の攻撃を与えるのが特徴で、上手く使えばとても強力だが一歩間違えば周りにあるものを手当たり次第、破壊し尽くしかねないので七つの聖なる武器の中でも極めて扱いが難しい武器である。
グリアムもロンペレを授かった当初は、破壊衝動を上手く制御する訓練として山籠りしたりするなど苦労したが、今は破壊衝動が暴走する事はほとんど無くなり、ロンペレは彼の唯一無二の相棒となっている。
「あの翼をいとも簡単に切り落とすなんて、流石ロンペレだね」
「どんなもんだい。さて、もう片方も……ん?」
グリアムがもう一つの翼を切断しようとした時、何者かが自分の足を掴んでいるような違和感を感じて下を見ると、
「何!?」
彼は衝撃的な光景を見てしまい思わず声を上げた。
ガレディアがグリアムの足をがっしりと掴んでいたのだ。
そしてガレディアは、そのままグリアムの足を鎧ごと粉砕すると言わんばかりに真っ赤な腕に力を入れて来た。
「危ない!」
とっさにブルドーが彼女の腕を攻撃すると
「ぐっ……!」
ガレディアは鈍い声を上げ、グリアムの足を離した。
「マリーの魔法が弱くなってる。もうすぐ限界みたいだ」
魔法には同じものを長時間使っていると、時間が経つにつれて効果が弱くなってしまう性質があり、重力魔法のような相手を拘束する魔法などは素人が使うとすぐ効果が切れてしまう。
「ここまでか……」
ローズマリーは魔法の効果が切れ、ガレディアが再び動き出すのを覚悟した時、
「グラビティ」
後ろからナディアが重力魔法を使い彼女の動きを再び封じた。
「ナディア」
「ここは私に任せてマリーはさっさとブルドー達に加勢して来なさい。アンタは魔法より腰に下げてるやつ使う方が強いんだし」
「ありがとう。そうさせてもらう」
ローズマリーはナディアにお礼を言ってその場を離れるとすぐさまブルドー達に合流した。
「マリー、何でこっちに来たの?」
「ナディアが代わってくれた」
「マリーも来てくれりゃあ心強いな」
合流したローズマリーを加えて3人は改めてもう片方の翼の切断に取り掛かる。
「片方はグリアムが切り落としてくれたけど、もう1回いけるか?」
「よしきた!」
グリアムは白い歯を見せながら、ブルドーのお願いに快く承知すると再び翼を狙ってロンペレを振り下ろし切断を再開した。
「俺達はどうしようか」
「手足をやる」
「切り落とせって事!?」
「違う。あの子の手足は血で鱗と爪を作って固めているから、それを砕く」
ローズマリーはガレディアが身に纏っている鱗と爪を砕き、彼女を無力化する事を目を丸くしてこちらを向いたブルドーに提案した。
「そんな事が出来るのか?それに、翼でもあんな硬かったのにどうやって?」
「一瞬だけどあの子の掌に核のようなものが見えたの。それを壊せばおそらく砕けるはず」
「分かった。ナディアの魔法が切れる前に終わらせよう」
ローズマリーとブルドーは手分けしてガレディアの手足から核を探し、それを壊す事にした。
「先に腕から破壊した方がいい。もし魔法が切れてガレディアが動き出した時に、あの一撃をくらえば無事にはいられない」
「そうだね。俺もその方がいいと思う」
2人は重力魔法ですっかり大人しくなったガレディアの掌を見ると、中心に丸くて真っ赤な出っ張りがある事を発見した。
「これが核か」
「多分」
「俺はもう片方の手の核を壊してみる」
そう言ってブルドーが離れた後、ローズマリーは掌を上に向けるように地面に置き、
「すまない。ガレディア」
彼女に一言謝るがガレディアは電池切れのおもちゃのように何も言葉を発さず、無反応だった。
そんな彼女の様子にローズマリーは複雑な感情を抱きながら、掌の核にアンペガサスを真っ直ぐに向けて突き下ろすが、核は傷一つ付かなかった。
「やっぱり。硬いな」
ローズマリーは、核をどうやって壊すか頭を悩ませていると、
「マリー、翼は切り落としたぜ。次はどうする?」
