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第21話 〈キノコ狩り!!〉

 

 ついにこの時期が来た。


 俺の大好物であるキノコの王様、冬マツキノコの採集依頼がクエストに混じり始める季節だ。

 本来ならば、もう少し後の季節なのだが、ここフーバスタン帝国は北国なので、ほかの大陸よりも早く採集依頼が出てくるらしい。


 もちろん転職(ジョブチェンジ)前はキノコ狩りなんて悠長にやっている暇はなかったから、いつも買って食べるばかりで、実際に引き受けるのは初めてだ。



「き・の・こ〜、キ・ノ・コ〜。冬マツキノコの美味しい時期がやってきましたよ〜」


「待ちに待った季節が来たな!」


「美味しいわよね。私は焼きマツキノコが好きだわ」


 ほう……ミレーヌは、冬マツキノコの"食感"を最大限楽しめると言われる焼き派か。



「私はやっぱり冬マツのポットスープですね〜」


 アンナは"香り"を最も楽しめると言われるスープ派か。

 ポットで作る事により香りを閉じ込めてあり、蓋を取った時の香りの爆発(ビッグバン)は確かに堪らないものがある。



「アッシュさんは、どんな食べ方が好きですか?」


「俺か? 俺はやっぱり炊き込みライスだな。"味"を最大限引き出す食べ方だと思う」


「何言ってんのよ? 冬マツキノコは"食感"を楽しむ食べ物よ!?」


「違いますよミレーヌちゃん。冬マツキノコは"香り"を楽しむんですよ? 『香り冬マツ味シメジ』って言葉知らないんですか!?」


 やめろアンナ。

 ミレーヌが知っているはずがない。



「とにかくだ! 俺は絶対に冬マツキノコ狩りに行くんだ!! 調理法の好みはバラバラだが、冬マツキノコを愛する気持ちは、お前らも同じはずだろう!?」


 アンナとミレーヌは静かに頷く。



「ならば例え【D】ランククエストだとしても、行くしかないのは分かるな!?」


「そうね」

「ですね〜」


「よし……」


 俺はクエストボードから、Dランククエスト[冬マツキノコの採集]の依頼を静かに剥がした。



「じゃあ、手続きしてくるから」


 そう言って受付のベティに依頼書と冒険者カードを提出する。



「あら、今回はキノコ狩りですか? 冬マツキノコ美味しいですもんね。私も食べたいですー」


 俺達がDランククの依頼を受ける事に気付かないようではまだまだだな……冬マツキノコのお土産はまだ早い、お預けだ。


 依頼の受注手続きも滞りなく完了して、俺達はギルドを出た。



「明日の朝は早い……遅刻厳禁で頼むぞ。それに現場は寒い可能性が高い。普段よりは暖かい格好をしてくる事! 後は各自の判断で必要と思う物を準備しておけ!」


「ラジャ!」

「了解!」


「では解散!!」



 俺達はいつになく真剣だった。

 それだけ、シーズン初の冬マツキノコに本気だったのだ。


 俺はこの後街を巡り、防寒着と冬マツキノコを入れるカゴを買って帰り、クエストに備えて早めに就寝した。




 翌朝、俺は一番に集合場所の竜着場に着いた。

 アンナは同じ宿に泊まっているので、声を掛けても良いのだが、S級冒険者たるもの人に起こされているようではダメなのだ。


「クルル〜」


 俺は愛飛竜パージの世話をしながら二人を待つ。

 パージもとても嬉しそうだ。



「おはようございます〜」


 アンナだ。

 やはり元は聖職者であったために朝早いのも平気なのだろう。

 すぐさまレイムズの世話を開始する。



「お待たせ〜。よいしょっと!」


 最後に来たのは予想通りミレーヌだが、何やら大きな重そうな荷物を背負っていて、テイムモンスターのクッキーまで小さなリュックを背負っていた。



「その重そうな荷物は何だ?」


「それは後でのお楽しみよ」


 俺の訝しげな表情を見ても、全く気にもせずに平然としている。



「おっきくて重たそうですね〜。クッキーまでリュック背負っちゃって〜」


「アンタ達は、この私の荷物に後で涙を流して感謝する事になるでしょうね」


 ミレーヌのこの自信……嫌な予感しかしない。



「まあまあ、出発が遅くなってもあれですし、早く行きましょう」


「なあミレーヌ。ブーの世話ちゃんとしてるのか?」


 ブーとはミレーヌの飛竜の名前だ。



「失礼ね。ちゃんとしたわよ昨日」


 オイ、飛竜の世話は毎日するものだぞ。

 こんな主人に飼われてクッキーやブーが可哀想だ。

 この間のクッキー逃走事件といい、本当にコイツに生き物を飼わせていいのだろうか?

