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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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33 副官フィリップ

 私はフィリップ ウォード伯爵。

 三男で跡継ぎでなかった私は14年前戦争におもむき、当時は第2王子であったアルフレッド オブシディアン殿下と共に戦った。


 第2王子であるアルフレッド様の事を、初め私は『跡継ぎでない者』『捨て置かれた者』という感覚で見ていた。自分と同じで跡継ぎでない、スペア。

 学園にほぼ通わず軍で鍛錬たんれんを積むアルフレッド様に、当時の私は『王位を継げないとあぁまでしなければならないものか』と冷めた目で見ていたものだ。


 それが、戦争が始まりアルフレッド様は凄まじい活躍を見せた。私も弱冠15歳の少年兵ながら結構動ける方だったらしくお供させていただいたが、戦神もかくやというご活躍に、ただ付いていくのが精一杯。

 そんな時重傷を負った私達数名を、見捨てず連れ帰ってくださる、強さと優しさをあわせ持つお方だった。


 アルフレッド様と生死を共にした者は迷わず第2王子派となり、彼を支え生きていたいと思ったのだった。


 そんな厳しい戦争が終わり、王都に還ってそこにあったのは民衆と貴族の大歓声と、…王家の人間の冷たさ、だった。

 あれ程の偉業いぎょうを成し遂げたアルフレッド様に、王家の対応は冷めた淡々としたものだった。


 そう、王家は兄王子と王位争いになるのを恐れていた。アルフレッド様を恐れ冷遇しようとしたのだ。


 元より王家は元王女とシュバリエ公爵家の件、そして第1王子の王子妃の件で権威けんい失墜しっついしている。

 これを機にアルフレッド様を王につければ、信頼と権威を取り戻す事も出来るというのに…。


 だが、それをしない、出来ないのが、今の王家だ。

 権威は落ち続けるしかない。


 貴族の、民の総意は、国の英雄であるアルフレッド様が王になる事だ。

 アルフレッド様さえその気になってくだされば、貴族達は今の王など追い落とし、彼を王位につけた事だろう。


 …それなのに。それなのに!


 肝心のアルフレッド様が、『王にはならない』と仰ったのだ! そして、新しい時代の王に兄を、とまで仰ったのだ!



 あの時の私の、私達の失望は本当に計り知れない……!

 今もあの時を思い出すと歯痒はがゆい思いが止まらない!


 

 そうして、新しい兄王の時代が始まった。

 アルフレッド様は、戦争で主人も一族も亡くなったノーマン辺境伯よりお名前をいただき、『アルフレッド ノーマン公爵』におなりになった。


 そして私も兄達が戦争や病気で亡くなり、ウォード伯爵となった。


 新しい時代は、ノーマン公爵が兄王を隣で支える形となっている為、滑り出しはまあまあだった。


 王や王妃が何かやらかしそうになっても、すかさずノーマン公爵が正す為、全てではないが国は良い方に向かっていったように思う。

 兄王の息子の第1王子はノーマン公爵に憧れ目標にする頑張り屋であるのだが、第2王子は母である王妃の後ろに隠れてばかりいるのが気にかかるが……。



 そして、この国の英雄であり公爵で王弟、そして何よりきたえ抜かれた身体の美丈夫とくれば、アルフレッド様が女性にモテないはずはなかった。


 貴族は競って縁談を持ち込むし、令嬢達は彼に夢中になった。

 だが本人は我関せずといった風であったので、我らが縁談を断って回るのに非常に苦労した。

 女性達の押しの強さにも彼はどこ吹く風で、だんだん周囲も心配になったものだ。

 絶世の美女でもどんなに素晴らしいといわれる才色兼備の令嬢も、全く相手になさらない。我らも心配はしながらも、だんだん余り強くは勧められなくなってきた。


 そんなアルフレッド様ももう31歳――。


 彼のお気に入りのワーグナー侯爵家嫡男マティアス殿が婚約した。その経緯にはまた兄王達の愚かな行動があったものの、新たな婚約者もなかなか良さそうな令嬢だった。


「今日は、マティアスの婚約者を紹介されたのだ。流行病の時の小さな英雄の話を覚えているかい? その本人だったよ。礼儀正しく、可憐な令嬢であった」


 珍しく、少し関心がありそうな気はしたが、まあお気に入りのマティアス殿の婚約者だからだろう。

 この時は、そう思った。


 それから3ヶ月程して、ノーマン公爵邸に彼らを呼び出したという。その時のマティアス殿を見かけたが、何やら悩んだ様子だった。何があったのか?


 そして、呼び出し後、アルフレッド様はご機嫌だった。

 そんなに良い事があったのか? と思っていたら、2ヶ月後行われる王立学園での卒業パーティーで第2王子がやらかすであろう騒ぎの話をされた。

 これでどうして機嫌が良いのだ⁉︎


 更に話を聞くと、それによってシュバリエ公爵家カタリーナ嬢の婚約が破棄寸前で、元から思い合っていたマティアス殿と上手くいきそうとの事。

マティアス殿の新たな婚約者はそれでいいのか⁉︎ というか、普段ならそのような事に不快感を示すだろうアルフレッド様が、それを聞いても機嫌が良いとは……⁉︎


 そう少し不審に思っていたある日、従者のブレットが慌てて私の元に来た。

 大変興奮しており、どうしたのか尋ねると、

『アルフレッド様が……! 伯爵令嬢をお姫様抱っこでベッドまで運んで、それで……!!』


 おい、何を言っている⁉︎

 我らが敬愛するアルフレッド様が、その様な軽薄な事をなさるはずがないだろう……!?


 少し落ち着かせてよくよく話を聞くと、どうやら具合の悪くなった令嬢を、娘付きの従者がいたにも関わらず、やはり『お姫様抱っこ』で自らの馬で屋敷まで連れてやり、屋敷の者が運ぶと言っても聞かずそのまま、ベッドまで! 運んでいったそうなのだ……。あの、アルフレッド様が!!


 私は驚愕きょうがくした。


 あの……、アルフレッド様が!!


 どんな美女にも心動かされず、今までにもアルフレッド様の目の前で倒れて見せた令嬢など山程いたが、完全スルーか周りの者に託して終わり、だったあの『難攻不落なんこうふらくの公爵』が!!


 みずから令嬢の身体を気遣い、抱き上げ愛馬に乗せ令嬢の屋敷どころかベッドまで連れて行くなんて!

 ブレットいわく2人はとても良い雰囲気で、令嬢の弟が「新婚夫婦みたい」と言う程だったらしいのだ!


 これは……。アルフレッド様が、初めて望まれた事なのだ……!


 私は決心した。


 必ず、アルフレッド様の想いを遂げさせる事を――。


お読みいただきありがとうございます。


ブレットもノーマン公爵に惚れ込んでいますが、多分フィリップはもっとです。

そしてリリアンヌは彼らにロックオンされてしまいました。

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