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第20話 〈休日!!〉

 

「ベティさーん。こんにちは〜」


 冒険者ギルドの受付で、馴染みの職員ベティを呼ぶ。



「あら、アッシュさん、こんにちは。今日はお一人ですか?」


 俺の近くにアンナとミレーヌがいない事に気が付いたのだろう。



「ええ、今日はパーティーの活動は休みにして、二人は買い物行ってます」


「イレーネさん、早速お二人と打ち解けたんですね」


 イレーネとはミレーヌの冒険者カードに書かれる、女神インティーナ様の力で偽装された名前だ。



「いや、俺たち元々知り合いなんですよ。再会は偶然なんですけどね」


「ええ!? そんな事あるんですね〜。それより今日はどうされました?」


 今日冒険者ギルドに来た目的は、薬草の調合依頼だ。

 俺は担いでいた薬草がパンパンに詰まったリュックをカウンターに下ろし、ベティに中身を見せる。



「コレを錬金術師にポーションに調合して欲しいんですけど……」


 道具屋に行けば普通のポーションなら簡単に手に入るが、調合師や錬金術師に調合してもらった方が安く済むのだ。

 別に金をケチって調合に出すわけではない。

 錬金術師に調合をしてもらった場合に限り、通常のポーションよりも品質が上がる事があるのだ。


 回復手段を持たない俺たちパーティーは、ポーションなどの回復薬が生命線になるため、少しでも品質の良いポーションを手に入れるため、わざわざ手間をかけて薬草を採集して錬金術師に調合に出すわけだ。



「錬金術師への調合依頼ですね……それがですね……今、錬金術師の方達で空いてる人がいないんですよね〜」


「え?」


「それがですね……」


 ベティの話では、フーバスタン帝国の他所の地域で魔王軍残党とフーバスタン軍の戦闘があったらしい。

 魔王軍残党をなんとか退けたフーバスタン軍も、かなりの被害が出たらしく、ポーションがフーバスタン軍に優先的に回されている状況らしい。

 そして国中の錬金術師を総動員してポーションの調合が行われているらしいのだ。



「そうかぁ……タイミングが悪かったなぁ。仕方ない、出直します」


 そう言って俺がリュックを担ぎ直そうとした時だった。



「え、アレ? アッシュさん、待ってください!」


「ほえ?」


 急に呼び止められたので、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。



「一人、一人だけ空きがありました。ボンズという錬金術師の方が空きがありますね。どうされますか?」


 俺としたら錬金術師であれば、誰に調合してもらっても同じなので、二つ返事で依頼する。



「はい、確かにお預かりします。納品予定は一週間後ですね。支払いは受取りの時にお願いします」


 俺は依頼票の控えを受け取る。



「じゃあベティさん、ヨロシクね」


 そう言って俺は冒険者ギルドを出た。




「さて、天気も良いし久々にパージと空の散歩でもするかな」




 ◇ ◇ ◇ ◇



「ミレーヌちゃん、コレなんてどうですか?」


「うーん……あまりヒラヒラしたのは趣味じゃないのよね」


 そう言ってミレーヌちゃんは、シンプルなデザインの服を手に取る。



「ほらまたシンプルなのにする〜。たまには違う感じの着てみましょうよ〜」


「いやよ、アンナこそゆったりしたのばかり着ないで、たまにはタイトな服着てみたら?」


「……着れないの分かってて言ってるでしょ。胸が苦しいんですよ!」


「アラ、羨ましい悩みですこと。オホホ」


「私はミレーヌちゃんみたいなスタイルに憧れてますよ? 私なんて可愛いデザインの服も不自然な歪な形に変形して見えちゃうんで……」


「アンタ、嫌味で言ってるでしょ」


 二人の好みもスタイルも違うので、お互いの提案がなかなか受け入れられない。



「服はやめにして、ご飯にしない? 私お腹空いちゃった」


 そう言ってミレーヌちゃんがお腹を押さえる真似をする。



「ミレーヌちゃんは相変わらずですね〜。でも、いつまでも外でクッキー待たせておくワケにも行きませんからね」


 そう言い私達は見ていた服を置き店を出る。

 すると、外に繋いでいたはずのミレーヌちゃんのテイムモンスター、タイニーウルフのクッキーの姿がない。



「あれ? あれれ? クッキーは!?」


「私が知るわけないじゃないですか!? ミレーヌちゃん、ちゃんとリード結びました?」


「結ぶ? 何で?」


 私は一気に膝から崩れ落ちた。



「いくらテイムモンスターでも、一緒にいない時は安全確保のためリード付けるのは当然じゃないですか! リードで繋いでおけないテイムモンスターはクエスト時以外は連れて歩いちゃいけない程なんですよ!?」


「へ〜、そうなんだ!?」


「そうなんだじゃないですよ〜。魔獣使い(テイマー)がそんなんでどうするんですか〜。今この瞬間にもクッキーが誰かを攻撃してたらどうするんですか? 責任取れるんですか!?」


 やっとミレーヌちゃんが事の重大さに気付いてくれた。



「やだ!? どうしよう? クッキー! クッキー!!」


 ミレーヌちゃんが呼んでもクッキーは帰ってこない。

 私達はクッキーを探しながら名前を呼び続けた。



「ミレーヌちゃん、鞭! 鞭で合図すれば帰ってくるかも!」


 それだ!! と言わんばかりの顔でミレーヌちゃんが『嬢王の鞭』を取り出した。



 パシィーーン! パシィーーン! パシィーーン!!


