35 幼馴染の令嬢
『俺の幼馴染のエルマまで悪く言い出して……』
滅多に感情を露わになどされないマティアス様がお怒りになり、弟ダニエル様とケンカまでした『2年半前』の件。
うん、多分コレで確定ね。
ダニエル様は、片想い中のギブソン子爵令嬢エルマ嬢に、兄マティアス様とカタリーナ様との婚約の事を話したのだわ。
令嬢の父ギブソン子爵は、王宮に勤める官僚らしい。
詳しくは分からないけれど、そこから王家の深部に関わる人に繋がっているのかも……?
そうだと仮定して、幼馴染のエルマ嬢はダニエル様から話を聞いてすぐに父親に話し父親もすぐに王宮に伝えたって事よね。偶然に世間話してたのが伝わって、って速度じゃないわよね……。ギブソン子爵一家はマティアス様とカタリーナ様の婚約を壊したかった?
どうしてなんだろう? 一家は2人の婚約に反対だった? まあ、全く関係のない子爵一家が反対というのもおかしな話だけど、子爵一家にとっては都合の悪い事だったのね?
そして思い出す。『カタリーナ様と王子の婚約が決まってから迫ってこられた女性はいらしたのですか?』
そう聞いた私に、マティアス様は自分にこの話を預けてくれと言われたのよね。
という事は! エルマ嬢は、その後マティアス様に迫ったって事⁉︎ まさかの、マティアス様狙いだったの⁉︎
カタリーナ様との婚約がダメになれば自分にチャンスがくると考えられたのかしら?
そして思い返すと、同じ学園に通うエルマ嬢。私とは全く接点がなかったのに、マティアス様との婚約が決まってから嫌がらせや睨んできたりする方々の中にいらしたわね。ご兄弟の恋人? なのにおかしな方ね、と思ったのを覚えてるわ。
確かにマティアス様は王子様的優しげなイケメンで、しかも侯爵家嫡男、肉食系女子にはたまらない物件なんだろうけど……。
ダニエル様に(多分)プロポーズされてる時点で、その兄にアタックするのは……。
そうだとしたら、ダニエル様が不憫すぎる……。
「…はい、手当てが出来ましたよ。キツくないですか?」
ダニエル様のご友人に声を掛けると、ほんのりと頬を染められ頷かれた。あら、私も捨てたものじゃないのね。
「ありがとう、リリアンヌ。…なぁ、兄上にさっきの話は内緒にしておいて欲しいな」
そう、ちょっと困った子犬のような顔をして言われるダニエル様。
本当に可愛らしい方だし、良い方なのに……。
「はい。分かりました。大丈夫ですよ、ダニエル様。喧嘩する程仲が良い、と申しますもの。お二人共、本当にとても良いご兄弟ですわ」
私が安心されるよう微笑んで言うと、少しホッとしたようにダニエル様も微笑まれたのだった。
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その日の学園の帰り――。
私はまたしても、カタリーナ様のシュバリエ公爵邸にお邪魔していた。
そう、今日のレナルド様のお話がしたくて……。
「いよいよ、来週末が卒業パーティーですわね……。私、やはり心配で……。今週も王宮に王子妃教育に参りましたが、王妃様がお越しになり結婚式の話などされますのよ? 息子であるルーカス様は一切来られないと言うのに……」
王妃様ね……。
どうもマーガレット様の話を聞いてから、どうしてもイメージが悪くなっちゃったのよね……。
ダメダメ、先入観は。
その人の人となりは、やっぱりきちんと自分の目で見て対応してからでないと、本当のところはわからないものね!