翼の切断を終えたグリアムが話しかけて来たので、ガレディアの掌にある核を見せ、
「これと同じのが足にもあると思うからそれを壊して欲しい」
グリアムに足の核を破壊するよう頼み、
「よし。分かった」
彼は先程のように快く快諾してくれた。
「これを普通に壊すのは厳しそうね。だったら」
真っ向からこの核を壊すのは無理だと判断したローズマリーは、一つの魔法をアンペガサスに付与した。
「腐食」
彼女が今唱えたのは扱いが難しいとされる闇魔法の一つで、触れたものを腐らせて跡形もなく消滅させる死の魔法である。
剣身が紫色に変わり、禍々しい光を放つ魔剣と化したアンペガサスを握り、ローズマリーは再び掌の核に目掛けて突き下ろすと核は赤黒く変色し、少しひびが入った。
(腐食が効いてる。もう1回やれば壊せそう)
ローズマリーが再びアンペガサスで核を壊そうとしたその時、
「魔王様から離れろ!!」
「しまっ……!」
核を壊す事ばかり考えていたせいで魔族の1人が近づいていた事に気付かず、後ろを取られたローズマリーはとっさに避けるにしても間に合いそうにもなかった。
このまま剣の錆になりかけた時、
「ライジングアロー!」
一本の矢が彼女を襲った魔族に刺さると、間近で見れば目をやられてしまいそうな程に眩しくて青白い光を放ちつつ、凄まじい電撃が魔族の身体を駆け巡り、魔族はその猛烈な激痛に叫び声を上げた。
「猛き炎の神よ。平和を脅かさんとする者に業火の裁きを与え、塵一つ残さず焼き尽くしたまえ。真紅に燃える地獄の炎!!」
追い討ちをかけるかのように死神の姿を象り、真っ赤に燃える灼熱の炎が標的を魔族に定めながら光速で飛んできた。
炎は魔族に着弾すると、一瞬で魔族の身体を包み込み、魔族は断末魔を上げながら塵一つ残さずに消え去った。
魔族を襲った2つの強烈な一撃に、ローズマリーは防御魔法を使って身を守ると、
「大丈夫マリー?」
「怪我はないかい?」
「シャイン、リネア」
グロムルークとラグナロクでその一撃を放ったシャインとリネアが彼女に駆けつけて来た。
「ありがとう。助かった」
「ところでこの子は?」
「今回の襲撃の首謀者よ」
「「何だって!?」」
ローズマリーの言葉に2人は目を見開きながら驚愕し、ガレディアの方に目を向けた。
「しかもこの子って……」
「えぇ。ガレディアよ」
「嘘だろ……」
2人は今回の襲撃の首謀者が彼女の専属侍女だという事実に言葉を失い、しばらく黙っていると大広間の向こうから魔族達が押し寄せる声がこちらに近づいている事に気付いた。
「こっちに近づいてるな」
「マリー。アタシ達は魔族達を足止めしてくる」
「分かった」
魔族達の足止めに向かったシャインとリネアを見届けたローズマリーは核の破壊の続きをしようとした時、
「マリー」
名前を呼ばれたのでシャインかリネアが戻って来たのかと思って振り返ると、そこにはアクアランスを握り、水色のポニーテールを靡かせたエミリーが居た。
「エミリー、いつの間に」
「先程まで他の兵の人達と一緒に魔族と戦っていたのですが、兵隊長さんからここはもう大丈夫だと言われましたのでマリー達に合流しに来ました」
「なるほど」
「それで、私は何をすればいいのでしょうか?」
「ある物を壊して欲しいのだけど、まずはこれを見て欲しい」
「何ですかこれは……」
そう言ってローズマリーは掌の核をエミリーに見せると、彼女はこの世のものではないものを見てしまったかのように、口に手を当てて言葉を失った。
「今は黒く変色してるけど、これの赤いやつが足にもあるからこれを壊して欲しい」
「わ、分かりました」
戸惑いつつも彼女はローズマリーに応じ、土踏まずの場所にある核にアクアランスを向けると深呼吸して、
「いきます!絶対零度の一撃!!」
彼女の声に合わせてアクアランスは青い穂を凍てつく冷気で包み、触れれば凍傷を起こしてしまいそうな極寒の槍と化した。
