56 告発
「お前達、何をしているのだ!」
ここ王宮の広間にいる者達は、『ああ、やっと王子に物申せる人が来てくれた』と、皆そう思った。
王妃イザベラ。彼女がパーティーで微笑み佇むところしか知らない若い世代の学生の貴族達も、ある程度王妃の悪評を聞いている者達や、王妃の事を知っているエスコート役でやってきた貴族達、衛兵や従者や女官達でさえも、王妃が息子である第2王子を諌めに来てくれた、と一様に安心した。
「衛兵ッ! 何故、無礼者達を捕らえない⁉︎ 王子が捕らえよと申しておるのだぞ? 何をボーッとしておる! 早く捕らえぬか!!」
えっっ……?
きっと、ここにいる皆が耳を疑った。
「カタリーナ。お前にもがっかりしたぞ? まさか王子に向かってあのような無礼な物言いをするとは!! 公爵家如きが王家になんと無礼な事よ……!」
何を……、言っているの……⁉︎
「お前達シュバリエ公爵家は王族であるルーカスが婿に行ってやるというのに、有り難みを全く分かっていない愚かな一族だ!! ルーカスの言う通り、お前は『国外追放』だ! シュバリエ公爵も同罪である!!」
この女性は、いったい何を言っているの……⁉︎
「シュバリエ公爵家は取り潰しとする!! そして、新たにルーカスを公爵としてたたせる事とする!
これは、王命と考えよ!!」
何ですって!?
王妃イザベラは、第2王子の更に上をいく高慢さで宣言した。
そして、その後ろでは第2王子達が笑いながら胸を張って立っている。
パーティー会場である、王宮の広間は静まり返った。
王子と王妃の傲慢さに。
そして、こんなことが罷り通るのなら……。
この国に未来はない。
この国の王族に価値はない。自分達が忠誠を誓うべきはこの愚かな王族達では、決してない。
私は、怒りと余りの不条理さに打ち震えていた。
そして、きっとそれはこの広間にいる人々全てがそうだったろう。
広間中の人々が、王家に対して不信と不満を募らせた。
王妃は更に言い放つ。
「そして、お前! ソドムス侯爵家レナルドよ! お前は先程から何故ルーカスを守らない? 側近でありながら何故ずっと黙ったまま、木偶の坊の如く立ち尽くしておるのだ! そんなだから、ソドムス侯爵家はダメなのだ! このような家にルーカスが婿に入る予定だったなど、ゾッとするわ!
ルーカスを守って、はっきりと言ってやるがいい!!」
「発言を、…許していただけるのですか?」
レナルド様が、初めて言葉を発した。
「あぁ、さっさと言うがよい!!」
レナルド様はスッと一歩前へ出て最初に目を閉じ、そして開かれたその青い瞳は、何かを決意した強い光が宿っていた。
「それでは僭越ながら申し上げます。
私は、ソドムス侯爵家令嬢ラウラを毒殺した罪で、イザベラ王妃殿下、貴女様を告発いたします」
どよっ!!
今日、1番に王宮が揺れたかもしれない。
3年前に『流行病』で亡くなったはずのソドムス侯爵家令嬢のラウラ様。第2王子の婚約者であった彼女が、王妃様に毒殺された⁉︎
…3年前というと確か流行病の特効薬が発見された頃ではあった。それからは流行病に罹患はするけれど、死亡率は下がってくる様になったのだわ。
勿論、特効薬も完全ではないから亡くなる方はいたし、生産的にも民の隅々まで行き渡るのには時間がかかった。けれど、王子の婚約者であった侯爵家の令嬢にその特効薬が届いていないはずはない。
「なっ……! 何を言い出すかと思えば……っ! 愚かな侯爵家は養子まで愚かだなっ! 私が、何故そのような事をするのだ⁉︎ あやつはルーカスを残して死んだ薄情者ぞ!」
皆、一様に息を呑む。『流行病』で亡くなった人に薄情者、ですって⁉︎
「『薄情者』で、ございますか……。それでは、流行病にかかった婚約者に、王子というお立場からうつる可能性もあり会えないのは仕方がないとしても、見舞いの手紙ひとつお送りいただけなかったのは、『薄情者』ではないのでしょうか?」
ザワッ……。
病にかかった婚約者に、お見舞いの手紙ひとつも送っていなかったの……⁉︎ ラウラ様はさぞ、お心細かった事でしょう……。
「何を申すか!! 侯爵令嬢如きが! 王子の見舞いを待つなど厚かましいにも程があるわ!
…この私を犯罪者呼ばわりしおって! 私は何もしていない! 衛兵!! 此奴も捕らえるのだ!」
やましい事があるから、話をさっさと終わらせレナルド様を捕らえ黙らせようとしているとしか思えなかった。
「…証拠はございます」
「はッ……⁉︎ 証拠……、証拠だと! そんなもの、あるはずがない! 早う、早う此奴を、捕らえよー!!」
この時、広間にいる皆は王妃を疑惑の目で見ていた。
…当然、衛兵は動かない。
「…私が何故、第2王子の側近となったとお思いですか。何故一人娘のラウラ様を亡くし嘆き悲しむソドムス侯爵が、悪評を立てられながらも耐え、貴女方に仕えていたとお思いですか。…全ては、ラウラ様の毒殺の証拠を掴む為。貴女様を、告発する為でございます」
騒めく王宮の大広間。
人々は口々に当時の事を思い出しては話し出す。3年前は学生達も14、5歳。大人達の口から色んな話も聞いていただろう。
「あの流行病の時、第2王子が街で遊び回るのを見た事がある……! 婚約者がご病気なのにと思っていたんだ!」
「ソドムス侯爵令嬢が亡くなった後、第2王子が悲しむからと緘口令がしかれたんだ。あれは、自分達に不利な情報が流れたら困るからだったんだ!」
「まさか、侯爵よりも上の公爵に婿に行かせる為か……!」
「そしてそれも、今回冤罪をかけて婚約破棄されている。欲が出て『公爵位』だけが欲しくなったか!」
王妃が必死に金切声で叫ぶ。
「やめろ、やめろ!! お前達、黙らんかーっ!! お前達、全員不敬罪だ!
…よくも、ソドムスの……!!
証拠……、そうだ、証拠を出せ!! そんな物はないんだろう⁉︎ お前はこの王妃である私を陥れようと、そのような嘘をついているのだ!!」
王妃に血走った目で見られても、レナルド様は冷静だった。
「…ございますよ。あの日、ラウラ様の容体が急変したあの日、王妃様の使いで来たあの使者を疑い必死で調べました……。あの使者は、病で弱った身体の滋養にと言って薬を持ってきました。その薬を飲んだその日の夜から容体が急変し、ラウラは儚くなりました。
侯爵と私はその時、何があっても真相を暴くと誓ったのです。
あなた方の信頼を得て、調べられる全てを調べ、あらゆる伝手を使い……。
そして、貴女があの薬を入手した方法と、その時の覚書も手に入れてございます」
どよめき続ける広間。
そして王妃は叫ぶ。
「そ、そのような……! そんな紙如きで私を裁けると思うてか! そんな物は証拠にはならぬ! 私は王妃ぞ!!
高貴な王妃……」
「もう、やめるのだ!」
そこに、一つの声が響き渡った。
お読みいただき、ありがとうございます!
王妃イザベラ暴走中です。
衛兵の方々は無茶振りされて非常に困っています…。




