75 3年生
「あ〜あああ〜、学園、3年生〜」
私は前世聞いた事があるような歌を口ずさみながら、制服の上着の襟がきちんとなっているかを確かめる。
「…なに? その哀愁漂う歌。聞いた事ないんだけど」
あいも変わらずツッコミを入れてくる弟ニコラス13歳です。
「今日から学園が始まるから、ちょっとテンション上げてるのよ。まあ今日は明日の入学式の準備だけなのだけれど……」
「ふーん……。学園はテンション上げなきゃ行けないところなの?」
うっ……。いちいち嫌なところを突いてくるわね?
「あれから最初の登校日なのよ? 私もさすがに緊張するわよ……」
ああ……と、ちょっと苦笑するニコラス。
「サリア嬢と一緒にいたらいいんじゃない?」
「それが、領地からの道が土砂崩れで塞がってて、2、3日遅れるみたいなのよ……」
ありゃ、みたいな顔をされた。
「今回の場合、お休みしてもいいと僕は思うよ……」
「お父様達にもそう言われたんだけど、友達が来ないから行かない、なんてやはりちょっと何かに負けた気がするんだもの……」
「いったい何に負けるんだよ?」
そう言われながらも、私は学園に乗り込む? 事にしたのだ。
色んな目で見られるんだろうけれど、いずれは通る道だしね! むしろ、サリアを巻き込まずに済むから、今日行っておくべきだわ。
そうして、私は学園に向かったのだ。
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オブシディアン王立学園。
乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』の舞台となったこの学園。オープニングで見たこの学園の門から入って並木林越しに学園の校舎が見えるこの景色。実際に何度見ても素敵だわ。
そんな事を敢えて考えながら、馬車から降り入っていく。
迷いに迷って、学園のみんなが登校する時間帯に登校した。早いと色々言われる時間が長くなりそうだし、遅いと逃げてるみたいだったから。
私が姿を現すと、やはり皆の目が一斉にこちらを見た。
うわぁ……、覚悟はしてたけど、やっぱり注目されちゃうわよね……。
私は挨拶しながら歩き出すと、周りの方がわっと此方に寄って来た。
えっ⁉︎ 何を言われるの――?
「カールトン様。先日のパーティーでは私達本当に感動いたしましたわ! もう大丈夫でいらっしゃるの?」
「あのように、愛し合う2人の為に潔く身をお引きになるだなんて……。私、あの日は涙が止まりませんでしたの……!」
「あの、是非週末は我が家のお茶会にいらっしゃいませんか? 兄を紹介したいのですが……」
「よろしければ、本日のランチをご一緒しません?」
わーっと、囲まれて口々にそのように言われる。
え? 本当に?
お父様達が私を『傷物令嬢』などになっていない、皆褒めてくださっている、とは言ってくださっていたけれど……。本当だったのね。
私は驚きながらも少し安堵して、彼らと和やかにお話しながら校舎に向かって歩いていった。
それぞれの別の行き先に行かれる方もいて人数も少し減った時、向こうから1人の令嬢が歩いてくるのがチラッと視界に入った。
私達に近付いてきたその令嬢はそのまま私の側まで来た。私は他の方と話していてすっかり意識がそちらに向いていた。気付いたのは彼女が真横に来た時だった。そして――。
「この、泥棒猫!!」
パシッ……!!
彼女の声が先か、叩いた音が先か――。
私は、不意打ちで身の覚えのない言いがかりと頬を叩かれる、という事態になっていたのだった――。
流石に私も、一瞬何が起こったのか分からなかった。
私が頬の痛みと言葉を理解し、はっとその相手を見ると――。
え??
私はまた呆気に取られる事になる。
私を叩いた相手は、既に周りの人達に取り押さえられていた。
押さえているのは、先程まで話していた令嬢数人と、すぐ向こうにいた男子生徒達。
???
貴方達、普通の貴族の令嬢と令息ですわよね??
何故、そんな手際よく人を押さえ込めているのですか??
私を叩いた令嬢は、前世で見た刑事ドラマさながらに腕を捻られ、数人がかりで捕獲されていた。
それ、きっとものすごく筋肉モリモリの犯人でも取り押さえられるヤツですよ? 一応、相手は令嬢なんですけど……。
案の定、令嬢は痛みと恐怖からか顔色は真っ青になっていた。
…と、あちらの様子を見ている間に、私には別の令嬢達が叩かれた頬と他に怪我が無いかの確認をし、別の方に冷やすモノと医者を手配をしてくれていた……。
あの、確かに痛かったですけれど、お医者さんまでは必要ないですけど……。
というか、この学園ってこういう非常時に対応出来るスキルとか教えてくれてたんですかね? 私はまだ習ってなかったですが、授業があれば私もちゃんと習得出来るように頑張ります。
おっといけない。つい皆さんの素晴らしい動きに見惚れてしまっていましたわ。
私は改めて取り押さえられている令嬢を見た。
あら? 彼女は……。
「貴女、ダニエル様の幼馴染のエルマ嬢ではありませんか?」
震えていた彼女は、私の言葉にはっと自身を取り戻したようだった。
「…そうよ! 貴女マティアス様に捨てられたからって、私のダニエルに手を出すなんて!! 彼は私の恋人よ! 侯爵家の跡継ぎなら誰でもいいのね、この泥棒猫!!」
は?
「とぼけるの? 私は知っているんだから! 侯爵夫人に取り入って、次の侯爵家の跡取りダニエル様の婚約者にしてもらうつもりだってことは!! マティアス様をお兄様と呼んでいたのでしょう⁉︎」
はあ?
怒鳴り続けるエルマ嬢に周りが素早く猿轡をかませる。あら、そんな技も出来る様になりますのね……。
「エルマ嬢。私は確かにマティアス様と婚約を解消いたしました。けれど、ダニエル様とは全く関係ありませんわ。彼とはパーティー後一度もお会いしておりませんし。ワーグナー侯爵家に侯爵夫人のお見舞いに伺わせていただいた折も、彼は屋敷にはいらっしゃいませんでしたわ」
私は、一つ息を吐き、もう一度しっかりとエルマ嬢を見据える。
「エルマ嬢。貴女は何故、いきなり暴力を振るうという行動に出られたのですか? 私に対して何か言いたい事や聞きたい事があれば、きちんとお話してくだされば良かったと思いますわ。特に今回は本当に誤解だったのですし。…とても、残念です」
エルマ嬢はビクッと身体を震わせ、猿轡の中でも怒鳴っていた声を止めた。
ちょうどそのタイミングで先生方が出て来られ、彼女は連れて行かれて私も医務室に行った。そこにはいつもの養護の先生がいらっしゃったのだけれど、軽く冷やして応急手当てを受けた後、きちんと診てもらわなければと、何故か王宮に連れて行かれ改めて診察される事となった。
あの、私は頬を打たれただけですけれど……。
そうして何故か安静に、と王宮の医務室のベッドで休んでいるように言われたのである。
私、実は脳震盪でも起こしてたのかしら……?
しかしながらベッドで横になっていると、昨夜は今日の学園初日の緊張からかあまり寝られなかった事もあり、ぐっすりと寝てしまったのだった……。
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