 ミレーヌちゃんがクッキーの名を呼び、鞭を地面に叩きつけながら歩く。


 パシィーーン! パシィーーン! パシィーーン!!


 私はクッキーを探すのに夢中で気付いていなかったけど、この今の状況はかなり変なのでは?


 鞭をしならせ叩きつけながら練り歩くミレーヌちゃんを見て、街の人々が頭のおかしな奴が来たとばかりに離れていく。

 つまり、その頭のおかしいミレーヌちゃんと一緒に歩いている私まで、同類と思われてしまっていた。



「あ、あのね、ミレーヌちゃん。このまま一緒に探していても効率悪いから、私はコッチ探してくるね」


 今は一刻でも早く、ミレーヌちゃんから離れなきゃ!



「お願いねアンナ。15分くらいしたらさっきの服屋の前で落ち合いましょう」パシィーーン!


「う、うん。じゃあ後で!」パシィーーン!


 脱兎の如く私は逃げた。

 盗賊(シーフ)の俊敏性が高くて良かったと、この時ほど思ったことはない。



「早く、早く見つけなきゃ今後のパーティーの活動にまで支障をきたしちゃう」



 パシ……パ……ン。

 遠くで鞭の音が聞こえる。


 活動に支障をきたすような噂が広まっちゃったら……そんな事になったら、アッシュさんになんて言われるか……。



 その後も探し続けたけど、努力も虚しく私はクッキーを見つけられなかった。

 15分が過ぎ、私はミレーヌちゃんとの待ち合わせの服屋に戻った。


「ミレーヌちゃん! いた!?」


 先に集合場所に来ていたミレーヌちゃんに尋ねる。

 だけどミレーヌちゃんは力なく首を横に振るだけで、鞭ももうしまっていた。



 私達は、昼ごはんも食べずにクッキーを探したけれど、結局見つけられなかった。


 最後にどうしても、空から探すとミレーヌちゃんが聞かないので、私達は竜着場に向かって歩いていた。


 するとなんと遠くの方から、アッシュさんとクッキーがこちらに向かって歩いてきた。



「クッキー!」


「ワン、ワン、ワン!」


「良かった〜」


 ミレーヌちゃんに抱かれるクッキーを見て、私は全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。



「それにしても何でアッシュさんがクッキーと一緒にいたんですか?」


 私はアッシュさんに疑問をぶつけてみた。

 事と次第によっては、アッシュさんに一言文句を言う覚悟だ。



「あ? それは俺のセリフだぞ? 俺がギルドに薬草預けて……」


 アッシュさんによると、ギルド帰りに竜着場に向かっていると、どこからともなくクッキーが走ってきて戯れてきたと。


 辺りを見回しても私達の姿が見えなかったから、仕方なくクッキーも空の散歩に連れて行っていたそうだ。

 そして今に至ると……。



「アッシュのバカ! 間抜け! クッキー見つけて私が居なかったら、私を探しなさいよ!」


「無茶苦茶言うんじゃねーよ。そもそもテイムモンスターに逃げられてるんじゃねーよ」


「アンタがすぐクッキー連れて来てくれてたら何の問題もなかったのよ!!」


 ミレーヌちゃん……問題は大アリでしたよ。



「ミレーヌちゃん、今日の所は素直に謝ってから、御礼を言いましょう」


「ちょ、アンナ裏切るの!?」


「裏切るも何も、私達が全面的に悪いですよ」


 本当はミレーヌちゃんだけが悪いんだけど、こうでも言わなきゃミレーヌちゃんの性格からして謝らないからな〜。



「アッシュ……ごめん助かったわ、ありがとう」


「お、おう」


 素直に感謝されるとアッシュさんは思っていなかったらしく、ドキマギしている。



「アッシュさん、私達がご馳走しますのでご飯食べに行きましょう」


「いいのか?」


「良いんですよ」


 ミレーヌちゃんは私に何か言いたそうだったが、いろいろ葛藤してから我慢したのだと思う、何も言わなかった。


 この後私達は、いつものメンバーで夕食を食べに行ったのでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 普段はちゃめちゃでもちゃんと仲間なのすごくいい関係
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