42 子爵令嬢マリー
「しっかり勉強するのだよ。…学園には高位の貴族の方々がたくさんいらっしゃる。くれぐれも失礼のないように」
馬車の扉越しに子爵である父が心配そうに言う。
私は微笑んだ。
「勿論ですわ、お父様」
父は頷くと御者に合図を出し、馬車は走っていった――。
私はジョーンズ子爵令嬢、マリー。
幼い頃はお母さんと平民として街で2人で暮らしていた。それが、約1年前私の実の父だという人が現れた。
母は若い頃ジョーンズ子爵嫡男と恋仲になったが、身分違いで泣く泣く別れた後に産まれたのが私マリー、という事だった。
ジョーンズ子爵はそれから爵位を継ぎ結婚もしたが、妻が亡くなり私の母を探してくれていたそうだ。
私は、貴族だったのだ!
それからは貴族として家庭教師をつけられ、厳しい教育に嫌になる事もあったが、なんとか及第点をもらい、この度王族も通うという『オブシディアン王立学園』に通える事になったのだ。年齢的に3年からの編入ということになるらしいけれど……。
そんな私が『前世』を思い出したのは昨夜の事。私は日本という国の高校生だった。色々詳しくは覚えていないけど、車の事故で死んだのだと思う。ブレーキ音がやけに耳に残っている。
私が前世の事でちゃんと覚えていた事、それは学校でも流行って私もすっかりハマってしていた乙女ゲームだ。
そして、私の勘違いでないのなら……。
「…やっぱり、登場人物は全員揃ってるわ……!」
次の日、学園に初めて登校して、私は確信した。
ここが、その乙女ゲーム『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』の世界、なのだ!
危なかったわ、思い出すのが少しでも遅かったらオープニングのイベントをちゃんと味わえない所だったわ。
そう、ここはゲームの世界。
そして、主人公は私。私、子爵令嬢マリー ジョーンズよ!
今日からゲームが、学園生活が始まる。さあ、誰を攻略していこうかしら……?
~~~~~
あれから、一月たった。
おかしい。
ゲームの通り話が進んでいない気がする。
きちんと発生しないイベントがあったりするのだ。
ゲームのバグ? それとも、現実はゲームみたいにテンポ良く進まないのかしら?
まあ、いいわ。
編入してすぐに王子や高位の貴族達に取り囲まれてチヤホヤされるなんてありえないものね。
徐々に、確実に攻略していくのよ。
それが、ゲームの醍醐味じゃない?
そして主人公である私は相当な美少女で、黙っていても男の子達が声をかけてくる。
ちょっと位は遊んであげるけど、本命は王子だから悪く思わないでよね。
そして、ちょっと遊んであげただけの相手の婚約者だとか名乗る令嬢が文句を付けてくる。面倒くさいわね。のし付けて返すわよ。大体あっちから声をかけてきたのよ? 自分に魅力が無いのが悪いんじゃない?
そんな事が何回かあった後、ある日何人かの令嬢達に囲まれて文句を言われていた。――その時。
「大勢で寄ってたかって、何をしてるんだ?」
そう、この国の第2王子ルーカス様との出会いイベントだ。
ここは、正念場よ!
「第2王子殿下! …コレは、実はこの者が婚約者のいる男性に……」
「私が悪いんです! 私がまだ転入したてで知り合いも居なくて……そこで親切に話しかけてくれた方が、婚約者のいる方で……。私、知らなくって……!」
ちゃんと涙も見せたわよ?
「貴女、何言ってるの⁉︎ 自分が魅力が無いのが悪いとか言ってたじゃない!」
「やめないか! 大人数で1人に! なんて卑怯なんだ……! 転入し立てで知り合いが居ない彼女の力になってあげようとは思わないのか!」
ルーカス王子は令嬢達を睨みつけた。そして涙ぐむ私を見て、
「可哀想に。まだ校内に慣れないのなら私が学園内を案内してあげよう。ついて来るがいい」
「はい……! ありがとうございます……! 王子様……!」
私は瞳を潤ませて彼を見つめ、ついていく。
令嬢達が冷たい視線を向けてくるけど気にしない。
さあこのまま、第2王子ルーカス様を攻略して行くわよ!
~~~~~
…おかしい。何か、おかしいわ。
あれから約9ヶ月。攻略対象者であるルーカス様は順調に攻略出来ている。それどころか、残りの4人の高位貴族の攻略対象者達も私にメロメロだ。これだけをみていると『ハーレムルート』に入ったのかと思う程よ?
おかしいのは……、悪役令嬢カタリーナの動き。
あの女、私に何もして来ないのよ⁉︎
わざと目の前でルーカス様といちゃついてやっても、全くのスルーなの!! なんなの? あり得ない!!
陰で何かしてくるのかしらと思ったけど何もない。
だからわざわざあの女の所へ行って、『いつもルーカス様にとても良くして頂いてますの。ルーカス様は婚約者の貴女をなんとも思ってないからって……』とか言ってけしかけてやったのに、スルー。
そして2人で居たら、すぐさま彼女付きの侍女か友人? が飛んで来て庇われて連れて行かれたわ。
違うわよ! いじめられるのは私なのよ⁉︎
仕方がないから、自分でする事にしたわ。
自分でコトを起こして、『カタリーナ様にやられた』ってルーカス様に泣きつくの。きっと、可哀想にって慰めてくれて、益々好感度が上がるわ!
さあ、ゲーム最大のイベント、『卒業パーティーでの断罪イベント』に向けて、張り切っていくわよ!!
――この時の私はどうして、人を傷付ける事を何とも思わなかったのだろう? ゲーム通りの展開にする事に固執していたのだろう? 『自作自演』までして、悲劇のヒロインになり、相手を蹴落とす、なんて事までして……。
そう、どうしてこの時この世界の優しい母や、私達を探して引き取ってくれ最後まで心配してくれていた父の事を思わなかったのだろう?
そしてゲームでなく、どうして自分の人生をきちんと生きようとしなかったのだろう……?
この時の私は、全く分かっていなかったのだ。
――そして『その時』は始まってしまった――
お読みいただき、ありがとうございます。
今回はゲームのヒロイン、マリーのお話でした。マリーは『前世』を思い出してしまった事で、ゲームの展開通りにする事にこだわってしまいました。
この世界の両親はいい人達だった様です。