 俺はなんだか恐ろしくなった。



「そんな事だろうと思って、俺がブラシ掛けてエサあげといたぞ。なあブー?」


「クックル〜」


 主人のミレーヌより、俺やアンナに懐いているって異常事態だと思うんだけどな。



「あら? 気が利くわね。ならすぐに出発しましょう」


 そう言って颯爽とブーに乗り込むミレーヌを見て、俺はため息しか出てこなかった。



「オイ、クッキー……お前の飛竜はアッチだぞ?」


 何故かクッキーがパージに乗り込んでいる。



「クッキー! コッチよ!」


 クッキーは動かない。



「……この前乗せたのが楽しかったのかな。仕方ないから俺が乗せて行くよ」


 こうして俺達を乗せた、三頭の飛竜が大空へと舞い上がった。

 今日キノコ狩りに向かうのは、帝都メストから飛竜に乗って約二時間の場所にあるレイホウ山の麓に広がる松林だ。




「さっむー!」

「凍えました」


「だから防寒着持って来いって言ったろうが? 高度が上がれば寒いし、飛竜が飛べは寒い事くらい分かるだろ?」


「言われてみればですね〜」

「…………」


 ミレーヌには少し難しかったか……しかし、コイツのバカさ加減が、ドンドン酷くなっていってる気がするのは俺だけか?



「私は上着を持って来てるんですけどね〜。カバンの一番下に詰めちゃって……流石に飛んでる時には取り出せませんでした」


 アンナはアンナで相変わらずのトロさだ。

 前にも思ったが、こんなんで良く俺たちは魔王を倒せたもんだ。

 そりゃ転職(ジョブチェンジ)前だったから、ミレーヌもアンナもトロかったけどバカではなかったからな。



「ほらよ」


 そう言って俺は、サブの防寒着をミレーヌに投げて渡す。



「あ、ありがとう」


「アンナもさっさと上着着ろよな。俺は早くキノコ狩りをしたいんだ」


 当初の目的を思い出した知力F&Gコンビが急いで着替えた。



「では行くぞ!」


 いつものように飛竜の尻を軽く叩き、自由行動させて置く。



 そしてレイホウ山の松林で、ようやく俺たちのキノコ狩りが始まった。


「いいか、ここは冬赤松の単相林だ。冬マツキノコの実績も高いらしい。西日の当たりそうな場所を探せ。根元にしか生えないわけじゃないからな。踏まないように地面をしっかりと見て探せよ」


 俺は本で得た知識を惜し気もなく披露する。



「ラジャ!」

「任せなさい。誰が一番取れるか勝負しましょ」


「フ……望むところだ」


 俺は松林に入り探し始めると、運の良い事にすぐさま一本目を見つける事が出来た。



「ふ、ふおぉぉぉ……この、茶色いボディに頭だけ雪化粧をしたかのような、可愛いぷっくりとしたフォルム……くんかくんか……なんとかぐわしい香りか……早く食べたいですぞ〜!」


 俺は買っておいたカゴにそっと冬マツキノコを寝かせた。

 そしてキノコ狩りへと戻る。




 ──四時間後──。



「初めてキノコ狩りしたんで〜、これが多いのかどうかが、わかりません」


 アンナのカゴ一杯に冬マツキノコが入っている。

 アンナの採った冬マツキノコだけで依頼は達成出来るだろう。



「俺も知識ばかりで、勝手を掴むまでに時間は掛かったが、20本程見つけられたぞ。この松林は今シーズンまだ手付かずだったぽいな」


 俺もアンナほどではないが、初めてにしてはたくさん採れたと思う。



「おかしい……おかしいわ。こんなの絶対におかしいわよ!」


「どうした?」


 そう言いながらミレーヌの大きなカゴを除いたら、一本の冬マツキノコがコロンと転がっていた。



「なんでこんなに差が付くのよ! 絶対おかしいわ……どうせアッシュが何かしたんだわ」


 人のせいにするのはよせ。

 答えはおそらくお前のパラメータにある。

 俺とアンナは運がB。

 そしてお前の運はE。

 そしてトドメに知力Gだ。


 ただでさえ知力も低いのに運まで悪いとは……ドンマイ。



「自然が相手ですからね〜。どうしたって運にも左右されちゃいますよね〜。ドンマイです〜」


 アンナもミレーヌの運が悪いので分かってて言ってやがるな……悪い奴だぜ。



「まあまあ、持って帰ったら分けて食べるんだから誰が採っても同じだろ!?」


「……いやよ!! せっかく大荷物持ってきたのに!」


 力SSなのをいい事に、そんな大荷物を背負っているから、冬マツキノコが見つけられないんだと思うぞ。



「私が何のためにコレを持ってきたと思ってるの?」


 そう言い、自信満々な顔で下ろした荷物の包みをほどく。

 なんと中から出てきたのは、七輪だった。



「…………」

「…………」


 なんも言えねえ。



「さあ、七輪で炙って採れたての秋の味覚を頂きましょう!!」


 ちなみにクッキーが背負っていた荷物が炭だった。



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