58 登場
「もう、やめるのだ!」
その声は、王宮の広間に響き渡った。
広間の扉から入ってきたのは、この国の国王クリストフだった。
広間の人々は思った。また先程の王妃のように、愚かな事を言い出すのだろうと。
そしてもしそうなら、この国はもう終わった。
心ある者達と、何かを起こさなければならない……と。
王は、静かに入って来た。…そして、王妃の前に立った。
王妃は味方が来たとばかりに嬉しそうに言った。
「陛下! この者達を不敬罪で捕らえてくださいませ! 王族に無礼を働き、私には冤罪をかけてきたのです! なんとも恐ろしい事でございます……! この愚か者達を、捕らえて極刑に処してくださいませ!!」
どこか媚びた声で、涙ぐみながら王に訴えかける王妃。
そうか、いつもこの調子で王に言うことを聞かせているのか。皆、そう空々しい思いで見ていた。
私はこの国に半分絶望しながらも、ふと何かを感じてもう一度扉の方を見た。そこには……。
「ノーマン公爵様……」
彼も、私を見ていた……、気がする。自意識過剰かしら?
ノーマン公爵は扉の前に立ち、広間の中の王と皆の様子を窺っているようだった。
扉までは結構な距離があるのに、私には彼としっかり目が合ったように思えた。そして、彼は頷いた。
それは、もしかして――。
「…王妃よ。…もう、やめよ。私は、最初から全てを見ていたのだ。ルーカスが起こした愚かな婚約破棄のやりとりから……全てを」
王が、ゆっくりとそれでいてよく響く声で王妃に告げた。
王妃が驚いた表情をする。
「何を、仰いますの……陛下! ルーカスは貴族達から無礼な仕打ちに合わされ、私は冤罪をかけられておりますのよ!」
王妃は捲し立てたが、王は静かに首を振った。
「王妃よ。お前は何も分かっておらぬ。…いや、私も見失っておった。先代国王夫妻に何度も言われていたにも関わらず……。大事な事を、完全に見失ってしまっていたのだ……」
王妃は王に何を言われているのか、理解できていないように見えた。…そして、王は徐ろに衛兵に片手を挙げる。
「衛兵よ。…王妃と、第2王子ルーカス以下5名を捕らえよ」
王妃と第2王子達は目を見開く。
「陛下! いったいどういうおつもりですか⁉︎ 不敬を働かれた我ら王族を捕らえるなどと……! 」
「ち、父上!! なぜでございますか⁉︎ 私は、私は何も悪い事はしていない!! 私は高貴な王族、王子ですよ⁉︎ 貴方の、王の息子なのですよ! ち、父上ぇーッ!!」
「陛下! 我ら高貴な王子に誠心誠意お仕えしていただけですのに! どうしてなのですか!」
「ちょっと……! どうして⁉︎ ルーカス様は王子様なのに……! 私は、ヒロインなのよ……っ! いや! 触らないでよ!」
マリー嬢は頼りの第2王子が捕まり、自分も捕われると知ると慌てて暴れていた。しかし衛兵の力に敵うはずがない。
…そして、マリー嬢は今自分を『ヒロイン』と言ったわよね⁉︎ 彼女も『前世持ち』だったという事……なのね。
叫ぶ王妃と第2王子と側近3名、そしてマリー嬢は衛兵に取り押さえられた。
レナルド様も一瞬身を硬くして捕縛を覚悟したようだったけれど、今回の王子の件で彼は何も彼らに加担していない。
…むしろ、ラウラ様が亡くなってからソドムス侯爵家は孤軍奮闘して来たのだ。ラウラ様を毒殺した犯人を捕らえる為に、お2人は全てをかけて来られたのだろう。
…私に、忠告をしてくださったレナルド様。『何かをおこしてくれるか期待しているのかも』と仰っていたのは、貴方の本当のお気持ちだったのですね……。自分達だけの戦いは、さぞ孤独でお辛い日々だった事でしょう。
「あなたっ! …陛下!! 私は冤罪でしてよ! 証拠などあるはずがない! あの侯爵家の養子も出していないでしょう⁉︎ 」
王妃は衛兵に取り押さえられながらも往生際悪く叫ぶ。
そこに、後ろに控えていたノーマン公爵が出て来られた。そして、後ろの青年から書類を受け取る。
「…証拠ならありますよ。王妃殿下。…これが、貴女がソドムス侯爵家のラウラ嬢に渡したという『滋養の薬』、その入手の際の書類です」
ノーマン公爵はその書類を王に渡した。
王はその書類に目を通し……、そして大きく息を吐いて言った。
「これには、王妃が薬を手に入れた経緯とその際の相手方とのやり取りとそなたの直筆のサイン、そして侯爵家に使者として行った者の証言等もある。…言い逃れは出来ない」
王妃は驚愕して目を見開いた。
「そんなっ……! そんなはずはありませんわ! そもそもそれを、どうしてノーマン公爵が持っているのです⁉︎ …そうだわ、これはっ……、陰謀ですわっ! ノーマン公爵が王妃である私を陥れようと、周りの貴族と画策した陰謀に違いありませんわっ!」
髪を振り乱し叫ぶ王妃だったが、入口から次々に大臣クラスの貴族達、そして長男エドワルド王太子が入って来たのを見て、更に驚いた様子を見せた。
学生達も国の重鎮達が現れた事に驚いている。
そして、その内の1人の男性が前に進み出た。
「…私が、ノーマン公爵にお預けしたのです。王妃殿下」
「ソドムス侯爵……ッ! お前、我らを裏切ったか……!」
進み出たソドムス侯爵に王妃が悔しそうに言った。
あの方が……、ソドムス侯爵……。
ソドムス侯爵は、40歳位の渋い男性だったけど、ご苦労されたせいか若干頬がこけ、窪んだ目だけが鋭く王妃を見つめていた。
「私はラウラが死んだあの時から、この為だけに生きて来たのです。
裏切ったというのは、第2王子と我が娘を婚約させておきながら、公爵家の方が良いと欲を出し、我が娘を毒殺したあなた様の事でしょう」
ソドムス侯爵は淡々と仰った。…それが余計に侯爵の静かな怒りを感じさせた。
私は震えが止まらなかった。…怒りと、悲しみに。
どうして、ラウラ様は殺されなければならなかったのか、と――。
そして、結局今回も王妃と第2王子は自分達の欲を叶える為に、犠牲を出そうとしていたのだ――。
「ソドムス侯爵とレナルド殿は、ラウラ嬢の為に心を押し殺し、王妃やルーカスに仕えていたのですよ。確かな証拠を見つける為に、犯人と思しき者に仕えていたのです。さぞや悔しい日々だったでしょう。
…そして、我ら周りの者は最初あの悪い噂を信じ、侯爵家は立身出世の為に第2王子の側近になったと思っていた」
ノーマン公爵はそう言ってから、私を見て言った。
「…ですが、レナルド殿の様子が他の側近達と違う、と報告してくれる者がいたのです。それを聞いて私はソドムス侯爵と接触を持った。…彼は誰にも相談出来ず悩んでいたのです」
そこでソドムス侯爵も頷いて返す。
「息子レナルドと私だけの孤独な戦いに、ノーマン公爵閣下が協力を申し出てくださったのです。…そして悪評のたつ私を信じてくださった……。
いくら感謝をしてもしきれません……。
そして私達は今度こそ、王妃イザベラ、貴女を告発いたします!! 大事な1人娘ラウラを殺したお前を……決して許さない!!」
最後の、ソドムス侯爵の心からの叫びは、私達の心に深く響いたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
やっと、ノーマン公爵が来てくれました…!