エミリーはアクアランスをそのまま核に突き刺すと核の中心にひびが入り、そのひびは瞬く間に広がって遂には粉々に砕けた。
核が破壊された事により、ガレディアの片足を覆っていた血の鱗と爪にもひびが入り、そして砕け散ると赤い欠片が四方八方に飛び散りながら大広間の床に散らばった。
「すげぇじゃねぇかエミリー!あのクソかてぇのを1発でぶっ壊すなんざ!」
「グリアムさん!?私は別にすごい事なんて何も……」
「俺達もこの核をぶっ壊そうとしてんだけど、全然歯が立たなくてよ」
「でも、本当にすごい事なんて……」
「いや、すごいよエミリー」
グリアムに褒められ、顔を下に向けて謙遜していたエミリーがある男の声に反応して顔を上げると、ブルドーが目の前にいた。
「ブルドーさんまで……」
「そんなに謙虚になる必要ないよ。本当にすごいと思ったから口にしたんだし、エミリーは公爵令嬢としてそう教育されて来たからだと思うんだけど、もっと自分に自信持っていいと思うよ」
「ブルドーさん……そう、ですね……」
ブルドーの率直な言葉にエミリーは嬉しそうに頬を赤らめ、小さく頷いた。
「何、ナチュラルに口説いてんだよ」
「グリアム!?俺は別に口説いてなんか……!」
「あーあ。これだから天然たらしは」
「何だよ天然たらしって!」
「あっあの2人共……」
ブルドーとグリアムが互いの顔を見ながら口論寸前になり、エミリーが止めようとした時、
「2人共、喧嘩する暇があるなら早く核を壊してちょうだい」
見かねたローズマリーが若干威圧的な声で仲裁に入り、なんとか喧嘩は起こらずに済んだ。
「あー。すまんブルドー」
「いや、俺も悪かった」
ローズマリーが仲裁に入ると頭に血が上っていた二人は次第に落ち着きを取り戻し、すぐさま仲直りをした。
「俺達もエミリーに続こう」
「ああ。さっさと壊しちまおうぜ」
「ところでエミリー。貴方、何をしたの?」
何を思ったのかローズマリーは唐突にエミリーの方を向き、彼女に質問しだした。
「えっ?絶対零度の一撃をしただけですが」
「それ氷系の技よね?」
「はい、そうですが」
「……すぐ壊せるかも」
「「本当か!?」」
ローズマリーの言葉にブルドーとグリアムは驚愕し、すぐさま彼女の方に顔を向けた。
「これ血で出来てるの。だったら一気に凍らせればいけるのではと思って」
「なるほど。試す価値はありそう」
「でも俺、マリーと違って魔法は使えねえし、ブルドーみたいにドラゴンの力も無いからどうすりゃいいんだ?」
自分で凍らせる事ができないグリアムは、腕を組んで頭を捻りながら打開策を考えた。
「私がもう一回核を壊すのはどうでしょうか?」
「そうだな。ここはエミリーに任せた方がいいな。じゃあ俺は残りの魔族達をやっつけて来るから、そいつはお前らに任せるわ」
エミリーが小さく手を上げながら、グリアムの代わりに自分がもう一度核を壊す事を提案すると、彼はエミリーの案を受け入れ、自分は魔族達の足止めをしに行くと言ってその場を後にした。
「そうとしたら急ごう。ナディアにも大分負担をかけてるし」
3人はそれぞれの七つの聖なる武器に氷の力を付与させ、
「絶対零度の一撃!」
「吹雪を起こす聖竜!」
「永遠の凍結!」
核に目掛けて振り下ろすと核はひび割れて木っ端微塵になり、ガレディアが詠唱で手に入れた血の鱗と爪は跡形もなく消え去ってしまった。
「何とかなりましたね」
「ああ」
「ナディアさんとお疲れ様でした」
エミリーが少し離れた場所で重力魔法を使っていたナディアに手を振ると、ナディアも少し口角を上げながら小さく手を振った。
「さて、これからだけど……マリー?」
ローズマリーは、完全に敗北し大広間の床に突っ伏していたガレディアの方に向かって歩き出すと彼女の前に立ち、
「終わりよ。ガレディア」
「……」
ガレディアに一言告げ、ガレディアは彼女の言葉に無言で頭を下げた。
こうして七勇者の活躍により、魔族の襲撃は無事鎮圧された。