マサヒコの記憶消去 後編
事件の放課後。ぼくは沙織さんに事件のことをかいつまんで教えた。
意外とサオリさんはこういった話が好きらしい。話題づくりのために出した今日の出来事だったが、サオリさんは何かに興味を持ったようだ。
「マサヒコの話を聞くといくつかおかしいと感じるところがあったんだけど。
まず、1つ目は事件の真相のことじゃないんだけど……小学校の教室で子猫の死体が見つかる、おまけに残酷な方法で殺されている。これだけの事件が起きているのに、騒動が大きくならなかった?先生から登下校に注意するだけ?クラスのみんなも落ち着きを取り戻す?……普通じゃないと感じるのは私だけかな?」
サオリさんが小説の中の探偵のようなことを言い出した。サオリさんもこういったものに憧れる歳なのかもしれない。となるとぼくはその助手ということになるのかな。
「ぼくも不思議には思いましたよ。学校側は大事になるのを嫌がったんじゃないですか?結果として、ぼくら生徒側のほうも過度に心配することはなかったんでよかったと思いますよ。」
「そういうものなのー?まぁ、この件は後でいいや。…じゃ次は二つ目ね。
これは勘なんだけどマサヒコ、もしかしてもう犯人知っているんじゃない?」
……正直、これまでの話だけで真相に近づくとは驚いた。といってもこの言い方じゃあぼくが犯人みたいじゃないか。まぁ共犯者ともいえない事もないから何も言えないけれど。
「マサヒコの記憶消去能力って任意の人物から任意の記憶を消せるって言ってたよね?これってつまり他人の記憶を自由に見ることができるってことでもあるんだよ。」
サオリさんはぼくを責めるでもなく、いつものぼくを見る表情をして言った。
「ここからは想像だけど、マサヒコが頻繁に使っている『大事にしたくない』ってもう完全に事件は解決してるから蒸し返して欲しくないって意味なんじゃないかと思ったんだ。」
「ぼくが猫を殺したと?」
「そんなこと思ってるわけないじゃない。あんたと何年一緒にいると思ってるのよ。
だけど何かこの事件に細工は施したんじゃない? “大衆の操作”とか。
事件の真相と知っていること全て、そしてなぜそんなことをしたのか教えて。」
最後だけサオリさんは少しだけ寂しい顔をした。
これ以上分かってしまっては真相を話す方が後々いい気がする。誤解されて嫌われても嫌だし。
ぼくはこの事件の全てを語りだす。
「結局、そんなにたいした事件じゃなかったんですよ。
猫が死んだ理由はただの交通事故だったんですから。
朝の登校時に見たときもまだ道路に血のあとが残ってましたよ。気付きませんでした?交通事故ってことだけで済めばよかったんですけど、問題はそこからで猫の死体を動かした人間がいるんですよ。猫が発見された時、出血量が少なかったのはこのためだと思いますね。」
ここからは真相を語るのが難しくなってくる。なにせもう覚えていない、記憶が虫食いのようになっている状態で話さなければいけないのだから。
「正直、誰が運んだかはクラスメイトの誰かということしか分からないんですよ。
その人との約束でぼくの記憶から消去してしまったので。
最初から説明すると…仮に猫の死体を運んだクラスメイトをAさんとします。Aさんは朝学校に来る前、猫の死体を発見して埋めてあげるためか分かりませんが、教室に猫の死体をを連れてきてしまったそうです。
その後他の生徒に死体だけ見つかり、あんな騒動になってしまうわけですが。そしてAさんは言い出せなくなり黙り込むしかなかった…というわけです。」
今となってはもう覚えていないけれど、忘れろとお願いされて実際に自分から記憶を消したのは早計だったかな。お願いされて断れないのがぼくの悪い癖だ。
「ぼくは学校のほぼ全員の記憶を見ていたので、Aさんの記憶を見てこの事件のほぼ全てを理解しました。その後、ぼくはたぶんAさんに話しかけ、先生にすべてを言うように励ましたんだと思います。その辺はあまり覚えてませんが。
そしてまぁぼくはAさんの境遇が可哀相になりましてね、お願いされたこともあって自分の記憶からAさんを消去したんですよ。ついでに事後処理として全ての学校関係者の記憶から、この事件を完全に消えない程度に消去したんですよ。サオリさんの疑問だった、騒動が大きくならなかったのはこのせいなんですよ。すいません。」
これが全ての真相だ。
分かってしまうとあまりにも単純な事件だった。
ぼくが少し事件に関わりすぎている気もするが、この程度ならサオリさんも許してくれるだろう。
しかしサオリさんは何の反応も見せず、ただ何かを考えているようだった。怒っているようにも悲しんでいるようにも見えない。
しばらく無言だったが、サオリさんは再び話し始める。
「これは想像なんだけどね…推理でもなく、こういう可能性があるというだけなんだけど…
マサヒコの言っている真相だとAさんには子猫の死体を教室内に運び込む理由がないんだ…
ついでに言うとマサヒコに事件について忘れるように言うのもおかしいことじゃない?
事故が起こったのは本当かもしれないよ。
でも『Aさんの本当の目的は猫の死体を家まで持ち帰ろうとしていた』と考えれば少しは自然に思えるんだ。」
ぼくは今更にして自分がやったことに後悔する。Aさんはなぜこんなことをしたんだ?考えれば考えるほど最悪なことばかり想像してしまう。サオリさんの考えが本当なら、クラスメイトの中に死体集めを趣味としてる人間がいることになる。いったいAさんは何者なんだ。男か女かそれさえもわからない。失った記憶はもう戻らないのだ。
完全に気が動転しているぼくにサオリさんは優しく声を掛けてくる。
こういうときのサオリさんは優しい。
「大丈夫。マサヒコはまだ小学校4年生だよ。これから失敗しなければ良いんだから。
あとは中学生の私がすべて片付けてやるんだから。」
後編・完
拙い作品だけど読んでくれたらありがとうございます。
次はSFかバトル、ハーレム物を書いてみようかな。