とはいっても、私の立場で王妃様とお会いできる訳ではないから、今は人から聞く情報でしか判断は出来ないけどね。
「あれから、第2王子様から接触はあったのですか?」
確か、1ヶ月程前の王妃様主催のお茶会で第2王子と会われたと言ってらしたわよね。そして学園では毎日会えるはずなのに、一切関わりはない……と。
「いいえ、全く無いですわ。
マリー嬢の教科書が私に破かれたと責めて来られて以来は無いですわね。あれから、王家よりの付添も増えたので、あちらも言いにくる隙がないのかもしれませんわ」
普段婚約者に会いにも来ないのに、来たと思ったら別の女性の言いがかりの援護で来るのか……。
「本当に、困ったお方ですわね……。あの……、卒業パーティーのドレスの事はどうされますの?」
そう。普通なら婚約者である第2王子から贈られるはずの、卒業パーティー用のドレス。
第2王子がマリー嬢に作られている、というのはご存知なのかしら……?
「貴女も聞いてらっしゃるのね? ルーカス様がマリー様にドレスを作られているというお話を。
王妃様もご存知のはずですわよね……。それを放置して私に結婚式の話を振って来られる神経が分かりませんわ……」
おっと! 私がそれを知っているというのはバレちゃってるのですね。
そして、こうしてお話していくうちに、カタリーナ様も結構ズバッと言われるようになってこられましたわね……!
「そういえば……第2王子が作られるドレスは、ご本人の個人資産から出されますの? 『王子の婚約者』宛のドレスなら国家予算から出るかもしれませんけど、恋人宛のドレスなんて予算出ませんわよね?」
王国の国家予算とかどういう仕組みかよくわからないけど、私の前世の会社では経費落とすのも大変だったのよね……。個人の遊興費なんて出したらクビになるわよ? もしくは横領罪かしら?
「そういえば、そうですわよね……。恐らく、お小遣い的な予算はお持ちだと思いますけれど、あの方普段から結構派手にお金を使ってらっしゃいますわよね……。
ドレスや宝石って、結構な金額になりますわよね?」
2人で顔を見合わす。
コレは……。と思いつつ、少し沈黙が流れる。
うん、コレはマティアス様に早急にお調べいただく案件かもしれないわね。
「話は変わりますが、カタリーナ様。今日私ソドムス侯爵家のレナルド様とお話する機会がありましたの。今日はそのお話がしたくて参ったのです」
「!! 何か、されたんですの⁉︎」
驚き、私を上から下まで心配そうに見られるカタリーナ様。うん、やっぱりあの方達の印象ってそうなのよね……。
「ご心配おかけして申し訳ございません。…ですが、レナルド様は、多分ですが悪いお方ではありませんわ。
カタリーナ様は、ソドムス侯爵家の事をどの程度ご存知でいらっしゃいますか?」
固い表情のカタリーナ様。あの方々に色んな嫌な目に合わされてきましたものね……。
「ソドムス侯爵家は……、ルーカス様の元婚約者のお家でいらっしゃいますわよね? 流行病でお亡くなりになって本当にお気の毒な事でした。
ですが! その後養子になられたレナルド様が私を敵視するのは筋違いだと思いますの!」
少し涙目で主張されるカタリーナ様。…その通りだと思います。そして、最近カタリーナ様は私に感情を素直に表してくださる。心を許してくださっていると感じるわ。
20代後半だった私から見て、18歳の心を許して感情を出されるカタリーナ様は、すごく可愛く感じる。
守ってあげたいって、そう思う。
「本当に、そう思いますわ。
…けれどレナルド様はこうもおっしゃいましたの。『ソドムス侯爵家と聞いて思い出すのはラウラの事だけですか』と……。どういう事か、お分かりになられますか?」
カタリーナ様は、キョトンとされる。
あ、コレはご存知ないわね。
うーん、一度マーガレット様にお尋ねしてみようかしら……。
「それは、私がお答えしよう」
扉が開き、この屋敷の主人が入って来られた。
お読みいただきありがとうございます!
カタリーナ嬢とリリアンヌは、作戦を立てたりお互いの今の状況を話したりしている内に、随分仲良くなったようです。
リリアンヌは元20代後半だったので、カタリーナ嬢とダニエルを可愛く微笑ましく思うようになりました。




