57 エドワルド王太子
第2王子ルーカスの兄、エドワルド王太子視点です。
物心ついた頃から一緒にいるのは、アルフレッド兄様、おばあさま、時々、お父様とお祖父様。
「エドワルド! まだまだ甘いぞ!」
「兄様、アルフレッド兄様! ちょ、ちょっと待ってください! そんな、こんな狭い場所で、そんなのズルいですっ!」
「何を言う! 敵はどこから現れるか分からないぞ!」
今日もアルフレッド兄様に剣の稽古をつけていただく。兄様は剣だけでなく、勉強もお出来になるし身のこなしも王族として申し分ないって皆言ってる! 僕も、いつか兄様みたいになるんだ!
アルフレッド兄様が12歳。僕エドワルドは6歳。
…実は僕らは兄弟じゃない。…らしい。アルフレッド兄様は、僕のお父様の、弟なんだって。これって、僕から見たら兄様は叔父っていうのにあたるらしいんだ。
そして、お父様やお祖父様が居ない時、皆から聞かされるのは『次の王様』の事。それは、僕のお父様がなる事になっているらしいんだけど、本当は周りの人達は優秀なアルフレッド兄様に跡を継いで欲しいと思っているらしい。
僕も、そう思うよ! だって兄様は強いし賢いし、優しいもの!
「だいぶ踏み込みが良くなった。凄いぞ、エドワルド」
兄様はそう言って笑顔で頭を撫でてくれる。
稽古でヘトヘトになっても、また頑張ろうって思えるんだ!
僕は、母とは殆ど会ったことが無い。
僕の教育の為に離れて暮らさなければならないらしい。たまに、通りかかるのを見るだけだ。
…実はもっと小さな頃、母に会いに行った事がある。乳兄弟の家族の話を聞いて、母というものに会いたくなったんだ。きっと、笑顔で優しく『会いたかったわ』と言ってくれる! そう思ったんだ。
初めて会った母は、…冷たい怖い人だった。眉を顰め、『王子妃に会いに来るのに礼儀がなっていない』と追い出された。
後で聞いたら母は『謹慎中』だとの事だった。そしてその母の影響を受けないようにと、僕は離れて育てられているそうだった。…僕は、母を忘れようと思った。僕にはアルフレッド兄様やおばあさま、守ってくれる臣下の皆んながいてくれる!
僕が8歳になった頃、祖母が亡くなった。祖母は祖父や父に、母に絶対に権力を与えてはいけない、と言い残したそうだ。
祖父と父はその祖母との約束は守ったが、権力争いの火種となりそうなアルフレッド兄様への扱いはそれから急に変わっていった。
アルフレッド兄様が権力を望まなくても、祖父や父の言う通りに学園と軍の掛け持ちで大変な思いをされようとも、それは変わらなかった。
変わらざるを得なくなったのは、隣国から急襲を受けて始まったあの戦争から。
父や祖父は、本当はあの戦争に兄様を送り込み始末しようとしていたんだと思う。兄様のご活躍がなければこの国は戦争に負け、王位争いなどと言っていられなくなっていたのに。本当に愚かな考えだと思う。
そして戦争は兄様のご活躍のお陰で劇的な勝利を収め、祖父と父は兄様に酷い扱いは出来なくなった。
僕は嬉しかった。兄様こそが、この国の『真の王』。兄様が次代の王となるべきだと考えていたからだ。
それでも、アルフレッド兄様は王位を望む事はなく、父を王とし臣下として支え続けてくれた。
僕は王太子となったけれど、兄様を王にと思う気持ちは他の臣下達と同じだった。
そして、僕の婚約の話となった時。この国の3大公爵の1つで僕を幼い頃から兄様と一緒に見守ってくれた、フォートナム公爵より話をされた。
「エドワルド王子。貴方様はアルフレッド様と共にお育ちになり、我らはこの国の良き事も悪しき事も全て貴方様にお伝えしてまいりました。そしてお気付きだとは思いますが、貴方のお母上、王妃様の事。…あのお方はこの国を滅亡に落とし込む程の、もしかしたらシュバリエ公爵家に嫁いだ『元王女』よりも、更に厄介な存在です。もしも皇太后様、貴方様のおばあさまが彼女の権力を奪っておかなければもっと酷い事になっていたでありましょう。
