32 『夢』の行方
「じゃあ、公爵様が姉様をお好きというのは決定、という事で」
呑気に宣言したニコラスに、大人達は慌てた。
「な……何を言ってるんだ! 好き……などと!
公爵様は、リリアンヌを……、そう、気に入ってくださっている!
リリアンヌの婚約者のマティアス様もノーマン公爵様のお気に入りだそうだからな! その婚約者であるリリアンヌも気に入ってくださっている! それだけだ!」
父がそう言えば母も、
「そうね! 公爵様は博愛主義と有名よ! 色んな人々に平等に接してくださる方だと民の評判も非常に良いわ!
皆にお優しい方なのよ! きっと!」
「そうでございますね。戦争で死線をくぐり抜けたお方ですので、具合の悪い方がいらっしゃったら放っておけず、あの様に懇切丁寧に対応されるようになったに違いありません」
執事のセバスまでそう言い出した。
というか、自分達もノーマン公爵の思いに気付いた癖に、大人って都合の悪い事は分からないフリをするんだな、とニコラスはため息を吐いた。
そう、皆思っていた。
リリアンヌが生まれた日に見たあの『夢』の、『高位の者に望まれる』、その『高位』の者とは――。
もしやと思いつつ、今更とてもじゃないが言い出せない、カールトン一家なのであった――。
~~~~~
「アルフレッド様。本日は、市井で何やら興味深い事がおありになったようで」
14年前の戦争時より共にいる副官のフィリップが意味ありげな顔でそう言った。
そう来たか……と、アルフレッドは苦々しく思いながら口を開く。
ここは王宮のノーマン公爵の執務室。
王弟アルフレッド ノーマンは昼間の街の視察を終え、明日の会議の為に王宮に戻り溜まった書類を見ていた。
「興味深いとは……? 娘が目の前で体調不良になったのだ。心配するのは当たり前であろう?」
今日の従者ブレットがフィリップに報告したのだろう。
彼も悪い男ではないのだが、随分自分に心酔し過ぎているきらいがある。
リリアンヌの事を悪く言ってはいまいか……?
「心配、ですか……。聞くところによりますと、娘の家の従者がいたにも関わらずそれを断り、自ら市井でいう『お姫様抱っこ』とやらをして、馬を駆け伯爵家の娘の部屋のベッドまで連れて行ったとか……」
「ちょっと待て。なんだ、その『お姫様抱っこ』というのは。そして……『ベッドまで』……というのは、何やら誤解を生む言い方ではないか」
すかさずフィリップをとめるアルフレッド。
言葉にすると余りな言い方に止めはしたのだが……。
「違うのですか? 『お姫様抱っこ』とは、まあ『横抱き』の事ですね。そして、娘をベッドまでお運びしたのではないのですか?」
どこまで運んだか、といえば、それは『ベッドまで』だ。それは間違いではないのだが……。
「…間違いではない。だが、体調不良の娘を運んだのだ。不埒な思いなどあろう筈がない」
「それでも言葉にすれば先程の通りです。それを聞いて周りがどう思うかは……、想像できますでしょう?」
言い訳をするアルフレッドだが、フィリップは切って捨てた。
「…話は広まったのか?」
「…いえ。ブレットには私以外に話すな、と。他の者に伝わればアルフレッド様に悪評がたつ事になると言いましたので、話す事はないでしょう」
ブレットはアルフレッドに心酔している。家族を人質に取られたとしても話す事はないだろう。
剣呑とした雰囲気が少し緩んだところで、フィリップはまた爆弾を投げ込んだ。
「アルフレッド様にその様なお相手が出来るのは誠に喜ばしい事。我ら臣下一同待ち望んでいた事でございます。が……。婚約者持ち、というのはいただけませんね。
まあマティアス殿は貴方様相手なら身を引いてくれそうですが……」
「待て。先程からお前は暴走しすぎているぞ?
その様な相手って、リリアンヌ嬢は今のところマティアスの婚約者で……。
そして私とは14歳も年が離れているのだぞ?
彼女も私の事をそのようには見れまい」
言いながら、アルフレッドは自分が落ち込んできているのに気が付いた。何故自分の言葉に自分で傷付く?
「まあ、貴族の結婚など14歳差などザラですけれどね。
場合によっては親子以上に年の離れた夫婦もおりますし。
しかしマティアス殿と言うと……。例の件で、今の婚約者とは……?」
自分の腹心の部下だ。例の卒業パーティーの件は話してある。
「あぁ。可哀想な事だが、婚約は白紙となるだろう」
「…それは手間が省けて、ようございました。
パーティーまであと約2週間。今はパーティーに向けて全力を尽くしましょう。
ご褒美が貴方様のお気に入りの娘であれば、やる気も出るでしょう?」
余りな言い方にアルフレッドは眉を顰めた。
「何やら大きな誤解をしているようだが……。
だいたい『ご褒美』とはなんだ。彼女は悲しい思いをする事になるのだぞ?」
「そこを貴方様が優しく包み込んで差し上げればよろしいのです。良い舞台が出来、我らも嬉しゅうございます」
しれっと答える副官に、何やら話が通じず困惑するアルフレッド ノーマンであった。
お読みいただきありがとうございます。
カールトン伯爵一家は、侯爵家との婚約を決めてしまって『夢』に逆らう事になってしまうので、ノーマン公爵の気持ちに気付く訳にはいかなくなってしまいました…。




