17 王子の元婚約者
「ソドムス侯爵家、レナルド殿ですか……」
マティアス様も呟く。
「? お2人共ソドムス様をご存知なのですか?」
そりゃ知ってはいらっしゃるのだろうけれど、なんだかそれだけではない反応よね?
「あぁ、それはまぁ……。それよりソドムス殿の何が気になるんだい?」
ノーマン公爵は言葉を濁した。ちょっと気になるけど……。
「はい。…私実は第2王子様周辺の様子を窺うのに少し見過ぎてしまっていたようで……」「! 彼らに何かされたのかい⁉︎」
ノーマン公爵が身を乗り出して聞いてこられた。
私は慌てて答える。
「いえっ! 何もされておりません! …というか、結構周りの方々も遠巻きにしながらもきっちり彼らを観察してらっしゃるので、私が特別酷い程でも無かったとは思うのですが……」
ノーマン公爵はほっとしたかの様に息を吐きながら、椅子の背もたれに背中を預けられた。
「もしかして私が最近カタリーナ様と交流していたのをご存知で、余計に目に付いたのかもしれませんが……。
…何日か前に、保健係で一緒のソドムス様とたまたま2人になった時、言われたのです。
『思いを告げるつもりがないのなら、貴女の熱い視線に周りが気付かない様に気を付けた方がいいですよ』と……」
「思いを告げる? 熱い視線? それは言葉通り君が第2王子か周りの誰かを好いていると思っているのか、それとも……」
マティアス様が不審そうに考えながら言った。
「そうなのです。私も一瞬勘違いされたのかしらと思ったのですけれど……。
『今のところ私以外気付いてないので大丈夫ですよ。けれども今は怪しまれて巻き込まれない方がいいでしょう?』
と……。不躾な態度をとってしまい申し訳ございません、と言いましたら、
『気を付けてね』と笑顔で去って行かれたのです。
私はあの方々ってもっとピリピリなさってるというか、近づいたり怪しげな事をした者には、もっと攻撃的な態度をなさると思っていましたので、かなり意外でしたの」
そう伝えるとノーマン公爵は頷きながら、
「確かに。王子達周辺の者に気付かれると巻き込まれるから注意しなさいと忠告してくれた、と感じるね。しかも『熱い視線』との言い方で君に悪意が無いものとしてくれている。
…周りの報告からは、彼らは自分達以外の者を敵か都合の良い存在としてしか思っていない様だと聞いていたのだが……」
マティアス様も考え込みながら答える。
「はい。王子の側近達を調べましたが、彼らは学園に入り側近となってからはかなり傲慢になり周りの忠告等聞かなくなっているようです。そしてそれは子爵令嬢と一緒にいる様になった1年程前から更に酷くなったと……。
ただ、ソドムス殿は学園以外での評判はそう悪くはありません。そもそも彼は約3年前に急遽侯爵家の養子となりましたから……」
養子? それも急遽? 何があったのかしら……。
私が? な顔をしていると、
「ソドムス侯爵家の1人娘ラウラ嬢は約3年前、流行り病で亡くなったのだ」
ノーマン公爵が答えてくださった。
流行病…!
4年前この国を襲った恐るべき災い。
忘れはしない。我が伯爵領も大切な民をたくさん失った。後遺症の残る人もたくさんいる。そして私の幼馴染サリアの婚約者もこの時亡くなったのだ。
それにしても、ノーマン公爵は流石ね。3年前に亡くなった侯爵令嬢のお名前もちゃんと覚えておられるなんて。
「…彼女は、第2王子ルーカスの婚約者だった」
…えっ⁉︎ えぇーーっ!!
私は驚いて思わず手で口を押さえた。
カタリーナ様と婚約される前、侯爵家の婚約者がいらしたと聞いた事はあった。亡くなられたとは聞いていたけれど、まさか現在側近として第2王子の側にいるレナルド様のソドムス侯爵家令嬢だったとは……。
「ラウラ嬢は1人娘で、ルーカスは侯爵家に婿に入るはずだった。だが彼女が亡くなった事で当然その話は白紙となった。その後、遠縁より養子に入られたのがレナルド殿だ」
ノーマン公爵が説明してくださった。
そこにマティアス様が補足する。
「レナルド殿は、元々ルーカス様が侯爵家に入られた際のサポート役となるべく、幼い頃から侯爵家で研鑽をつまれていたそうです。ラウラ嬢とも兄妹のようにお育ちになったようで。
次期侯爵と決まってからは、ソドムス侯爵よりルーカス様の側近となるべく教育されたと聞いております」
お2人の説明を聞き、私は何だかモヤモヤした。
微妙な顔つきをする私にマティアス様は、
「当初周りもそんな思いだったみたいだよ。そんな複雑な関係でお側にいたいものか? と同情する者。
元婚約者の家とはいえ、令嬢が亡くなられた事で王家と縁戚になり損ねたので、レナルド様はむしろ、棚ぼたで得た地位を更に生かす為敢えて側近となられたのか、等と言う口さがない者など、色々言われていたらしいよ」
「「何だか身も蓋もない言われ方だ(です)ね……」」
何故だかノーマン公爵とハモってしまった。
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