…その位に、国の国母ともなる『王妃』選びというのは重要な事です。愚かな者を選べば、国が滅びます」
僕は、頷いた。今までに、母のしでかした色んな話を聞いたし、そして実際に見てきた。
有力な妃候補に断られ、それが露見しない内にと急遽選んだ妃。それがピシュナー侯爵家令嬢であった母、イザベラだった。その余りの愚かさに、王家はよく調べもせずに選んだ事を後悔する事となった。おばあさまは、長男である私を母から離し育ててくれたが……。次男ルーカスは産まれた頃におばあさまは体調を崩しその後亡くなられた事もあり、母の元で育てられる事となった。
離れて暮らしたまにしか会えない歳の離れた弟は、全く弟という感覚がなかった。まだ幼く出来ない事があるのは仕方ない。だが、王族としてのプライドだけが異常に高い事が気にかかった。注意するのだが、全く聞く耳を持たない。耳あたりの良い言葉だけを聞き、嫌な事は全く聞かないのだ。
母には会えず、僕や周囲の者たちは父に何度も進言するのだが、『まだ幼いのだから大目に見てやれ』の一言で終わりだった。幼い内に教える事が肝心なのに!
そんな事もあり、私もフォートナム公爵の言う慎重な妃選びには賛成だった。そして、幼い頃からのアルフレッド兄様に心酔している公爵は言った。
「この先、何があるやら分かりません。アルフレッド様が王位におつきになられる可能性も、まだあるのです。その時、エドワルド様が速やかに席を譲っていただける、とお約束していただけるのなら、我が娘を殿下に嫁がせましょう」
フォートナム公爵家令嬢ルイーゼ。僕より1歳年下の幼馴染。…そして、僕の初恋の女性。
僕はアルフレッド兄様が王位を継ぐのは大賛成だし、その条件でルイーゼと結婚させてくれるのなら全く問題はなかった。
「その条件で、お願いします。ルイーゼを僕の婚約者にしてください」
そう、一も二もなく答えた。
…かくして、私は妻ルイーゼと2人の子も授かり幸せに暮らしているのだが……。
母と弟ルーカス、そして父も、…問題は山積したままだ。
そして、今日は王立学園の卒業パーティーの日。いよいよルーカスも学園を卒業する歳だ。王族である事を鼻にかけ傲慢に振る舞い、婚約者を蔑ろにしていると専らの評判の弟。このままルーカスを公爵家に婿入させてよいものか、兄としても非常に迷っている。
パーティーが始まって少ししてから王族は入場し、王より祝いの言葉をいただくことになっている。
私はやはり弟が気になり、いつもの年よりも早くにパーティー会場に到着してしまった。時間はまだある為、何気なく会場を見渡せるベランダまて歩いて行き、覗いてみる。
? まだパーティーは始まっていないはずなのに、何やら騒ぎが起こっているようだ。耳を澄ます。
…それは、兄としても王族としても、いや一般の貴族であっても耳を塞ぎたくなるような、愚かなふるまいをする弟の姿だった。
私は初め愕然とした。だが、彼を止めよう諌めようと、入口に向かおうとした。すると母が、王妃が広間に入ってきたのだ。
あぁ、良かった。母上、愚かな息子を止めて叱ってやってください!
私がほっとしたのも束の間――。
母上は更に愚かな事を言い出したのだ! そしてそれを『王命』と虚言まで吐いたのだった。
私はこの時、本当に母に絶望したのだった――。
お読みいただきありがとうございます。
第2王子は兄エドワルド王太子とは離れて暮らしていました。周りの色んな人と関わらせてもらえず、身分至上主義の母の影響だけ受けてしまいました…。




